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クロエ  作者: KAE


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36/63

〈36〉

「ハングよ、なぜ我らを襲った?」とエリックが冷え冷えする瞳でハング伯爵を見据えて聞いた。


「で、殿下を襲うなんて…とんでもない!」ハング伯爵は傍目にも震えていることがわかる。


「だが、実際襲われたぞ。しかも野盗に変装させてまで…だ」


「…それは…騎士達が…勝手に…」


「勝手に…我らを襲ってなんの得がある?」


「まさか、殿下や諸侯がいらっしゃるとは思わなかったのではないか…と。積荷が目当て…で」


「彼らは積荷には興味も示さなかった。もっと言えば護衛を襲うことが目的に見えた」


「…そ、それは…」


「ハングよ、我らは長い旅で疲れている。そして私は今、非常に機嫌が悪い…問答無用で全員打ち首に処したい気分だ…」エリックの冷たく見据えている瞳がさらに温度を低くする。

「それを、わざわざ話を聞いてやっているのに…」と言いながらため息をつく。


そして「話せ!」と最後通告をハングに言い渡した。


ハング伯爵は観念した。

「申し訳ございませんっ」とその場に土下座して白状した。

「隣国との交易路が開通すると聞きました。そしてその交易路はすぐ南のガイナ伯爵の領地を通る街道を利用すると…もし、その道が安全ではないと判断されれば、我が領地を通る街道に変更されるのではないかと…」


「不思議だな。そう考える奴もいるだろうとは予想していたが…なぜ我らの商隊(キャラバン)を狙った?

偶然とは言わせんぞ、この一年以上の間、他の商隊(キャラバン)がガイナ伯爵領内で襲われた事実はないからな…わざわざ我らを狙ったと考えるのが自然であろう?しかも野盗に扮してまで…」


「うっ…それは…」


「…私が黙って聞いている間に早く話せ!」


「く、黒い軍馬に跨っている護衛がいる商隊(キャラバン)を狙えば、国が〈ガイナ伯爵領の街道通過は危険を伴うと判断される〉と…」


「は?」マックスは思わず口から声が出てしまった。

エリックの両サイドに座る諸侯も怪訝な顔をしてハング伯爵を見据えている。


エリックの背後から怒りのオーラが立ち上っている。

「それは、わざわざ公爵を狙った…と言っているのだぞ…下位貴族が上位貴族を害そうとした…と。それは自殺行為だと理解しているのか?」


「そ、それは…」


「なぜ、公爵が商隊(キャラバン)の護衛をすると知っていた?順を追って話せ!言い訳は聞かん!」

エリックの怒鳴り声がサロンに響き渡った。


ハング伯爵は全てを白状した。

ハング伯爵は隣国との間で交易路開通の話が出ていることは知っていた。

そしてある人物から、ドミトス公爵が商隊(キャラバン)の護衛に扮して街道敷設の現地調査に向かったことを知らされた。ドミトス公爵になにかあれば、ガイナ伯爵領の街道は迂回されるであろう、必然的にハング伯爵領内を通過することになるから、領地は潤うことになる。旅人はよく野盗に襲われる、野盗に扮した刺客を差し向ければ罪を暴かれることはないと話を持ちかけられた。と


「して、その話を持ちかけたのは誰だ?」


「そ、それは…ロベリア・ランドルク伯爵夫人…です」話し終えたハング伯爵は肩を落とし床に手をつき土下座を続けた。


「ロベリア・ランドルク…従姉妹か…」エリックは驚いた。そしてマックスを見た。


マックスの表情は凪いでいた。もしかしたら呆れた顔だったのかもしれない。

少なくとも驚いてはいなかった。

並んで立つ家令は今にも死にそうな顔をして驚いている。しかしさらにその横に立つクロエは全く驚いてはいなかった。強いて言えば不憫そうにハング伯爵を見ていた。


エリックは同行している護衛をふたり呼び、ハング伯爵と家令を別室で見張るように言って退室させ、他の護衛と御者にはハング伯爵邸内の監視を命じた。


サロンに残った一行は、クロエの機転で新しく入れ直したお茶とクロエの采配とマックスの監視下で作らせた簡単に食べられる食事を口にした。

今回も毒味はない。


ひと通り腹を満たしたエリックが「そう言えば、護衛達も空腹だろう…」と同行者を心配した。


クロエは「彼らには交代で食事を摂るように伝えてあります。勝手をして申し訳ございません。それに食費はちゃんと置いておきました…ですから遠慮は無用ですわ!」とイタズラっぽく笑った


それに皆は笑った。緊張した空気が少し和らいだ。


「アルシェッタは如才ないな!ふふ、実に面白い。いや、護衛にまで気を配ってくれてありがとう」


「当然です。旅を共にする仲間ですから。殿下も彼らの心配をなさっておいでですから」


「ふふ、そうだな…」


その時、マックスが口を開いた。

「殿下、そして皆さん迷惑をかけて申し訳ございません」皆に頭を下げた。


エリックは「公爵が悪いわけではない、謝る必要はない。従姉妹の不始末に私が謝らねばならない」


ハドソン侯爵が「これはどちらも悪くないのではありませんか?寧ろ被害者ではありませんか。我らは旅を共にする仲間。何かお手伝いできることがあれば教えていただきたい」


3人の伯爵も大きく頷く。


エリックが「仲間達に話してくれないか?」とマックスに言うと

マックスは頷き、前公爵の死から全て包み隠さず知り得る事実を話した。


皆は壮絶な2年間に言葉を失っていた。


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