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クロエ  作者: KAE


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42/63

〈42〉

調印式から2週間後、エリック一行は王都に帰還した。


王宮で国王に帰還と調印完了の報告をして、各々の家からの迎えの馬車に乗り屋敷へと戻っていった。


ドミトス公爵家にも当主帰還の前触れが来て、レオナードや家令のエリオットは出迎えの準備をしていた。

慌ただしい中ひとりの使用人が屋敷を抜けてランドルク伯爵邸に向かった。


…………………………………


「〈帰還する〉ですって?」


「はい、今頃は屋敷に帰還なさっているかと…」


「わかったわ。あなたはもう戻りなさい」


「かしこまりました。…では」


ロベリアは混乱していた。

(ハング伯爵が失敗した?…それとも誘いに乗らなかった?…当主が健在は困るわ…これからどうしよう…)


暫く、今後のことを考えているとロベリアの私室の扉をノックする音がした。

「奥様、よろしいでしょうか?」と家令の声がした。


「どうぞ」


静かに扉が開き家令が入ってきた。


「失礼いたします。旦那様が奥様をお呼びです」


「え?…そう、わかったわ」


家令が出ていき、ロベリアもすぐに向かわなければならなかったが、気が重く、なかなか動けなかった。


重い足取りでランドルク伯爵の執務室に向かい扉をノックした。

中から「入れ」と声がしてロベリアは入室した。


「あなた。お呼びと聞きましたが…」普段のように笑顔で夫に話しかけた。


普段なら執務机から離れて立ち上がり妻を迎え入れてくれるのに今日は執務机から離れない。


ランドルク伯爵は妻の呼びかけに、不機嫌そうに「ああ…」とひとこと言っただけだった。


夫の不機嫌そうな顔にロベリアは焦った。

思い当たる節がありすぎて下手に何かを言うことはできない。

「…どうかされました?」と引き攣った笑みを見せる。


ランドルク伯爵は執務机の脇に置いてあった紙の束をロベリアがよく見えるように机の真ん中にトサッと投げ置いた。「これのことだが…」


「あら、何かしら、これっ……て」ロベリアは言い終わる前に紙の束が何なのかを知り言葉に詰まった。


〈借用書〉に〈買取証〉〈質屋の預かり証〉が束になっていた。


「お前の予算が足りなかったか?」とランドルク伯爵は冷たくロベリアに聞いてきた。


「あ…あの、これは…その」


「その…なんだ?」と言いなからその束をペラペラとめくる。


「この、買取証の指輪やネックレスはアンジェラに買ってやった物だと記憶しているが…なぜお前の名前で売っている?」


「え?それは…その…アンジェラに頼まれて…」


「は?…ドミトスの内情はそんなに困っているのか?それならば、直接アンジェラに話を聞かねばなるまいな…。直ぐにでも様子を見にいってやらねば…」と椅子から腰を浮かせた。


「あ!待って…。もう大丈夫そうなの。マクシミリアン様がお戻りになったようで…」


「…そうなのか…以前王宮舞踏会でお見かけした時は、療養していたとは感じさせなかったからな…しかし、いったいどんな病を患っていたのだ?お前は聞いているか?」


「え?さぁ?私は…なにも…」


「アンジェラはちょくちょくお前の元に来ていたが…なにも話さなかったのか?」


「ええ…他愛ない話しかしてないわ…アンジェラにとっては義理の息子ですもの…」


「…そうか。それよりも、これはどう処理するつもりだ?」再びランドルク伯爵は妻を見据えた。


「あ…それは…」とロベリアの目が泳いだ。


「残念ながら、今期の予算からは全てを補填してやれない…利息だけでもかなりの額になっているが…いったいどうやったらこんなに入り用になるんだ?」


「ええ…。ごめんなさいあなた」


ランドルク伯爵は紙の束の横に小切手を出して

「私から補填してやれる分だ。それ以外はお前の手持ちのドレスや宝飾品を処分して完済しろ。再度こんな物が見つかったら離縁する」


「え?離縁…」


「そうだ。お前には十分な予算を渡してあるはずだ、それ以上の散財は伯爵家を潰す。それは許されない」


「はい、わかりました」そう言ってロベリアは小切手を受け取りランドルク伯爵の執務室を出ていった。


…………………


ロベリアが退室したのを確認したランドルク伯爵は椅子の背もたれに体重をかけて座り直し「ふぅー」と息を吐く。

「まったく役に立たないな…。いいところに目をつけて、上手くやっているようだと思っていたのにな…。あの息子も意外としぶとい」


ずっと側についていた家令が「どうやって逃げたのでしょうか?」と主人に尋ねた。


「わからんな…黒い馬で逃げた。と報告は受けたが…ロベリアの詰めが甘かったのだろう。今回も何か動いていたようだが…失敗したのだろうな…今日、屋敷に帰還したそうだ」


「さようでございますか。それと旦那様。小切手はあの金額でよろしかったのですか?」と尋ねてきた。


「ああ、どうせまた賭場に行って全部擦ってくるだろうからな…あれ以上は必要ない。そろそろ取り立てをロベリアの元に向かわせてくれ」


「かしこまりました」


ランドルク伯爵の言った通りロベリアは賭場で小切手分の資金を全て擦ってくることになった。


数日後、今まで何も言ってこなかった高利貸しがロベリアを訪ねてきた。

そして、益々ロベリアは追い詰められていった。


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