〈40〉
2日後の午前、一行はアルシェッタ辺境伯の屋敷に到着した。
屋敷といっても、貴族家の一般的な屋敷と違い堅牢な城を思わせる造りに、諸侯達は驚いているようだった。
大きな鉄でできた城門が開かれ、クロエとマックスの誘導で芝生が敷かれただけの広大な前庭の中を暫く走り、やっと屋敷の車寄せに到着した。
クロエとマックスがそこで馬から降りて、ウイングとボイジャーと共に馬車から降りたエリック一行を誘導して車寄せの大きな扉を潜った。
ウイングとボイジャーはそこで自分達で帰るべきところに向かったようで、クロエとマックスの側から離れた。
大きな扉の先には広い中庭があり、その先に屋敷の玄関があった。
中庭には、甲冑を身につけた辺境伯軍が整列をして一行を出迎えていた。
整列している辺境伯軍の間を進みやっと玄関にたどり着いた。
玄関先にはベックが待機していて、臣下の礼でエリック一行を出迎えた。
クロエからベックと辺境伯軍の紹介を受けて、それぞれに挨拶の言葉を送り、屋敷の中に入る。
屋敷のホールも広く天井は3階までの吹き抜けになっている。しかし、華美な装飾は何一つ無い。
クロエがひたすら驚いているエリックや諸侯に
「ふふ、驚かれましたでしょう、有事の時の近隣領民の避難所も兼ねているので、ただ広いだけなのですが…」と笑いながら玄関ホールを右に折れて屋敷の左翼にある来客用サロンに案内した。サロンは必要最低限の品の良い調度品が置かれ、部屋の隅には花が生けられていた。
「どうぞ、お寛ぎください。ただ今、お茶をお持ちいたします」とクロエはいったんサロンを辞した。
「まるで城ですな…」
「驚きました」
「しかし、広いですな…いったい何人が収容できるのでしょうか?」諸侯は口々に感想を漏らしていた。
「外観からは想像できない内装ですな…アルシェッタ辺境伯家の心遣いがうかがえますな」とハドソン侯爵がサロンの中を見回しながらエリックに話しかけると、
「うむ。強く、優しい屋敷だな…」とエリックはガラス窓の外の庭園を眺めながら呟いた。
サロンの外のテラスの向こうに整えられた庭園が春の陽射しに照らされて美しく輝いて見えた。
暫くしてクロエとベックがティーセットを載せたワゴンを押して入ってきた。
ベックは慣れた手つきで茶を淹れ「お疲れでございましょう。お部屋に荷物を運んでございます。いつでもご案内できますので、お声掛けください」と言って部屋の隅に待機した。
「アルシェッタ、心遣い感謝する。では少し休ませてもらって部屋に案内してもらおう」とエリックがクロエに話しかけ諸侯も頷いていた。
そして、午後から街道整備の情報共有の地図とムーンベルクに資料として渡す街道の地図の制作に取り掛かることを確認して、エリックと諸侯は待機していた侍女に誘導されて用意された部屋に向かった。
サロンにはエリック、諸侯を見送ったクロエとマックスとベックが残された。
ベックが「クロエ様、マックス殿おかえりなさい」と改めて伝えると
「「ただいま」」とクロエとマックスはホッとしたような笑顔でベックに笑った。
「ふふ、お疲れでしょ?昼まで少しゆっくりなさいませ」
「ああ、少し休もう…マックス、行こう!」
「そうだな…」とふたりは屋敷の右翼にあるプライベートエリアに向かった。
挙動不審なマックスに「マックス殿の部屋は前に帰ってきた時に使っていた部屋ですよ!間違っても宿舎には行かないでくださいね」とベックに言われて
「ははは、ありがとうございます。実はどちらに戻るのが正解か迷っていました」とマックスは笑った。
3人は笑いながら、ベックは執務室にクロエとマックスは私室に向かっていった。
…………………………
ベックが執務室で仕事をしていると、扉をノックする音がしてベックの返事と共にマックスが入ってきた。
「おや、マックス殿。どうしました?」ベックはマックスにソファを勧める。
マックスはソファには座らずベックの元にやってきて「ベックさん。お話があります」と真剣な顔で伝えた。
「どうしましたか?」とベックは穏やかな顔で聞いた。
………………………………………
昼食を挟み、普段はホールとして使われる広い部屋に大きい机を持ち込み、街道整備図と資料制作を始めた。
時には眉間に皺を寄せて話し合い、時には笑い合い、試算をして2日後の夜には皆が納得できるものができた。
「完成したな…皆、ご苦労だったな」エリックが皆を労った。
「とんでもございません、殿下。私は今回とても良い旅、良い経験をさせていただきました。ありがとうございました」ハドソン侯爵がすっきりした笑顔で言った。
「私も、皆さんと時間を共にして得るものが多かったです。殿下をはじめ皆さんには感謝しております」アイルナ伯爵も笑顔だった。
「ああ、楽しかったな…これからも問題は起こるが、協力してより良くしていこう」
「そうですね。これからもよろしくお願いします」
その場にいる全員が笑顔だった。
「もし、お時間が許しましたら、サロンに酒肴を用意させておりますが、いかがでしょうか?」とクロエが誘った。
「いいな!旅の打ち上げといこう!」とエリックがのってきたので、皆はサロンに移動していき、その夜は賑やかな声が夜遅くまでサロンから聞こえてきていた。




