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婚約破棄された公爵令嬢を辺境へ連れ帰ったら、俺の領地が王国で一番幸せになりました!?  作者: ぱるめりあ
第五部 幸せを守るための反逆

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第64話 王都へ

「王都へ進みます」


 俺が言うと、作戦会議室の全員が黙った。


 決断の言葉は短い。


 その後に必要な仕事は、まったく短くない。


「目的を確認する」


 ガレスが地図へ手を置く。


「王宮の占領か」


「違う」


「王太子の拘束」


「必要になれば。ただし、最初の目的ではない」


「では何だ」


「市民への鎮圧を止める。穀物倉庫と配給所を守る。王国軍へ違法命令の証拠を届ける」


 マリアンヌがうなずく。


「兄上へ、公開の場で説明を求めます」


「応じなければ?」


 アニエスが聞く。


「王都の市民と地方代表が集まる協議の場を作る」


「王家が認めなくても?」


「認めさせる力を、今から運びます」


 三千人。


 だが、全員を前へ出すわけではない。


 ガレスが地図へ隊列を書き込む。


「先行は五百。街道の安全確認と橋の確保」


「王国軍と遭遇したら」


「先に交渉。向こうが攻撃すれば防御」


「本隊は?」


「八百。残りは補給路と領地守備」


 アニエスがすぐに反論する。


「八百を一度に動かすと、食料が足りない」


「荷車は百二十ある」


「馬が全部同じ速さで動くと思わないで」


「では何台」


「前方六十、後方四十。残りは往復」


「少ない」


「道幅を考えて」


 二人が言い争う。


 俺は止めなかった。


 今は、正しさを競ってもらう方がいい。


「炊事隊は二百人に一班」


 アニエスが言う。


「火を使える場所は、街道沿いの宿場だけ。野営で毎回煮炊きしたら進まない」


「乾燥パンを増やす」


「水が必要」


「井戸の位置は?」


「この地図へ記録済み」


 セラフィーナが別の紙を重ねる。


「各町の井戸、倉庫、宿泊可能人数です」


「交渉は誰が」


 俺が尋ねる。


「私とマリアンヌ殿下」


「セラフィーナ様を前線へ出すのですか」


 マリアンヌが不安そうに言う。


「私だけでは、王太子の不正記録を法的に説明できません」


「危険です」


「王都へ戻る以上、安全な場所はありません」


 彼女は静かに答えた。


「ですが、護衛と退路は必要です」


「俺が」


「アレンは全体指揮です」


 即座に止められた。


「隣にいると言ったのに」


「隣に立つことと、常に同じ場所へいることは違います」


 正論だ。


 少し寂しい。


「俺が交渉団へつく」


 ガレスが言う。


「お前は?」


「副隊長へ先行を任せる」


「大丈夫か」


「任せられない者を副隊長にしていない」


 信頼は、役割を渡すことでも示される。


「アニエスは補給」


「当然」


「前線には」


「行かないわよ」


 珍しく話が早い。


「荷車が止まったら、あんたたちは三日でただの空腹な集団になる。私は後ろで首を締める方が向いてる」


「表現が怖い」


「補給の綱を締めるって意味よ」


「先にそう言ってください」


「つまらないでしょう」


 マリアンヌは王国軍への呼びかけ文を作る。


 王女の名で。


 兄への降伏勧告ではなく、命令の再確認を求める文書だ。


「私も王都へ行きます」


「もちろん」


 俺が答える。


「止めないのですね」


「止めても行くでしょう」


「はい」


「なら、役割を決めます」


「王宮内部の道と、兄上の側近について説明します」


「王太子殿下と話せますか」


 彼女は少し黙った。


「話します」


 怖いはずだ。


 それでも、目を逸らさない。


「クレアさんは領地へ残ってください」


 俺が言うと、クレアは眉を上げた。


「理由を伺っても?」


「避難所と治療所を任せたい。父上の葬送後、屋敷の仕事も増えています」


「セラフィーナ様のお支度は」


「出発までお願いします」


「道中は?」


「私が自分で」


 セラフィーナが答える。


 クレアは少し不安そうだった。


「髪を整える時間はありますか」


「交渉前には」


「約束してください」


「はい」


 戦争の会議で、髪の心配をする。


 でも、身だしなみはセラフィーナにとって鎧でもある。


 クレアはそれを知っている。


「領地の守備は?」


 俺が尋ねる。


 ガレスが配置を示す。


「橋へ二百。各村に伝令。焼けた村へ優先して予備兵」


 前回の失敗を、配置へ反映している。


「救援要請が複数来た場合」


「危険度、到達時間、避難困難者数を一覧にする。お前がいなくても決められる」


「お願いします」


「王都で余計な英雄になるな」


「なりません」


「お前は自覚なくなる」


 ひどい。


 セラフィーナが小さくうなずいているのも気になる。


 進軍へ参加する者への説明も、その夜のうちに始まった。


 広場で、役人が規律を読み上げる。


「民家へ無断で入らない。食料は買う。降伏者を傷つけない。王家の紋章だけを理由に市民を拘束しない」


「違反したら?」


 志願兵が尋ねる。


「所属隊から外し、公開で事情を調べる」


「戦の最中でも?」


「戦の最中だからです」


 セラフィーナが答えた。


「私たちは、王家の不法を止めるため進みます。自分たちが不法を行えば、目的を失います」


「腹が減って店に何もなかったら?」


「補給隊へ申告してください」


 アニエスが声を上げる。


「勝手に持ち出したら、三倍働いて返してもらうわ」


「三倍?」


「嫌なら守りなさい」


 兵たちは苦笑しながらうなずいた。


 その横では、参加を取りやめる者が武器を返している。


「今さらでも、帰っていいのか」


「はい」


 俺が答える。


「名簿から消すのではなく、後方へ移ったと記録します」


「逃げたと書かない?」


「役割を選び直した、と」


 男は槍を返し、代わりに荷車の綱を取った。


 勢いの中でも、立ち止まって選び直せる軍でありたかった。


 会議は夜明け近くまで続いた。


 進軍路。


 交渉の条件。


 捕虜の扱い。


 略奪の禁止。


 市民の家へ無断で入らないこと。


 食料は買うこと。


 命令違反の処罰。


 勢いで王都へ向かえば、ただの武装集団になる。


 何をしないかまで決めて、初めて軍になる。


「最後に」


 俺は全員を見る。


「王都へ行くことへ反対はありますか」


 沈黙。


 アニエスが手を上げた。


「反対ではないけど条件」


「何でしょう」


「王都を取っても、店の商品を勝手に配らない」


「買います」


「価格も勝手に決めない」


「交渉します」


「よろしい」


 ガレスが手を上げる。


「撤退の判断を遅らせない」


「条件を決めましょう」


 マリアンヌ。


「兄上を殺すことを目的にしない」


「約束します」


 セラフィーナは手を上げなかった。


「条件は?」


「一人で決めないと、すでに約束していただきました」


「はい」


「なら、私も進みます」


 共同決定が成立した。


 外へ出ると、領都は眠っていなかった。


 パンを焼く窯。


 馬具を直す職人。


 包帯を畳む子ども。


 荷車へ荷札をつける商人。


 出陣準備は、命令を待たず始まっている。


 俺たちは勝利を保証できない。


 王都へ着けるかもわからない。


 それでも、誰が何をするかを決め、失敗した時に誰が止めるかも決めた。


 王都へ向かうのは、俺一人の決断ではなくなった。


 夜明け前、出発名簿の最後に俺の名を書いた。

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