〈41〉
「ウイング!ボイジャー!おはよう!」
朝、目覚めたクロエは愛馬達のところにきていた。
「ウイングもボイジャーもよく休めたか?」と2頭の鼻面を撫でながら聞くと
ウイングもボイジャーも「ブルルル…」と鼻を鳴らしながらクロエに擦り寄ってきた。
「そうか!ご機嫌がいいんだな!ふふ、よかった」
「クロエ!…おはよう!」とマックスが厩舎に入ってきた。
クロエはウイングとボイジャーに抱きつきながら、振り返り「マックス、おはよう!眠れたか?昨日は随分遅くまで捕まっていたな…」
「ははは…普段は澄ましているのに、昨日はすっかり化けの皮が剥がれて、陽気なおじさん達になってた…ははは」
「一仕事終えたからな…気が緩んだんだろう」
「まぁな…皆、責任ある立場だからな…」
「ふふ、それな…」
またひとり厩舎に入ってくる人物がいた。
「おはようございます。クロエ様、マックス殿」
ジルに続いて隊員達も入ってくる。
「おはよう!…どうした?」
「いえ、マックスの姿が見えたので、久しぶりに一緒に駆けようかな…と思いまして…クロエ様もいかがですか?」
「いいな!ウイングもボイジャーも行くか?」
ウイングもボイジャーも前脚を浮かして「ブルブル」と鳴く。
馬場には賑やかな声と馬の嘶きが響いていた。
ジル隊長を先頭に隊員達が馬場の外周を駆けている。クロエとマックスも最後尾について駆けていた。
その様子をエリックとハドソン侯爵は並んで遠くから見ていた。
離れていても馬が駆ける地鳴りを感じる。
エリックとハドソン侯爵の後ろから3人の伯爵が「殿下、侯爵殿。おはようございます」と声をかけてきた。
「やあ、おはよう!数多くの馬のいななきが聞こえてきたので、気になって来てみたよ…」
「…あれは、辺境伯軍とアルシェッタ殿とドミトス殿ですか?」
「ああ、軍隊に全く負けて無いな…」
「もう、驚きませんよ…さすがですな」
その間にも馬群はどんどんスピードを上げていき、外周を外れて遠くに駆けて行った。
「行ってしまいましたな…」
「早いですね…」
「日々鍛えておかないといけない環境だったのだな…城といい、アルシェッタ辺境伯軍といい厳しい環境にいたことがうかがえる」
「まことに、辺境伯家は代々こうして国を守ってくれていたのですね…」
「平和が続けば我が国の辺境伯の負担も減るのだな…そういえば、アイルナ伯爵家の次男坊はアルシェッタの婿になる気があるのか?」
「いいえ、ウチの愚息にアルシェッタ殿の婿は務まりません」
「そうか…ふふ。どんな奴なら務まるんだろうな…」
そこへ、ベックが朝食の用意ができた。と伝えにきた。
「アルシェッタとドミトスが馬で駆けて行ったが…」
「さようでございますか。遠駆け訓練の時期ではないので、すぐに戻られるでしょう」
「遠駆け訓練?」
「はい、人と馬が甲冑をつけて砦まで1日で駆け抜けられるようにする訓練です」
「1日で!そうなのかすごいな…日々鍛錬を怠らないんだな…国境線を守ってくれて感謝する」
「恐れ入ります」
地鳴りが近づいてきた。今度はクロエとマックスを先頭に馬群が馬場に入ってきて、徐々に速度を落としている。
その様子を見ているエリック達に、ベックは「戻ってこられたようですね。すぐにこちらにこられるでしょう。さぁ、ご案内いたします」と
エリック達はベックに案内され、ダイニングに向かった。
………………………………………
2日後、ムーンベルクの一行がムーンベルクの辺境領に到着したと連絡が入った。
クロエ達は調印式会場となる第一砦に向かった。
そして今日、交易路開通調印式の運びとなった。
ダイナモ王国からはエリック王太子と街道が通る領地の領主と取り纏め役のマックスが出席し、ムーンベルク王国からはランスロット王太子と街道が通る領地の領主が出席した。
調印式は終始友好的に進み、1年後の秋の開通を目指すことで調印した。
調印式後、出席者全員で懇親会が行われ、和やかな時間が流れた。そろそろお開きの時間と思われた時、クロエの元に金髪の王太子ランスロットと銀髪のカステヤ辺境伯がやってきた。
そして「ダイナモ王国辺境伯代理クロエ・アルシェッタ殿。改めてご両親のこと深くお詫び申し上げる。そして、我らの申し出を受けてくださり、感謝申し上げます」とランスロット王太子は頭を下げた。それに倣い後ろで控える辺境伯やムーンベルクの諸侯も頭を下げた。
クロエも「どうぞ頭を上げてください。ムーンベルク王国の誠意確かに受け取りました。それに、両国間が末長く平和に交流できるようになることが両親の願いでもありました。これからは友好国として幾久しくよろしくお願いいたします」と膝を折り淑女の礼をした。
ランスロットは「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。それとこれをご両親の墓前にお願いできませんでしょうか?立場上直接手向けることはまだ難しく、厚かましいお願いと承知しております」と辺境伯から受け取った花束をクロエに手渡してきた。
クロエも「お心遣いありがとう存じます。両親も喜びます」と受け取った。
そして、ムーンベルク一行は自国の領土へ帰って行った。
辺境伯の屋敷への帰還途中にクロエは両親の墓所に立ち寄った。マックスやエリック、諸侯も一緒に花を手向けてくれた。
「お父様、お母様。ムーンベルクの気持ちを受け取りました。これでよかったんですよね…」とクロエは両親に祈りを捧げていた。
クロエは、これで本当に前に進めるような気がした。




