表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/25

第十九話 王国総力戦

 王城、軍議の間。


 安藤の言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。


「ヴァルク紙幣を増発しましょう」


 一瞬、誰も言葉を発しなかった。


 やがて最初に口を開いたのは、財務大臣ハインリヒ・ガイスラーだった。


「……アンディ殿」


「そんなことをすれば、ヴァルク紙幣の信任が揺らぐ」


 低い声だった。


「増発の規模にもよるが、インフレになるぞ」


 安藤は静かに頷いた。


「その通りです」


 即答だった。


 その反応に、逆にハインリヒが眉をひそめる。


「分かっているのか」


「分かっています」


 安藤は落ち着いた口調で続けた。


「ヴァルク紙幣が足りないからといって、臨時の徴税を行ったり、商人たちから借り入れたりする必要はありません」


「ヴァルデン王国には通貨発行権があります」


「自分たちで刷れる権利を持っているのですから」


「それを行使すればいい」


 軍議の間が静まり返る。


 ハインリヒは腕を組んだ。


「簡単に言うな」


「臨時発行の規模が大きすぎれば、市場は混乱する」


「物価への影響は予測がつかん」


 安藤は首を横へ振った。


「重要なのは金貨の量ではありません」


「働く人です」


「生み出される物資です」


「王国全体の生産能力です」


 視線が集まる。


 安藤は机上の地図へ手を置いた。


「鍛冶屋はいます」


「農民もいます」


「荷馬車職人もいます」


「軍馬を育てる牧場もあります」


「ヴァルデン王国には、まだ動員できる供給能力が残っています」


 安藤は一度、皆の顔を見回した。


「足りないのはヴァルク紙幣だけです」


「物資には限りがありますが、紙幣は必要なだけ発行できます」


「つまり、まだ働ける人と、生産できる物資が残っている限り、それを動かせます」


 軍務院の将軍の一人が口を開く。


「要するにアンディ殿は……」


「戦争に必要な物資を集めるためなら、今は問題ないと言いたいのか」


「はい」


 安藤は頷いた。


「もちろん刷り過ぎればインフレになります」


「ですが、それは王国全体の供給能力を超えて支出した場合です」


「逆に言えば、供給能力の範囲内なら動員できます」


 ハインリヒは黙って聞いていた。


 安藤は続ける。


「大陸で唯一、通貨発行権を持つヴァルデン王国だけは、予算編成上の制約がありません」


「保有する金貨の量に関係なく、紙幣を発行できます」


「ただし、その支出が供給能力を超えた時だけ、インフレ率の上昇という形で制約を受ける」


「逆に言えば、弊害はそれだけです」


 軍議の間に沈黙が落ちる。


 財務府の官僚たちも言葉を失っていた。


 安藤は静かに続けた。


「今は戦時です」


「国家の供給能力を総動員するべき局面です」


「鍛冶場を動かす」


「農地を動かす」


「荷馬車を作る」


「傭兵を雇う」


「王国中の人と物を余すことなく使う」


「そのためのヴァルク紙幣です」


 ハインリヒは目を閉じた。


 長い沈黙。


 誰も口を開かない。


 やがて、財務大臣は静かに息を吐いた。


「……なるほど」


 その一言で空気が変わる。


 財務府の官僚たちが顔を上げた。


 ハインリヒはゆっくりと安藤を見る。


「つまりアンディ殿は」


「王国の供給能力こそが制約条件だと言いたいのだな」


「はい」


 安藤は即答した。


「重要なのは予算の数字ではありません」


「武器を何本作れるか」


「兵糧をどれだけ集められるか」


「兵を何人動員できるか」


 ハインリヒはしばらく黙っていた。


 そして。


「陛下」


 国王へ向き直る。


「財務府としては実行可能と判断いたします」


 ざわめきが広がった。


 財務官たちですら驚いている。


