62 番外編 会談
エリック国王の戴冠式を3日後に控えて、王都は式に列席する貴族や招待された近隣国家の王族や元首、その様子を見に集まった人々で賑わっていた。
そして、ムーンベルク王国からの交易商隊の第一陣が王都に到着して、更なる賑わいを演出していた。
この交易路開通に携わった者達が、ムーンベルク商隊を率いてきたムーンベルク王国ランスロット王太子やカステヤ辺境伯との会談のため登城していた。
アルシエッタ辺境伯からは当然マクシミリアン・アルシエッタ辺境伯が城に赴いていた。
夕方会談を終えたマックスが屋敷に帰ってきた。
クロエがリヒトと迎えに出ると、憮然としたマックスがいた。
「おかえりなさいマックス…あら?どうしたの?リトみたいな顔になってるわよ…」
「ただいまクロエ、リト。…リトみたいな顔ってどんな顔?」とマックスはクロエの額とリヒトの頬にキスをしながら聞いてきた。
リヒトは父からキスを受けて上機嫌で「きゃっきゃっ」と笑っている。
マックスはクロエからリヒトを受け取って抱きながら「早く結婚しておいてよかったよ〜リトもそれがわかってたから早くきてくれたんだよなぁ〜」とリヒトに頬ずりして抱きしめ揺らしている。
私室に向かう廊下はリヒトの楽しげな笑い声が響いていた。
「ふふ、それで?何があったのかしら?」とイーサンに手伝ってもらいながら着替えるマックスに聞いてみると、
「ランスロット王太子はクロエを狙ってた…油断も隙もあったもんじゃない…」
「はい?どういうこと?」
マックスは今日の会談であったことをクロエに話してくれた。
…………………………
ムーンベルク王国との会談は昼食会を挟んで行われた。
ムーンベルク商隊第一弾がダイナモ王国に交易品として持ち込んだ物の半分は、エリック国王の戴冠の祝い品だった。
ダイナモ王国からも返礼品が用意されて、和やかに会談が進行した。
場の空気も和み、サロンに移って談笑が始まったところで
ランスロット王太子が「不躾な質問で申し訳ない。アルシエッタ辺境伯殿は確かドミトス公爵を名乗られていたと記憶しておりますが、この交易路開通にあたりアルシエッタ辺境伯に〈養子〉に入られたのですか?」とマックスに聞いてきた。
「いいえ、〈婿〉になりました。アルシエッタ辺境伯代理を務めていた者が妻になりました」
「おお!そうでしたか…それは…」とランスロットが少し歯切れの悪い返事をしたことが気にはなったが、深く追求しなかった。
エリック国王が「実は、少し事情があり、彼は辺境伯領のことをよく理解していまして、取り纏め役を務めてもらっていたのですが、貴国との調印が完了するとさっさと公爵位を弟に譲り辺境伯の婿におさまりました。既に嫡男も設けております。公私共に仕事が早い!ははははは!」と少し惚けてマックスの現在を伝えた。
「なるほど…そうでしたか…いや、おめでとうございます」
「恐縮です。ありがとうございます」
「ふふ、殿下どうやら我々は乗り遅れましたな…」と横からカステヤ辺境伯が笑いを堪えて話に入ってきた。
「乗り遅れ…ですか?」諸侯も不思議そうにしている。
「ドミトス公爵だった時のあなたの立ち振る舞いを拝見して、ウチの娘を嫁にもらってもらえないかな…との思いがよぎりました…あれから一年半…まだ間に合うかなと思ったのですが…ふふふふ、残念です」と冗談のようにカステヤ辺境伯が言った。
「あ、いや…お気持ちありがとうございます」
「ふふ、辺境伯代理殿も素敵な方だな…と思ったのですよ…本当、乗り遅れました…ふふ」少し自嘲気味に笑ったランスロットは
「公爵位を弟殿に譲ってまで辺境伯代理殿のところに行かれたのは感服いたします。ご嫡男もお生まれになって、誠におめでとうございます」とマックスに清々しい笑顔を送った。
マックスは「恐れ多い…誠にありがとうございます」と返答するしかできなかった。
…………………………
マックスが話し終えた時、マックスの目の前には憮然とした顔のクロエがいた。
「クロエ?」
「リトー。早くきてくれてありがとうね!そうじゃないと、父さまをカステヤのご令嬢に取られるところだったわ!」とリヒトに頬ずりするクロエがいた。
リヒトはまた「きゃっきゃっ」と笑い声をあげている。
「ふふ、クロエもリトみたいな顔をしてるぞ…ヤキモチ妬いてくれた?」と妖しげな笑顔でマックスはクロエに近づいた。
「ふふ、そう言うマックスも私を王太子に取られると思ったの?そんなことないのに…リトがいても、いなくても、愛しているのはあなただけよ…」
「ふふ、今日は先を越されたな…俺も愛しているのはクロエだけだ…」
そう言い合うふたりが口づけをしようと近づくと、
「あぶぅー!!あぶっぶぶ!」と不機嫌そうなリヒトがクロエの腕の中で暴れ出した。
「あっ…あらあら…!」
「おっと…と!」リヒトを落とさないように抱えるクロエと、落ちないように受け止めるマックス。
クロエの腕の中におさまったリヒトを見て
「さすがマックスの子ね…この独占欲…ふふ。リト…ヤキモチ妬いてくれたの?」クロエは笑う。
「リト…母さまは父さまのものだっていつも言ってるだろう?…諦めてくれ…」とリヒトに真剣に語りかけるマックス。
リヒトは「あぶぶ!あぶぶ!」と小さな手で近づいたマックスの鼻をペチペチと叩いていた。
その仕草が可愛いくてクロエとマックスが笑う声が廊下まで聞こえてきていた。




