〈7〉
「さぁ、城に戻ろう!さすがに濡れたままでは風邪をひいてしまう」
「はい」
二人は急いで支度をして、城までの道を駆けて帰城した。
ウイングとボイジャーを厩舎に戻し、体を拭いてブラシをかけてやると、それなりに時間がかかった。
「もう昼過ぎだな…ランチは執務室でベックと3人で摂ろう。一度宿舎に帰って着替えてこい」
「はい、ありがとうございます。では」
そう言って宿舎に戻り体を拭いて着替えたが
「さすがに冷えたな…」とシャツの上に厚手のシャツを羽織って執務室に急いだ。
執務室は暖炉に火がおこされ、部屋が暖められていた。テーブルには温かいスープが用意されていた。
「さすがに今日は冷えただろう?…ベックはもうランチを済ませたらしい…。さぁ、温かいうちにいただこう」
クロエの心遣いが嬉しかった。
「ありがとうございます。いただきます」
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1日の仕事が終わりマックスは宿舎に帰り湯を浴び寝支度をしていると、ベッドサイドの机に置いた緑の組紐が目に入った。
手に取り見つめる。
昼間、この紐を解いて、下ろした髪を風に靡かせて笑うクロエを思った。「綺麗だったな…」
次々にいろんなクロエの表情が蘇ってきた。
〈凛としたすまし顔のクロエ〉〈優しくボイジャーに話しかけていたクロエ〉〈地平線を見つめて話す神々しいクロエ〉〈悪戯っぽく笑うクロエ〉
「彼女は、逃げていない…自分はどうだ?」と呟いた。
緑の組紐を握り、晩秋の夜空を見上げた。
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翌日、仕事が終わり、退室しても良い時間になってもマックスは部屋を出ていこうとしなかった。
それに気づいたクロエは執務机からマックスに声をかけた。「今日の仕事は終わったよ!また明日……ん?」
マックスがクロエの話している中、顔をあげて視線をクロエにやったので話は途中で終わらせた。
「クロエ様、ベックさん。聞いて欲しい事があります」
クロエはベックと顔を見合わせた。
「わかった、場所を変えた方がいいか?」
「いえ、ここでお願いします」
「私はお茶を用意してきましょう」とベックは部屋を出て行った。
程なくして、部屋の真ん中に置いてあるソファセットのテーブルにお茶が用意された。
3人は思い思いの場所に腰掛けてマックスが話し出すのを待っていた。
暫く沈黙が続いてからマックスが話し始めた。
「私の本名はマクシミリアン・ドミトスと言います。爵位は公爵位です」
驚くと思ったクロエとベックが黙って話を聞いている。
「もしかして、ご存知でしたか?」
するとクロエは「私は一度あなたにお目にかかっています」と告げてきた。
「え?いつ?」
「デビュタントの年だから…4年半…もうすぐ5年くらい前になるかな?」
「4年…半前…」
「あ!…それは失礼いたしました。…そうでしたか、あの時…」マックスは私邸で開いた夜会で会ったことを思い出した。
「ふふ、覚えていなくても仕方ないですよ。軽く挨拶しただけですから…」
「事情があると感じて黙ってくださっていたんですね。ありがとうございます」
クロエとベックは首を横に振る。
「父が急に他界しました。私の爵位継承は既に決まっていたことなので、順当に継承しました。
しかしすぐに、〈前公爵殺害〉の容疑で騎士団に捕えられ、尋問を受けました。もちろん冤罪です。
容疑を否認し続けましたが、認められませんでした。それどころか、拷問のような仕打ちを受けました。それでも冤罪は否定し続けました。
いったい何日そうしていたのかわからないくらい朦朧としてました。気がついたらベッドに寝かされて、監禁されていました。目眩が酷く、気分が悪くひたすらベッドに蹲る日々が続いていたように思います。
少しだけ覚醒する時ができてきたので、状況把握に努めました。そこで初めて、食事に何か混入されているのではないかと疑問を持ち、完食しているように見せかけて、食事量を減らしました。
それでやっと何かに巻き込まれたと思い当たりました。逃げなくては…と思い機会を狙っていましたが、なかなかそんな機会には恵まれませんでしたが、家令のエリオットが私を見つけてくれました。ボイジャーと共に逃げ道を作ってくれました。
必死で逃げました。途中追手に襲われましたがなんとかボイジャーが逃げてくれましたがそれでも追いつかれそうになった時に力尽きて落馬してしまい、なんとか身を隠そうとしたのまでは覚えています。気がついたらこの屋敷に保護されていました。ここに保護されてから、父の死から2年が経っていたことを知りました」
話し終えたマックスにクロエは
「そうだったんですか…大変な思いをされましたね。しかしあなたの話と私達の知っている話では若干の、齟齬がありますね…」と告げた。
「齟齬ですか?」
「はい、勝手ながら少し調べさせてもらいました。申し訳ありません」
「いえ、当然のことです。お気になさらないでください」
そしてクロエは今知っていることを話し出した。