 かつてヴァルク紙幣導入に最も強く反対した男が、今は追加発行を支持している。


 ハインリヒは続けた。


「既にヴァルク紙幣は国内へ浸透しております」


「税による回収も順調です」


「戦時動員のための臨時発行を提案いたします」


 王は静かに頷いた。


「異論はあるか」


 誰も答えない。


 アーデルが腕を組んだ。


「財務大臣殿が認めたのなら、わたしも異論はありません」


「紙幣の偽造防止術式も、また問題なく施せます」


 ヴォルフラムも続く。


「どのような手段であれ、兵站が確保できるならば、軍務院として歓迎いたします」


 王はゆっくりと立ち上がった。


「よかろう」


 その声が軍議の間へ響く。


「ヴァルク紙幣の追加発行を認める」


「直ちに戦時動員へ移行せよ」


「武器を集めよ」


「兵糧を集めよ」


「軍馬を集めよ」


「傭兵を集めよ」


 一拍置く。


「王国総力戦だ」


「はっ!」


 重臣たちの声が軍議の間へ轟いた。


 ヴァルデン王国は今、その全てを戦争へ注ぎ込もうとしていた。


     ◇


 その日のうちに。


 王国全土へ勅令が発せられた。


 挙国一致を求める戦時動員令。


 そして、ヴァルク紙幣の追加発行。


 王国全体が、大きく動き始める。


     ◇


 数日後。


 王国各地では急速に戦時動員が進んでいた。


 王都近郊の鍛冶場では、昼夜を問わず槌音が響いている。


 矢尻が作られる。


 剣が打たれる。


 鎧が修繕される。


 普段なら数か月かけて行う仕事が、わずかな期間へ押し込まれていた。


     ◇


 職人街。


 ゲルハルト工房。


 工房の前には荷馬車が並んでいた。


 完成した荷車を積み込む者。


 木材を運ぶ者。


 注文票を抱えて走る者。


 普段の数倍の忙しさだった。


「次は軍務院だ!」


「急げ!」


「まだ十台残ってるぞ!」


 怒号が飛ぶ。


 工房の奥ではエルマーが鉋を動かしていた。


 額には汗。


 木屑が舞う。


「親父」


「これで何台目だ」


 ゲルハルトは木材を担ぎながら答えた。


「知らん」


「数えてる暇があるなら手を動かせ」


「へいへい」


 そう言いながらも、エルマーの手は止まらない。


 そこへ見慣れた銀髪が現れた。


「お父ちゃん」


「お兄ちゃん」


 ロッティだった。


 王宮魔術師の制服姿である。


 エルマーが顔を上げた。


「おう」


「久しぶりだな」


「久しぶりじゃありません」


「先月も来ました」


「細けぇことはいいんだよ」


 ロッティは呆れたようにため息を吐く。


 ゲルハルトが鼻を鳴らした。


「暇そうだな」


「どこがですか!」


「戦争前で王宮も大騒ぎなんですから!」


「そうか」


 興味なさそうな返事だった。


 ロッティが頬を膨らませる。


 だがゲルハルトの口元は少しだけ緩んでいた。


 娘が無事なのが嬉しいのだろう。


「工房の様子を見に来ただけです」


「無理してませんか」


「無理はしてる」


 ゲルハルトが即答した。


「だが、王族や貴族連中にだけ戦わせるわけにもいかんだろ」


 工房の外を見やる。


 荷馬車。


 軍需品。


 武器。


 兵糧。


「俺たちは木を削る」


「兵隊は命を張る」


「それだけの話だ」


 ロッティは小さく頷いた。


 その時だった。


 奥から別の職人が笑う。


「しかし景気は良いな」


「こんな注文量は初めてだ」


 別の職人も頷く。


「ヴァルク紙幣もちゃんと払われるしな」


「未払いもねぇ」


「ありがたい話だ」


 エルマーが苦笑した。


「戦争景気なんぞ喜んでいいのか分からんがな」


「それでも仕事があって、飯が食える」


「違いねぇ」


 工房に笑いが広がる。


 だが誰も手は止めなかった。


 王国中の工房が今、同じように動いている。


 王国全体が巨大な歯車のように回り始めていた。


     ◇


 一方、王都南門。


