〈43〉
社交界では最近「ドミトス公爵が本気で伴侶を探し始めたようだ」という噂が流れていた。
どうやら頻繁に女性と連れ立って街でデートをしているらしい。
「金髪の綺麗な女性だそうですわよ…帽子を深く被っていたようですけど…」
「あら、私は黒髪の美しい方だった…とは聞きましたわ。その方も帽子を被っていらっしゃったみたいですが…」
「とても仲睦まじい様子だと聞きました。髪色までは聞きませんでしたが…」
「私は、アルシェッタ辺境伯代理のクロエ様がお似合いだと思っていたのですけど…」
「確かに、王宮舞踏会でのおふたりはとても素敵でしたわよね」
「でも、あの方は、辺境伯を継ぐお方なので、公爵家に入ることは無理なのでしょう…」
「そうですわね…なんだか残念ですわ…」
「もしかしたら、私どもにもお誘いがあったりしますでしょうか?」
「どうでしょう?いっかいの伯爵家では恐れ多いですわ」
「でも、お誘いがあったら嬉しいですわねー」
と令嬢達の間では度々話題に上っていた。
そんな話をカフェでしていた彼女たちの前をドミトス公爵家の馬車が通過して、カフェの前で停まった。
「あら、噂をすれば…」彼女達の視線が窓ガラス越しに公爵家の馬車の方に向いた。
馬車の扉が開き、話題の公爵が降りてきた。
金色の長い髪を黒と金の組紐で結んでいて、茶色のジャケットスーツを着ていても、鍛えられて均整の取れた肢体は隠せない。
公爵は馬車に向かいエスコートの手を差し出す。
嫋やかな手が公爵の手に重なり、帽子を被った金髪の淡いピンク色のドレスを纏った女性が降りてきた。
「あら、今日の方は金髪…」と誰かが呟いた。
公爵はその女性に微笑んで、エスコートをしながらカフェに入ってきた。
予約をしていたのか、カフェに入ってすぐに店員が奥のテラス席に案内していた。
ふたりは寄り添うように連れ立って奥のテラス席に歩いていった。
見送った彼女達は「お顔は見えなかったけど、仲睦まじそうだったわね」とため息をついていた。
…………………………
案内されたテラス席に腰かけたふたりは、ティーセットを注文して、顔を寄せ合って談笑していた。
「ふふ、クロエ、今日はなんて可愛いんだ…その格好もよく似合うよ…ふふふふ」
クロエは少し不貞腐れながら「知ってる…。似合うように髪も化粧も頑張ってきたからな…。少しフリルが邪魔だが…」
「フリルは苦手か?…うーん…確かにあの黄色いドレスもフリルは少なめだったよな…」と何かを思い出しながら呟いた。
「いったい何年前の話をしているんだ?私が16歳の時の話だぞ」クロエは赤くなりながら言い返した。
「何年経ってもクロエは可愛い。俺のクロエは可愛い」
「マックス、最近言ってることが変だぞ!」
「だって嬉しいんだ。こうしてクロエとデートができるんだ…浮かれている自覚はあるさ」
「ふふ、私も嬉しいよ、できたらもう少しマシなドレスがよかったけどな…」
「似合っているよ、今度のデートにはドレスはどんなのがいい?今から買いに行かないか?」
「ふふ、マックスが選んでくれるのか?」
「ああ!もちろん!さぁ行こう!」とエスコートの手を差し出す。
「ふふ、ええ!」と淑女らしく笑って差し出された手に手を伸ばした。
そしてふたりはカフェを出て高級衣装室に入り、暫くしてから衣装ケースをいくつも馬車に積み込んでいるのを沢山の人に目撃されていた。
それはある意味ふたりの思惑通りだった。
馬車の中では、クロエが積み込まれた衣装ケースを大事そうに撫でながら「マックス…こんなにたくさんありがとう。大事に着るね」とマックスに微笑んだ。
「これくらいで大袈裟な…ふふ。クロエとの買い物は楽しかった…今度はどこに行こう?宝飾店?」
「いやそれより…私はマックスとの思い出になる場所に行きたい」
「じゃあ宝飾店は次のデートで行こう…。植物園に行かないか?」
「植物園?行きたい!」
「決まりだ!」
ふたりは植物園に行き、腕を組んで温室の中を散策していた。
微笑み合い、談笑しながら園内を歩いている。
どこから見ても想い合う恋人同士だった。
「マックス、こんな事言うのは不謹慎だとわかっているんだけど、私はこの時間が楽しい…普通の令嬢のように男性と腕を組んでデートしてる…ふふ」
「俺だってこの時間が楽しい。好きな女性とデートしてるんだ…これからもたくさんデートしよう!」
「……」
「?」一瞬あいた間にマックスはクロエに視線を向けたが、帽子で顔が見えない。
「…そうだな…たくさん思い出を作って行こう!」
「ああ!約束な!」
「うん」と言ったクロエは組んでいるマックスの腕に頭を寄せた。
「クロエ、愛してるよ」
「私もマックスを愛している」
ふたりは寄り添いながら植物園の散策を楽しんだ。
………………………………………
「おかえりなさいませ」帰宅したマックスをエリオットが出迎えた。
「帰った。何か変わったことは?」
「はい。今日もロベリア夫人がいらっしゃっていました。レオナード様が同席されて大事には至らなかったようです」
「そうか…義母上の様子は?」
「はい、今日は落ち着いていたのですが、夫人がお帰りになった後は休まれております」
「そうか…レオナードは?」
「いらっしゃいます。お呼びしますか?」
「ああ、頼む」
「かしこまりました」




