60 番外編 王都へ
秋になり、アルシェッタ辺境伯一家は新国王の戴冠式の為に王都に向かうことになった。
今回は馬車での移動になる。
初めての長旅を経験するリヒトの為に14日の旅程を組んだ。3人が乗る馬車を引くのはウイングとボイジャー。
そして護衛としての同行者はジル隊の数名と世話係としてジルの妻と娘、息子も同行することになった。
マックスは出立ギリギリまでベックと打ち合わせをしていた。
そこにジルが「お館様、出立の準備が整いました」と報告にやってきた。
「そうか、ありがとう。じゃあ、そろそろ行こう…クロエ!そろそろ馬車に…」とマックスはリヒトを抱いてウイングとボイジャーの前にいるクロエに声をかけた。
リヒトを抱いたクロエは、ウイングとボイジャーに
「ウイング、ボイジャー。リヒトの初めての長旅なんだ、よろしく頼むね」とウイングとボイジャーの首を順にトントンと叩いていた。
ウイングとボイジャーは「ブルルル…」と鼻を鳴らして返事をしているようだ。
リヒトもウイングとボイジャーに手を伸ばす。
ウイングとボイジャーはリヒトの方に擦り寄ってリヒトが触れやすいようにしているようだった。
マックスの声がして「はーい」と言ってからマックスの方に向かった。
「さぁ、出かけよう」と言ってマックスはリヒトの方に手を伸ばすと、リヒトは素直にマックスの腕に収まった。
そしてクロエはマックスのエスコートで馬車に乗り込み「さぁ、リト…おいで」と優しく微笑みなら馬車の中から手を伸ばす。
今度もリヒトは素直にクロエに抱き上げられて馬車に乗り込んだ。
そのあとでマックスも馬車に乗り込み扉を閉めた。
ベックは馬車の親子に「どうぞお気をつけていってらっしゃいませ」
「あとのことは頼む」
「かしこまりました、お任せくださいませ。問題がありましたら馬を走らせます」
「ああ、よろしく」
「クロエ様も坊ちゃまもお気をつけていってらっしゃいませ」
「ええ、いってきます」
そんな会話をしてアルシェッタ辺境伯一行は城の城門を抜けて王都に向かう旅に出ていった。
その一行をベックは感慨深く見送った。
……………………………
「ベックさん、お話があります」
クロエとマックスがエリック王太子一行と共に城に帰還した日に、執務室で仕事をしていたベックのところにマックスがきて言った。
「おや、どうされましたか?そんな真剣な顔をして…」
緊張した面持ちのマックスは「ベックさんにお願いがあります」とベックのそばにきて言うので
「座ってお話を聞きましょう」とソファを勧めた。
向かい合ってソファに座り、マックスの言葉を待った。
「ベックさん、私はクロエを愛しています。将来を共にしたいと思っています」
「え?…それは…」(嫁に迎えたい…と言うことか?)と思ったが口にすることはできなかった。
「懸念されていることはわかります。しかし少し違います。私を婿に迎え入れていただきたい」
「!!…しかし、マックス殿には公爵家が…」
「私には弟がいます。まだ問題が解決していないのですぐには無理ですが、全力で解決します。そのあと弟が成人したら爵位を譲り、この地に戻ってきます」
「このことをクロエ様は?」
「まだ伝えていません。今伝えたら〈そんなこと言ってないで、マックスはマックスの仕事をしろ〉と言われて誤魔化されるのがオチですから…」
「ふふ、クロエ様のことをよく理解されていますね」
「問題を解決してここに帰ってきます。〈婿〉とか〈養子〉の話は待ってもらえませんか?」
ベックはマックスの顔を見た。
マックスの瞳は彼の真剣な気持ちを伝えていた。
「マックス殿、クロエ様のことを真剣に考えてくださってありがとうございます。承知しました。マックス殿のお帰りをお待ちしています」
そう言ってベックはマックスに微笑んだ。
その後、クロエとマックスの連絡が途絶えたり、クロエの妊娠が発覚したり、マックスが王女と婚約したのではないか…と気を揉んだが、マックスは宣言通りに問題を解決してこの地に戻ってきてくれた。
子供の頃からずっと見守ってきたクロエが、幸せな結婚をして、子にも恵まれた。
ベックは一行がくぐって出て行った城門の方を見ながら、先ほどの馬車に乗り込む時に垣間見えた親子3人の姿を思い浮かべ、マックスとのやり取りを思い出していた。
………………………
14日の旅程で王都に入ったアルシェッタ辺境伯一行は、ある教会に立ち寄った。
アンジェラが身を寄せている教会だった。
先触れを聞いたアンジェラはシスターの姿で教会の前で待っていてくれた。
「義母上、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「お義母様、ごきげんよう。お元気でしたか?」
クロエとマックスが笑顔で挨拶をすると。
「お二人ともお元気そうでよかったわ。お陰様で私は元気に過ごしています…まぁ!その子が?」
アンジェラはクロエに抱かれている赤ちゃんを見て既に涙目になっていた。
「リト…おいで」とマックスの腕に抱き上げられ、アンジェラがよく見えるように近づいた。
「義母上、孫ですよ。孫のリヒトです」とアンジェラに言うと、アンジェラは涙を流しながら「マクシミリアン様、クロエ様おめでとうございます。可愛い元気なお子ね!リヒトちゃんね!いい名前だわ」と幸せそうに微笑んだ。
「抱いてやってください」マックスの言葉に、嬉しそうに笑って両手をリヒトに差し出した。
「リヒトちゃん、おばあちゃまですよ」
アンジェラに抱き上げられたリヒトはおとなしく、じっとアンジェラの顔を見ていた。
「ふふ、マクシミリアン様に瓜二つね…あの人にも似ているわ」アンジェラは愛おしそうにリヒトを見つめて言った。
「お義母様、お義父様にもご挨拶させていただけませんか?今日はお義母様とお義父様にリヒトを紹介しようと思って参りました」とクロエは告げて、4人は歴代ドミトス公爵家の人間が眠る墓所に花を手向けに向かった。
墓所の周りには小さな花壇が設えてあり、季節の小花が咲いていた。きっとアンジェラが世話をしているのだろう。
その墓所の中にマックスの父アーノルドと実母ケイトの墓があった。
マックスとクロエはふたつの墓石に花を手向けた。
「ありがとう、きっとマクシミリアン様のご両親も喜んでいるわ。あなた達の初孫ですよ…リヒトちゃんって言うの…アーノルド、あなたに似てますね」とアンジェラはアーノルドの墓石に向かって話しかけていた。
クロエとマックス、リヒトが墓所に花を手向けたあと、辺境伯領から運んできた物資を運び終えるまで、しばらく三世代の交流を楽しんだ。
運び込まれる物資を見てアンジェラは「まぁ!こんなにたくさん!本当にありがとう!」と喜んだ。
「レオから義母上が孤児院の運営を始めるって聞いたものですから…あれがそうですか?」とマックスはアンジェラ達シスターが住まう別棟の後ろにさらに建築中の建物を見て言った。
「ええ、レオが寄進してくれたの。この別棟と教会と渡り廊下で繋ぐ予定なの。司祭とシスターと子供たちが雨でも行き来しやすいように…」
「レオもやりますね!ふふ」マックスは嬉しそうに笑った




