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クロエ  作者: KAE


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51/63

〈51〉

「え?帰ってきたですって?」


「はい、おひとりで馬車を操っておかえりになったようです」


マクシミリアンはかすり傷ひとつ負わずに屋敷に帰ってきていた。


「わかったわ、ご苦労様。もうおかえりなさい」


「はい、かしこまりました。失礼します」


間者が退室してひとり残された部屋の中でロベリアは頭を抱えた。

(失敗したんだ…なぜ?ギルドの中でも精鋭を雇ったのに…あ、これではギルドへの支払いも…)


「どうしよう…どうしよう…どうしよう」何度呟いても考えは纏まらない。


ひとり悶々としていると、家令が「旦那様がお呼びです」と告げてきた。


悪い予感しかしない。しかし、行かなくてはならない。

重い足をランドルク伯爵の執務室に向けた。


扉をノックして「入れ」の言葉に緊張する。

深呼吸して笑顔を作って扉を開けた。


「あなた、お呼びとうかがいましたが…」


ランドルク伯爵はソファに座っていた。ロベリアに前のソファを勧める。


震える足でソファに向かい腰かける。


「ロベリア、ここにサインを…」とロベリアの前に書類を置いた。


離縁届けだった。


「え?…嫌よ…なぜ?借金はまだ返済し終わってないけど、持ってるものは殆ど換金して返済に回したわ!あなた、お願いだからもう少し待って…ね、お願い」


「ロベリア、お前は私が何も知らないと思っているのか?」


「え?」


「ウチは伯爵家だ、伯爵位の者が上位の公爵家の者に危害を加えるとどうなる?」


「あ、な、なんの事?」


「しらをきるな…」


「で、でも…公爵様はお元気よ…」


「元気が否かは関係ない。危害を加えたか否かが問題なのだ。伯爵家が共倒れは困る。借金は肩替わりする。だからサインをしろ」


「あ、あなた…」ロベリアは縋るように夫を見るが、ジェームス・ランドルク伯爵はロベリアを見据えて揺るぎない決心を伝える。


ロベリアは涙すら出なかった。震える手でペンを握りサインを始めた。その時、扉がノックされ侍従が王宮からの使いで近衛兵が当主との面会を希望している。と伝えてきた。


「近衛兵?」使いで近衛兵が来るのは、その者に何かの容疑がある時だけ…

(どういうことだ?)と目の前のロベリアに視線を送る。

ロベリアも混乱しているようだった。


ランドルク伯爵は「逃げるわけにもいくまい…わかった。行こう…ロベリア…お前もだ」


こうしてランドルク伯爵夫妻は、近衛兵に護衛されて王宮に〈招待〉という名目で連行されて行った。


………………………………………


暫くここで待つように…と言われてかなりの時間が経っていた。


ランドルク伯爵夫妻は王宮の一角にある部屋に案内されて、用意された椅子に腰掛けていた。


夫妻の前には事務机と部屋に似つかわしくない座り心地の良さそうな椅子がある。

それ以外の家具や調度品は何も無く、内扉がひとつあるので、続き部屋があることがうかがえる。


最初は緊張して周りを見る余裕もなかったジェームスは少し落ち着いたのか、ロベリアの膝に置かれた手が見えた。

貴婦人らしく行儀良く重ねられた両手は明らかに震えていた。


ジェームスは舌打ちをしてロベリアを見た。


「まったく、お前は何をしたんだ?なぜ私もここに呼ばれる羽目になったんだ?」


「わかりません…私は…」ロベリアは混乱して返答に困っていた。

いろいろ画策した自覚はあったが、王宮に国王の名で呼ばれる事はしていない。

呼ばれるとしたら、上位爵位の者への加害の罪で王宮騎士団に呼ばれる程度だろう…。

近衛に連行される程のことはしていないはずだ…。


「ッチッ!…まったく…離縁は確定だからな…」


「…はい」ロベリアは俯いて小さく返事した。


その時、続き部屋に通じる扉が開き、王太子のエリックが入ってきた。


「待たせた…」ひとこと言いながらエリックは事務机の方に向かう。


ジェームスとロベリアは立ち上がり臣下の礼をとった。


「…楽にしてくれ。…まぁ、かけてくれ」エリックの言葉にランドルク伯爵夫妻は椅子に腰かける。


「陛下から委任を受けて私が来ることになった。心しておいてくれ…さて、今日、来てもらったのはランドルク伯爵夫妻に聞きたいことがあってね」とエリックが椅子にかけながら話した。


エリックは腰掛けた後、机に両肘をつき、手を組んで顎を支えて、ランドルク伯爵夫妻を見据える。


ジェームスは落ち着いているが、ロベリアは顔面が蒼白になり今にも倒れそうだ。


エリックがロベリアに声をかけた。


「ランドルク伯爵夫人…」


「…はい」


「夫人はハング伯爵を知っているか?…いや知ってるな?」


「…はい」


「なぜ、ドミトス公爵を襲わせた?」


「え?…なぜ…はっ!」思わず口を滑らしたロベリアははっとして口を閉じた。


「ふふ、身に覚えがあるようだね…ごまかせないよ、もう調べはついてある。襲わせた理由は?」


「…それは…」と言ったままロベリアは黙ってしまった。


「言いにくかったら私が言ってやろう。

ランドルク伯爵夫人は賭博に嵌り、莫大な借金を背負い、娘の嫁ぎ先のドミトス公爵家に目をつけた。孫が当主になれば、ドミトス公爵家の莫大な資産は自分の自由にできると思ったのだろう?しかし嫡男マクシミリアンが邪魔だ。だから何度も襲撃してマクシミリアンを亡き者にしようとした。ハング伯爵を唆したのもそのためだ…どうやら失敗したようだけどね」


ロベリアはエリックの視線に震え上がっていた。


「認めるね」エリックが静かにロベリアに告げると

ロベリアは「はい」と観念したようにか細く返事した。


「そうか…素直なのは助かるよ。じゃあ、3年前にドミトス公爵を拉致監禁し拷問を行ったことや薬を盛ったことも認めるね」


「はい」


「アンジェラ・ドミトス前公爵夫人から金品を奪ったのも認めるね?」


「はい」


「ハング伯爵にドミトス公爵襲撃依頼をしたのも認めるね?」


「はい」


「そして、今日。ドミトス公爵と同伴女性を襲撃したのも認めるね?」


「…はい」


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