〈9〉
次の日も、また次の日もベックに扱かれた後のマックスはクロエと共に少しずつ装備を増やして早駆けを続けた。
「あー!冷たくて気持ちいいーっ!」
マックスは毎日小川に手を浸して気持ちよさそうに声をあげる。
ウイングもボイジャーもこの時期の小川には入ろうとはしない。
「ふふ、そんなにか?」川岸に座ったクロエは笑いながら言った。
「ええ、そんなに…ですよ!なんとか弾き飛ばされなくなりましたが、相変わらず強い」
「ベックは、最近のマックスとの手合わせは気が抜けなくなってきた…って言ってたぞ」
「本当ですか?王都に向かうまでに1回くらいは勝ちたいんですけど…難しいかなー?」
「ふふ、どうだろうな…私もベックに〈気が抜けない〉って言ってみてもらいたかったなぁ」
「クロエ様がですか?…まさか…」
「いや、本当だよ」
「じゃあ、今なら俺はクロエ様に勝てますか?」
「どうだろう?負けたくはないが…」
「手合わせお願いできますか?」
「ここでか?」
「はい」
「いいよ」
2人の手合わせが始まった。
刃を潰した剣がぶつかった。
マックスが打ち込んでいくと、クロエがマックスの剣を受け止め払う。
クロエが剣をマックスに突いていくとマックスが体ごと躱し背後に回り込むが、素早く体制を変えたクロエに切り付けられる。
すんでのところで躱しクロエの剣を薙ぎ払う。
両者の力は互角に見えた。長い撃ち合いが続いた。
ガキーン!
マックスの剣が宙に舞った。
しなやかさとスタミナの差が勝負の差だった。
「はぁ、はぁ、はぁ…参りました!」肩で息をしながらマックスは白旗を挙げた。
さすがのクロエも肩で息をしている。
「はぁ、はぁ…マックス、強くなったな…はぁ。ジルが言ってた〈小隊長〉も夢じゃないかもな…」
「はぁ、はぁ…嬉しいです」
「あっつい!顔を洗ってくる!」とクロエは小川に向かった。
「俺も行きますっ」マックスも後に続き小川に走る。
2人は小川の冷たい水で顔を洗って熱を冷ました。
そして目を合わせて、そこで大声で笑い合った。
「あはは!あはは!実に楽しかった!」
「ははは!ははは!俺もです!手合わせありがとうございました!ははは!」
「父上が言っていたことを思い出した」
「なんですか?」
「〈ベックとは息が合うんだ、それにベックは強い。背中を預けられる相手はあいつだけなんだ〉…って」
「お父上が…」
「まだまだベックには敵わないが、〈息が合う〉感覚はわかったような気がする…」クロエは心底嬉しかったのが顔に出ていた。
マックスは嬉しそうに微笑むクロエにしばし見惚れていた。
••••••••••••••••••••••
カーン!ガキッ!ザザーッ!
朝の鍛錬場に剣がぶつかる音が響いている。
ベックからもマックスからも言葉は出てこない。
ベックの発破の声も今日はきかれなかった。
「ったぁーっ!」一瞬の隙を狙ったマックスの大声が響いた後ベックの剣が宙に舞った。
「はぁ、はぁはぁ…参りました」とベックは荒い息でマックスに告げた。
マックスは呼吸を整えるのに精一杯でなにも答えられない。
暫く呼吸を整えてから「ありがとうございました」と深々と礼をした。
鍛錬場のベンチに2人で座り水を飲む。
ベックが「短い間に強くなられましたな…」と嬉しそうにマックスに言ってきた。
マックスも「師匠のおかげです。ありがとうございました」
「ふふ、スタミナがついたのはクロエ様のおかげでしょう…かなり重装備で早駆けしているのでしょう?最近のボイジャーも軍馬のようになってきましたからね…いや頼もしい」
「クロエ様が…そうだったんですね。ありがたい限りです」
「マクシミリアン殿。どうかご無理はなさいませんように」
「ありがとうございます。元気で帰還できるよう心がけます」
「おや、帰ってきてくださるのですか?」
「ええ、そのつもりです。というか、帰ってきてもいいですか?」
「もちろんですよ、また手合わせしてください。私には息子がおりませんもので、こういうのは夢だったんですよ…ふふ」
「お子さんがいらっしゃったんですね」
「ええ、娘が…今はジルと結婚して2児の母ですよ、ふふ」
「お孫さん可愛いでしょうね」
「ええ、可愛いです」…「マクシミリアン殿。相手は毒矢を放つことのできる輩です。どうかお気をつけて」
ベックは真剣な目でマックスを見た。
「はい、心に刻んで行動します。ありがとうございます」
••••••••••••••••••••
翌日早朝、クロエとマックス、そしてバートとアンナで王都に出立する準備をしていた。
それぞれの馬に旅支度をくくりつけている。
クロエとマックスは手を動かしながら話していた。
「貴族のご令嬢の移動とは違うのですね」
「ウチはね…ゆっくり馬車移動なんて久しくしてない…ふふふ。普通の馬で1週間くらいかかるが、ウイング達なら4、5日で駆けてくれる。その方が時間を有効的に使える」
「確かにそうですね。馬車ならもっと時間がかかるし…」
話しながら出立準備を完了させたクロエ達は
「さて、行こうか!」のクロエの掛け声に、4人は馬に跨り、見送りのベック達にクロエは「では、行ってくる」と告げた。
ベックもクロエ達に「お気をつけて…ご帰還お待ちしてます」と笑顔で告げていた。
そして、4人と四頭は王都に向け出発した。




