63 番外編 戴冠式
秋空はどこまでも高く晴れ渡り、爽やかな風が吹いていた。
王都は、朝から熱気に包まれていた。
大聖堂の車寄せには下位の貴族から順に馬車が停まり、入場が始まっていた。
今日、戴冠式を迎えるエリック国王夫妻の到着までにはまだ時間があるのに、大聖堂の前は人だかりが何重にも重なって、王宮騎士団と王都騎士団が協力して警備にあたっていた。
伯爵位までの入場が終わり、伯爵位序列で辺境伯位の馬車が車寄せに入り始めた。
アルシエッタ辺境伯家はこの国にある辺境伯6家の3番目に車寄せに入ってきた。
扉が開き、長い金髪を後ろで緑と金の組紐で結んだ、濃紺の第一礼服を纏った存在感のある若き辺境伯が降り立った。
馬車に向かい、エスコートの手を差し出す。
辺境伯にエスコートされて馬車から降り立ったのは濃紺のオフショルダーのシンプルなドレスに身を包み、艶のあるサラサラの栗色の髪を高いところで緑と金の組紐で結び、肩から前に流し凛とした姿の若き辺境伯夫人だった。
美男美女のふたりが微笑み合い仲睦まじく大聖堂の中に入っていく姿はまるで絵本の中の王子様とお姫様のようで、周りのどよめきを誘った。
国内貴族の入場が済むと来賓の入場が始まりムーンベルク王国のランスロット王太子の入場の時は黄色い声があちこちから聞こえてきていた。
下位貴族の入場からかなり経ってから王族の入場になった。シャルロット王女は婚約者のドミトス公爵がエスコートしたが、初々しいふたりに群衆からはため息が漏れていた。
そして畏怖堂々としたエリック国王夫妻が最後に大聖堂に入場した。
大聖堂での式典は粛々と進行し、早朝の入場から始まった式典は昼過ぎに終わった。
列席者はパレードをする国王一家を見送った後は、夕方から開催される晩餐会と舞踏会の準備で一度宿舎に戻る。
クロエとマックスも屋敷に戻り少しの休憩を挟んで準備に取り掛かった。
今日のクロエは昼間とは変わって、淡いレモンカラーに金糸で緻密な刺繍を施した襟が肩からの浅いブイカットのドレスだった。目立たない金糸の刺繍は照明を反射してキラキラ輝いていた。
髪は緩く緑と金の組紐でシニヨンにまとめた。
マックスはシルバーグレーのフロックコートにクロエのドレスと同じ色のクラヴァットで髪はいつも通り緑と金の組紐で結ばれていた。
晩餐会を経て舞踏会に移った。
次々にホールに入っていく。クロエもマックスにエスコートされてホールに入った。
こちらでも、あちこちからため息が漏れている。
「マクシミリアン様とクロエ様ってやはり絵になるわよね」
「公爵位を捨てて辺境伯になられたのでしょう?愛ですわね!」
「クロエ様は半年前にご出産されたばかりなのよね…なのにあのスタイル…はぁ素敵ね」
「聞いたところによりますと、お子様はマクシミリアン様と瓜二つですって…」
「まぁ!先が楽しみね!」
国王夫妻がファーストダンスを披露した後、各々がダンスホールに向かった。
クロエとマックスもふた曲息のあった踊りを披露した後、ハドソン侯爵達諸侯と合流した。
談笑していると、ランスロット王太子とカステヤ辺境伯がやってきた。
暫く皆で談笑した後、ランスロットがクロエにダンスを申し込んできた。
「アルシエッタ辺境伯殿。夫人とダンスをご一緒できる栄誉をいただけますか?」
クロエはチラッとマックスを見る。
マックスは「よろしくお願いします」とランスロットに伝え、クロエも「ありがとう存じます」とランスロットの手を取った。
ふたりはホールに向かい踊り始めた。
「夫人、ご一緒してくださりありがとうございます」
「とんでもございません。お誘いいただきありがとうございます。殿下とこうしてご一緒できる日が来たのかと感慨深いですわ」
「そうですね。これからも良きお付き合いをお願いしたいです」
「それは、私共も同じ気持ちです。今後ともよろしくお願いいたします」
「それと、ご結婚とご嫡男のお誕生。おめでとうございます」
「まぁ、ありがとうございます」
「エリック国王からうかがいました。〈ご夫君は公爵位をさっさと弟君に譲られて婿になられた〉となんとも行動力のあるご夫君ですね。きっと私にはできなかったでしょう」
「ふふ、守ってくれる義弟がおりましたから、夫は義弟に甘えたのだと思います。私にはとてもありがたいことです。殿下もたくさんのものを背負われていると拝察いたします。いつかお支えくださる方と巡り逢われることをお祈りいたします」
「ありがとうございます。そんな相手に巡り逢ったら是非紹介させてください」
「まぁ、ご紹介いただけるのですか?それは大変光栄です!」
「ふふ、楽しみにしていてください」
「ええ、お待ちしています…ふふ」
曲が終わり、ふたりは挨拶を交わしてマックス達がいるところに戻った。
クロエをエスコートしたランスロットは「辺境伯殿、ご夫人をお返しいたします。楽しい時間をありがとうございました」とクロエの手をマックスに返した。
マックスはクロエの手を受け取り「こちらこそお相手いただきありがとうございました」と軽く礼をした。
そしてランスロット王太子とカステヤ辺境伯は次の挨拶に向かった。
再び曲が流れ出し
「クロエ、踊ろう」とマックスが誘ってきた
「ええ」とクロエもマックスについていく。
ふたりは踊りながら
「ランスロット王太子と何を話していたの?」
「これからもよろしくお願いします。と結婚と出産のお祝いを言ってもらっただけよ…ふふ」
「ふーん、そうなんだ…」
「ふふ、なーに?またリトみたいな顔して」
「独占欲丸出しって言いたいの?」少し拗ねた口調に
「ふふ、マックスって可愛い!私のマックスは今日も可愛いわね!」とクロエは笑った。
「可愛い…って、何を言い出すんだ…」とマックスは顔を赤くした。
それを目撃した人は
「まぁ、辺境伯様があんな顔をなさるなんて!」と驚きの声をあげていた。
「ふふ、マックスは相変わらず人気者だな!」
「俺はクロエが見てくれていればいい…他の視線は要らない。クロエにも俺だけ見てほしい…仕方ないからリトは許すけど」とマックスはクロエの腰を抱く手に力を込めて迫った。
「こんな席で何を言い出すの?ちょっと…迫り過ぎよ!」
「ねぇクロエ、もう帰らないか?ふたりきりで過ごしたい…」とマックスが熱い視線を送るとクロエの頬が赤く染まった。
「ふふ、やっぱり俺のクロエは可愛いな…ねぇもう帰ろう…」
「もう!マックスったら」
宴が盛り上がる中、アルシエッタ辺境伯夫妻はいつの間にか姿を消していた。
その夜のふたりの熱は実を結ぶことはなかったが、この後アルシエッタ辺境伯夫妻はリヒトを含む三男二女に恵まれた子沢山のおしどり夫婦として、そして2つの領地を安定運営する賢い領主夫婦として名を馳せた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
これにて完結とさせていただきます。
三男二女に恵まれたクロエとマックス。
またスピンオフで彼等の子供達の事をかけたらいいなぁと思っています。




