〈52〉
「素直に認めてくれて助かるよ。さぁ、ランドルク伯爵…夫人は認めたよ。君は伯爵家当主としてどう責任を取る?私としては、すべて白状して相応の責任を取ると申告して欲しいのだが…」
エリックはジェームスに視線を移した。
「誠に申し訳ございません!…実は、最近の妻の様子がおかしく、気になり調べた結果、先ほど殿下が仰った事を初めて知りました。伯爵家の者が公爵家の方に危害を加えるなど言語道断。しかし妻が勝手に始めた事…言い訳にもなりませんが、けじめとして妻と離縁して公爵家にお詫びにうかがおうと思っておりました。近衛の方が我が屋敷にいらっしゃる直前に妻にサインを書かせていたところでございました」とランドルク伯爵は大袈裟に頭を下げてエリックに告げた。
家門同士の諍いは〈示談〉を基本としている。王家が介入することは特別な事例以外無い。
全てはロベリアが起こした騒動。ロベリアを放逐すれば、元には戻らなくてもこの騒動は終結するとジェームスは考えた。
「誠心誠意、公爵殿には謝罪を致します。王家の方のお手を煩わせることは致しません。お騒がせして、大変申し訳ございませんでした」とジェームスは付け足した。
「なるほど、伯爵自身は何も知らなくて、すべてはランドルク伯爵夫人がひとりで暴走したと申すのか?」
「さようでございます。ですので私が当主として誠心誠意謝罪を…」
「そうか…。そうだ夫人。3年前の公爵襲撃の時はいくらでギルドを雇った?」
「え?…あの時は…えっと…」ロベリアはその時初めて報酬を払っていなかった事に気がついた。
答えられないでいると、
「無報酬か?」
「…申し訳ございません。記憶が…」歯切れ悪くロベリアが答える。
(まずい)と思ったジェームスは「殿下、申し訳ございません。その件も、責任を持って対処致します」とエリックに申告した
しかし「必要ない」とエリックはキッパリ告げる。
そして「今回の襲撃の時はギルドをいくらで雇った?」とロベリアに再度質問した。
「今回はまだ報酬は渡しておりません」
「夫人。それは常識ではあり得ない。危険な仕事の場合、前金が鉄則なのだ。命をかけるからな…」
「え?…そうなのですか?」驚くロベリアに
「ふぅ…仮にも伯爵夫人…知らなくても仕方ない…か…」と呆れるように呟いた後でエリックは
「では、実際は誰が報酬を払ったのだろうな…」と言いながら、ジェームスに視線を戻した。
ジェームスの背中に冷や汗が流れる。
エリックは再び「誰なんだろうな…」とジェームスを見ながら言った。
「さ、さぁ…私にはわかりかねます…」心臓が早鐘を打っているのを隠して平静を装ってジェームスはなんとか答えた。
「そうか、わからないか…本当に?」
エリックの質問にジェームスはどう答えるのが正解か悩んだ。〈すぐに謝って、自分が報酬を払った〉と言うべきか〈最後までしらをきる〉べきか。
ジェームスは「申し訳ございません。実はギルドが我が家に参りまして〈夫人の負債の責任を持ってくれ〉と言われまして…ギルドに早く帰ってもらいたくて報酬を払ってしまいました」と前者を選んだ。
「そうか、取り立てが来てしまったか…それでいくらだったんだ?」
「え?」
「報酬金額だよ」
「ご、500ダルク…でした」
「500?自分のギルドに?わざわざ報酬を払ったのか?」
「え?」
「え?自分の?」ロベリアも思わず声をあげた。
「ランドルクが実質オーナーのギルドだろう?そして夫人が利用していた高利貸しの運営も…」
「私はギルドの運営など…」
「してるよな…」エリックの言葉は有無を言わせぬ強さがあった。そして「ランドルク、さっき私は、もう調べはついていると言ったが…自分への言葉ではないと思ったか?」と冷たく言い放った。
ジェームスもこれ以上の取り繕いは無理だと判断した。「…申し訳……ございませんでした…」絞り出すようにエリックに告げた。
「認めるんだな」
「…はい」
「ジェームス・ランドルクは妻ロベリア・ランドルクのドミトス公爵家乗っ取りの動きをただ黙認するだけでなく、借金をわざと続けさせ、追い詰め、行動をより苛烈にさせた。で間違いないか?」
「…はい、間違い…ございません」
それを横で聞いていたロベリアが
「…あなた…どう言うことなの?全部知ってたの?失敗したから私を捨てようとしたの?…どう言うこと?」
「夫人はうまく利用されたんだ。夫人が乗っ取りに成功すれば、なんの苦労もなくドミトスの権限が手に入る。失敗すれば、自分は手を汚していないから夫人を切れば逃げられると考えたのであろう?」
「酷いわ!!私を利用するなんて!!」ロベリアは大声をあげて夫に抗議した。
その声に「夫人…最初に行動を起こしたのは夫人だ。自分で返せない借金を最初に作ったのは夫人だ。ランドルクは夫人を煽り横取りしようとしたに過ぎない。間違えてはいけない」とエリックは静かに諭した。
ロベリアは黙り込んだ。
ジェームスは逃げ道を見つけたとばかりに「殿下!そこまでお調べがついていたとは…誠に申し訳ございませんでした。つきましては、妻と共に公爵に真摯に謝罪し話し合いで解決したいと思います」と言ったが、
エリックは「そうもいかなくなったんだよね…」と残念そうに言った。
「なぜでしょう?家門同士の問題でございます。王家の方のお手を煩わせることではなく、当事者同士で解決を目指せば良いのではないのでしょうか?」
「その当事者に私も入っている…と言えばどうする?」




