〈27〉
王太子エリックをはじめ、諸侯が会議室に集まった。
その中にはもちろんクロエもいた。
男性ばかりの会議室に女性がひとり。
クロエは間違いなく浮いていた。
ガイナ伯爵が不快感を隠さず「なぜ、政務の会議に女性が?…あぁ!辺境伯の代理でしたな…。まだ婿殿がこられていない…まぁいろいろ大変ですなぁ」
他の侯爵、伯爵もきっと同じ思いなのだろう。口の端を少しあげて笑いを噛み殺している。
王太子エリックが「ガイナ伯爵。時代は変わってきているのだ。辺境伯代理は正式にこの会議に召喚されて出席している。召喚したのは私だ。それに辺境伯代理はこの5年間立派に領地を治めている。辺境という領地を…な。あまり彼女を侮辱するでない」
ガイナ伯爵はエリックの発言に「…そんなつもりはありませんでした。ご無礼を…」と不満げに取り繕った。
クロエは、内心(そうくると思った)と呆れながらも、顔色ひとつ変えず、その一連の流れを見ていた。
もちろんマックスも同様だった。
そして、ダイナモ王国の法律の整備が整っていないことを理由に、この交易路の調整を辺境伯代理に代わりドミトス公爵が取りまとめることを発表した。
公爵位の者が取りまとめるとなれば、例え侯爵でも特段の理由がない限り異論は唱えられない。しかも、公爵の領地は新規交易路とはまったく別の場所にある。
皆は黙って決定に同意した。
ダイナモ王国も諸国同様に国境に税関を置き、物流に税金を課す。その収入の一部を街道整備に充てられる。
そして、人や物がその街道を利用すると、経済活動も活発になる。領地の収入も増える。
領主としては街道があるとないとでは領地経営が大きく違ってくるのであった。
エリックは最初に「税関及び出入国管理の役所をアルシェッタ辺境伯領の国境沿いに置きたいのだが…」と打診してきた。
クロエは「かしこまりました。それでは、ムーンベルク王国との交易路接続地点のいかなる土地でも提供できるように調整いたします」と即答していた。
その様子も、諸侯は眉間に皺を寄せて聞いていた。
そして議題は街道整備の問題に移っていった。
人や物が移動しやすい道路の整備、宿場の整備、警備の問題等々、諸侯は自分に有利になるように他領の事情を自領のやり方に合わせるように話を進めようとして、軋轢が起きていた。
エリックとマックス、クロエは諸侯の話をじっと聞いていた。
諸侯の言い分が粗方出たところで、マックスが徐に話し出した「なるほど、皆さまの街道整備の見識に感服いたしました。それぞれに良いところがあります。実は私も所用で件の街道を旅したことがあります。それぞれに特色がありました。皆さまは王都から自領より先の街道をご覧になったことはありますか?」
皆、首を横にふった。
「では、提案なのですが、現地調査をしてはいかがでしょうか?いろんな発見があると思うのですが…殿下はいかがお考えでしょうか?」
「ふむ。それは良いな…街道を整備するための試算もできよう…」
王太子の一言で現地調査の旅が確定した。
そして「せっかくだから私も同行しよう」と言い出した。
さすがに全員が反対した。
「殿下!旅は危険が伴います。そんなところに殿下を行かせるわけには参りません!」と侯爵が代表して言った。
「そんなにか?…うーん、これはいったん保留にしよう、それで次はどうする公爵…」
「そうですね。今度の会議までに、自領の街道の現状と改良したいところをまとめてくるのはどうでしょうか?」
「うむ、いいな。では皆、検討してくるように…ひと月後に集まるとしよう」
そしていったん会議は終了した。
クロエが会議室から出たところで、ガイナ伯爵が声をかけてきた。
「アルシェッタ辺境伯代理殿も現地調査に同行されるのか?長旅になるであろう?耐えられるのかな?」とニヤニヤしている。
クロエは「はい、もちろんです。辺境からの旅も何度かしておりますし…きっと大丈夫だと思います。ご心配をいただきありがとう存じます」と笑顔で答えた。
「ふん、せいぜい頑張ってついてこられるがよかろう…」と言って去って行った。
去っていくガイナ伯爵の背中を見ながらクロエは小さくため息をついていた。
マックスはその様子を遠くから見ていることしかできなかった。
屋敷に戻ったクロエはイーサンと街道の改良点を検討し、領地ともやりとりをして、具体案を作成するのに忙しい毎日を送っていた。
ドミトス公爵家もマックスが屋敷にいる間はロベリア夫人の突撃もなく、表面上は平和だった。
しかし、マックスはロベリア夫人は変わらずに賭場に出入りしていることはアンナからの報告で知っていた。
数日後、マックスの元にバートがやってきて平たい木箱を手渡した。
「これは?」
「クロエ様から言付かって参りました。〈念の為に〉と」
マックスが箱を開けると銀のカトラリーが一式入っていた。イニシャルまで刻印されている。
マックスはクロエの心遣いに感謝した。
そして、短くメッセージを書いたカードを封筒に入れてバートに託した。
「急がないから、タイミングが合えば渡して欲しい」
「かしこまりました。お預かりします」とバートは受け取り、退室していった。
その日からマックスはクロエからのカトラリーを使った。
いつもより食事が美味しく感じられた。