 傭兵募集の掲示板前には多くの人影が集まっていた。


 その前に立つのはラルフ・ディートリヒ。


 そして黒田だった。


「思ったより多いな」


 黒田が呟く。


 ラルフは肩を竦めた。


「前金をたんまり用意したからな」


「ヴァルク紙幣さまさまだ」


 集まった男たちの中から、一人の大男が前へ出る。


 古傷だらけの顔。


 使い込まれた鎧。


 歴戦の傭兵だった。


「お前が依頼人か」


「そうだ」


 ラルフが袋を投げる。


 男が受け取る。


 中には大量のヴァルク紙幣が入っていた。


 傭兵は目を細める。


「気前がいいな」


「全額じゃねぇ」


 ラルフは笑った。


「前払いだ」


 傭兵は袋を開け、一枚だけヴァルク紙幣を取り出した。


「最近どこでも見る紙だな」


「信用できねぇか」


 ラルフが笑う。


 傭兵は首を横へ振った。


「いや」


「税で納められる紙だ」


「なら問題ねぇ」


「残りは戦後に払う」


 傭兵は袋を閉じた。


 そしてニヤリと笑う。


「もらった分の仕事はきっちりこなす」


 周囲の傭兵たちからも笑い声が上がった。


 黒田は腕を組む。


「何人集まりそうだ」


「今のところ二千」


 ラルフが答える。


「まだ増えるかもしれん」


 黒田は小さく口笛を吹いた。


 二千。


 決して無視できる数字ではない。


 王国の戦力は、着実に増えていた。


     ◇


 そして、王都へ向かう街道には、次々と軍勢が現れ始めていた。


 諸侯たちの軍である。


 幾筋もの街道を、無数の軍旗が埋め尽くしていく。


 王都近郊には、広大な野営地が広がっていた。


 無数の天幕。


 荷馬車。


 軍馬。


 焚き火。


 各地から集まった兵たちの姿が見える。


 ヴァルデン王国は今、その全てを戦場へ注ぎ込もうとしていた。


     ◇


 最初に到着したのはリッターシュタット軍だった。


 青と銀の軍旗が風にはためく。


 先頭を進むのは領主コンラート・フォン・ヘルヴィッツ。


 王都直属軍の陣地前まで進むと、一人の男が歩み出た。


 ヴォルフラム・アイゼンである。


「久しいな、コンラート卿」


 コンラートが笑う。


「ヴォルフラム殿も、壮健で何よりです」


 二人は固く握手を交わした。


 長年、王国東部方面を共に守ってきた戦友である。


「まさか本当に皇国と全面戦争になるとは」


 コンラートが苦笑する。


 ヴォルフラムも小さく頷いた。


「私もそう思っていた」


 一瞬の沈黙。


 そしてコンラートが笑った。


「まあよい」


「さっさと勝って終わらせましょう」


「蹴球大会もありますからな」


 ヴォルフラムの口元が少しだけ緩む。


「エリーゼ杯だったか」


「ええ」


「王国中の都市が参加する大会です」


「領民たちも楽しみにしています」


 ヴォルフラムは遠くを見た。


「そのためにも負けるわけにはいかんな」


「当然です」


 二人は同時に笑った。


     ◇


 翌日。


 アイゼンブルク軍も到着した。


 先頭を進む巨漢。


 オットー・フォン・グライフェンである。


 相変わらずの大声だった。


「おおおおっ!」


「王都は久しぶりですな!」


 周囲の兵士たちが思わず振り向く。


 オットーの後ろには、あの息子たちの姿もあった。


 もちろん十八人全員ではない。


 それでも十人近くが従っている。


 相変わらず大所帯だった。


 出迎えたコンラートが呆れたように言う。


「また連れて来たのか」


「戦ですぞ」


 オットーは胸を張った。


「息子も戦わせねば一人前になりません」


 後ろから若者たちが一斉に頭を下げる。


「父上!」


 見事に揃っていた。


 コンラートが吹き出した。


「相変わらずだな」


 オットーも豪快に笑った。


     ◇


 その日の午後。


 王城では一通の書簡が届けられていた。


 差出人はエーレンベルク王国。


