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クロエ  作者: KAE


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32/63

〈32〉

最後尾の荷馬車に辿りついたクロエとマックスの前では、後ろから3頭の馬に乗った男達が商隊(キャラバン)を追い、両側の茂みから飛び出た野盗達が馬に乗った護衛と御者を襲っていた。


それぞれ棍棒や斧を持っている。


クロエとマックスは一番近くにいた野盗に馬ごと体当たりしていき、その手から武器にしていた棍棒を取り上げた。


そして、護衛達に襲いかかっている野盗達を薙ぎ払い、自由に動けるようになった護衛達は攻めに転じて己の剣を抜いた。

マックスは「致命傷は負わせるな!」と檄を飛ばし、クロエと共に追ってくる3頭の馬の男に向かっていった。

勝負はあっと言う間に決着がついた。


クロエとマックスは並んで走ってくる3頭の馬の両側の馬に狙いを定めすれ違いざまに馬上の男の攻撃を退けながら武器を持つ手に斬りつけた。そしてすぐに取って返し、野盗の頭と思われる男に向かってふたりで斬りつけた。


3人の野盗は落馬し、地面に叩きつけられ、しばらくその場で呻いていた。


取り押さえた野盗を拘束し、雑木林の入り口に近い宿場町に駐屯している騎士団のところまで連行するように、ふたりの護衛に指示したマックスは「クロエ!俺は護衛が戻るまで、ここにいる」とクロエに伝えた。


クロエはマックスに頷き、ひとり前方の馬車に戻って、エリックに報告した。


「商隊長!全員捕縛しました!野盗達を連行するために護衛がふたり後方の宿場町に引き返しました。ふたりが戻るまで、最後尾にはドミトス公爵が護衛にまわります」クロエは端的に告げた。


エリックは「わかった。ご苦労」と言うと、

クロエは小さく礼をして、ローブのフードを被り何事もなかったかのように馬車の横についた。


ハドソン侯爵は「辺境伯…」驚きすぎてその後の言葉は続かなかった。

エリックも内心は非常に驚いていたが…平静を装っていた。


後続の馬車の3人はいったいどうなっているのか、理解が追いついていないようだった。


クロエはそんな5人の様子に構うことなく、ウイングに「ウイング、お疲れ様。頑張ったね」と優しく首をポンポンと叩いて話かけていた。

ウイングも「ブルルル」と頭を少し上下して答えるように鳴いていた。


野盗達を連行していった護衛が戻ってきたのは、雑木林を抜け次の目的地の宿場町で止まった時だった。


そしてマックスが一行に合流してきた。


マックスもエリックに報告をしたものの、それ以外はいつもと変わらなかった。


宿に入り、食事を済ませ、食後のお茶を飲んでいる時、ナグラダ伯爵が「雑木林の整備は急がねばなりませんね…」とアイルナ伯爵に言った。


「本当にそうですな…ドミトス公爵殿、アルシェッタ辺境伯代理殿。今日は助けていただきありがとうございました」とアイルナ伯爵が頭を下げると、他の諸侯も同時に頭を下げた。


クロエやマックスは「とんでもない、頭をあげてください」と伝えたが4人は頭をあげない。


クロエやマックスは困ったようにエリックの方を見た。


エリックは「ハドソン、アイルナ、ナグラダ、ガイナ。ふたりが困っている。とりあえずは頭をあげてやってくれ」と助け舟を出した。


その時、ガイナ伯爵が「私の失言の数々のお詫びも申し上げる。アルシェッタ辺境伯代理殿、申し訳なかった」と告げてきた。4人はまだ頭を下げたままだった。


エリックはクロエに視線を向け発言を促した。

「あ、いや…そんな。どうぞ顔をあげてください。本当に気にしていませんから…かえって困ってしまいます。多少の行き違いは仕方のない事です。私こそこの旅でたくさんのことを教えていただいています。この旅に参加できたことを感謝してます。エリック殿…いえ、商隊長。そしてハドソン様、アイルナ様、ナグラダ様ガイナ様、ドミトス様ありがとうございます」


頭をあげた諸侯は「アルシェッタ殿…ありがとう」とクロエに礼を伝え「これからもよろしく頼む」と付け加えた。


クロエも「こちらこそよろしくお願いします」と返していた。


その様子をマックスは安堵の表情で見ていた。

エリックが「…では、皆、酒でも頼むか?」の声がけと「いいですな!」とハドソン侯爵の返事を皮切りに

その日の夜は賑やかな飲み会になった。


………………………………………


現地調査の旅は順調だった。ナグラダ伯爵領の街道でもクロエの〈あれはどうなっているのですか?〉〈これはどうしてですか?〉などの質問が続き、ナグラダ伯爵が答え、時には皆で最善の方法を考えメモを書き記していった。


エリックがマックスに「アルシェッタはたいした者だな…いつの間にか皆を取り込んでいる。そして、今回の件を良い方向に牽引してくれている」と言ってきた。


「ええ、そうですね…」とマックスはクロエの方を見ながら答えた。


「ふふ、眩しそうだな…」


「え?」


「いや、なんでもない…あ!」エリックが空を見上げた。


先ほどの晴天が急に黒い雲に覆われ土砂降りの雨が降ってきた。


マントを着ていないエリックや諸侯は急いで近くの店の軒に雨宿りに逃げ込んだが、クロエは建物の屋根を見上げ、そして足元を見る動作を繰り返している。


マックスが近寄って「クロエ…どうした?」と聞いた。


クロエは「マックス…見て。屋根から雨垂れが流れてこない…どうなっているんだ?」


マックスも屋根と足元を見て「本当だ…」と言って、しばらくふたりは雨の中並んで立っていた。


通り雨だったらしくしばらくの後雨は止んで青い空が戻ってきた。


ふたりの元にやってきたナグラダ伯爵にクロエの質問攻撃が始まった。

「ナグラダ様!なぜ雨垂れが落ちてこないのですか?」「雨垂れはどこに行くのですか?」


ナグラダ伯爵も「それに気がついてくれたか…。ふふ」と言いながら、屋根の方を指差し、屋根の先に竹を縦に割った物をつけていることを教えてくれた。

「あの竹を伝って一か所に雨水を集めて各家の角に置いた大きな水瓶に一度集めて利用しているんだ」と教えてくれた。


「ほぉ!」とクロエは感心して「そうすれば、なにかあった時に井戸に行かなくても大丈夫ですね!植木の水やりなどもこれで十分だし…それに道に穴があかない!」


「ふむ…これはいいな。王都でも真似できるのではないか?」とエリックも話に入ってきた。

後ろで諸侯も興味深そうに聞いている。メモを取る風景はもう当たり前になってきていた。


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