 ルドルフ四世は静かに目を通す。


 そして小さく息を吐いた。


「参戦は見送る、か」


 室内が静まり返る。


 ハインリヒが尋ねた。


「やはり」


「ああ」


 王は頷く。


「正式参戦はしないそうだ」


 だが、使者は続けた。


「ただし、レオポルト五世陛下よりお伝えせよとのことです」


 王が顔を上げる。


「申せ」


 使者は姿勢を正した。


「現在、我が国はルーシェ皇国との国境付近にて、大規模軍事演習を実施しております」


 重臣たちの表情が変わった。


「兵力は約二万」


「皇国も兵を国境へ割かざるを得ない状況です」


 アーデルが口元を緩めた。


「なるほど」


「そういうことか」


 使者は続ける。


「我が国に交戦の意思はありません」


「その旨は皇国側へも通達済みです」


「ですが、演習は当面継続されます」


 ルドルフ四世も笑った。


「レオポルトらしいな」


 直接は助けない。


 しかし見捨てもしない。


 実にエーレンベルク王らしい判断だった。


「それと」


 使者は続ける。


「私どもは観戦武官として、この戦争の推移を見届けるよう命じられております」


「本国へ結果を持ち帰るために」


 王は静かに頷いた。


「歓迎する」


「存分に見ていくがよい」


     ◇


 その頃。


 野営地の外れ。


 黒田は剣の手入れをしていた。


 そこへ足音が近付く。


「クロダさん」


 振り向く。


 グレタだった。


 エリーゼ付き侍女の給仕服姿である。


「おう」


 黒田は笑った。


 グレタも少しだけ微笑む。


 だが、その表情はどこか固い。


 黒田は察した。


「心配か」


「少しだけです」


 少しだけ、という顔ではなかった。


 黒田は苦笑する。


 グレタは視線を落とした。


「武運を祈っています」


 それは王族に仕える侍女としての言葉だった。


 だが、一拍置いてから続ける。


「……必ず帰って来てください」


 今度は本音だった。


 黒田は少し驚いたような顔をする。


 そして笑う。


「努力する」


「努力じゃ困ります」


 珍しく即答だった。


 黒田は思わず吹き出した。


 グレタも少しだけ笑う。


 短い沈黙。


 やがて彼女は小さく頭を下げた。


「それでは」


「ああ」


 グレタは王都の方へ戻っていく。


 黒田はその背中を見送った。


 決戦の日は、もう目前まで迫っていた。


     ◇


 数日後。


 グランフェルト会戦の地。


 王都東方に広がる大平原へ、両軍は集結しつつあった。


 見渡す限りの草原。


 遮るものは何もない。


 軍勢同士が激突するには十分すぎる戦場だった。


     ◇


 ヴァルデン王国軍本陣。


 高台から戦場を見下ろしながら、アーデルが口を開く。


「陛下、万事予定どおりです」


 ルドルフ四世は頷いた。


 視線の先には整列する王国軍。


 王都直属軍。


 リッターシュタット軍。


 アイゼンブルク軍。


 諸侯軍。


 傭兵団。


 そして魔術師たち。


 王国各地から集まった兵士たちの姿があった。


 ヴォルフラムが報告する。


「総兵力、およそ七万」


「傭兵二千を含みます」


 王は静かに頷く。


「よく集めた」


 その声には素直な感心があった。


 ハインリヒが苦笑する。


「財務府の役人が泣いております」


「戦争が終われば、今度は物価対策ですな」


 アーデルが笑った。


「勝ってから考えればよろしい」


「負けたら物価も何もありませんからな」


 周囲から小さな笑いが漏れる。


 だが緊張は消えない。


 皆、分かっていた。


 今日から始まる戦いが王国の命運を左右することを。


     ◇


 やがて、伝令騎兵が駆け込んできた。


「陛下!」


 馬から飛び降りる。


「皇国軍を確認!」


 本陣に緊張が走る。


「距離およそ十キロ!」


「こちらへ向けて進軍中です!」


 ルドルフ四世は静かに頷いた。


「来たか」


 アーデルが一礼する。


「いよいよですな」


 王は答えない。


 ただ遠くを見つめていた。


     ◇


 その後、王国軍は戦列を整えた。


 歩兵。


 弓兵。


 騎兵。


 魔術師。


 どこまでも続く兵士たちの列。


 風が吹く。


 軍旗が翻る。


 兵たちは無言だった。


 緊張。


 不安。


 恐怖。


 誰もが抱えている。


 それでも逃げる者はいなかった。


 ルドルフ四世は馬へ乗った。


 そして軍の前へ進み出る。


 兵士たちの視線が集まった。


 王は静かに辺りを見回す。


 若い兵士。


 老兵。


 騎士。


 傭兵。


 農民上がりの動員兵。


 皆が王を見ていた。


 王はゆっくりと口を開く。


「敵は大国だ」


 静寂。


「人口は我らの数倍」


「兵力も数倍」


「それは事実である」


 誰も否定しない。


 皆が知っている事実だった。


「だが」


 王の声が広がる。


「戦争は人口で決まらぬ」


「兵士の総数で決まらぬ」


 一拍置く。


「戦場へ何人動員できるかで決まる」


 兵たちが顔を上げる。


「ルーシェ皇国とて、その全てをここへ連れて来られるわけではない」


「補給には限界がある」


「兵站には限界がある」


「だからこそ奴らは、短期決戦を望む」


 王は剣を抜いた。


 陽光が刃へ反射する。


「ならばこちらも受けて立つ」


 声に力が宿る。


「準備は整った」


「兵糧はある」


「武器もある」


「作戦もある」


「だから籠城はしない」


「このグランフェルトの地で叩き潰す」


 兵たちの空気が変わる。


 王は続けた。


「仮に敗れたとて、それで終わりではない」


「王都は残る」


「マティアスがいる」


「エリーゼがいる」


「東のリッターシュタットも健在だ」


「そして、あと少しで冬が来る」


 兵士たちの表情が変わった。


「継戦能力はこちらが上だ」


「戦略上も」


「戦術上も」


「我らは決して劣ってはおらぬ」


 ルドルフ四世は剣を高く掲げた。


「敵は我らの土地を焼いた!」


「アウエンハーフェンを奪った!」


「ベルンハルト卿を討った!」


 怒りが兵たちへ伝播していく。


「だが――」


 一拍。


「ここより先は通さん!」


 王の声が戦場へ響き渡った。


「ここはヴァルデン王国だ!」


「我らの国だ!」


「我らの民だ!」


 剣先を東へ向ける。


「返り討ちにしてくれる!」


「おおおおおおおおおっ!!」


 地鳴りのような歓声が上がった。


 兵たちの士気は最高潮へ達する。


     ◇


 その時だった。


 見張り台の兵士が叫んだ。


「敵軍!」


「敵軍を確認!」


 全員が東を向く。


 地平線の彼方。


 無数の軍旗が現れ始めていた。


 黒。


 白。


 金。


 ルーシェ皇国の軍旗である。


 その数は圧倒的だった。


 大地を埋め尽くす軍勢。


 先頭には騎兵。


 後方には歩兵。


 さらに魔術師団。


 地平線の果てまで続く軍旗。


 数えることすら馬鹿らしくなるほどの大軍だった。


 王国軍を遥かに上回る兵力だった。


 ヴォルフラムが剣へ手をかける。


 コンラートも息を吐く。


 オットーは不敵に笑った。


 アーデルは静かに杖を握る。


 ロッティとジークもまた、それぞれの持ち場で魔術の準備を進めていた。


 安藤は護衛のゴーレム・フィジコを従え、遠くの軍勢を見据えていた。


 黒田もまた拳を握り締める。


 ルドルフ四世は剣先を東へ向けた。


「総員、戦闘準備」


「ベルンハルト卿の無念は、ここで晴らす」


「ヴァルデン王国の未来を守るためにな」


 グランフェルト会戦。


 王国の未来を懸けた決戦が、今まさに幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