〈21〉
翌朝、
レオナールは朝食のためにダイニングにやってきた。
まだ、誰もダイニングに来ていなかったが、まずは席に着こうとした時、クロエとマックスの話し声が聞こえたので、そちらの方を向き挨拶をしようとした。
「おはようございます。あにう…え。クロ…エさ…ま」
レオナールの目の前、シャツとパンツ姿で模擬剣を持った兄とクロエがダイニングの前を通り過ぎようとしていた。
レオナールに気づいたクロエは「あ、おはようございます。レオ様」と笑顔で挨拶をしてくれる。
追いかけるようにマックスも「おはようレオナール。早いな…すぐに着替えてくるから、先に始めておいてくれ」と笑顔だ。
レオナールは、あっけに取られて「…はい」と答えるだけだった。
近くにいたエリオットに「兄上は…」と問いかけると
エリオットはクスクス笑いながら「朝の鍛錬…だそうです。どうやら日課のようですね」と教えてくれた。
すぐに新しいシャツとパンツに着替えた兄とクロエがやってきて、朝食が始まった。
「マックス、本当に一緒に辺境に行くのか?私ひとりでも大丈夫だぞ…」
「ふふ、陛下のご下命をそんな簡単に反故にはできないさ」
「しかし…」
「一応、参謀だから…な。しかし、〈けじめ〉って何をやろうとしているんだ?」
「ああ、それは…多分。行けばわかる…」
「そうなのか?…ボイジャー達は…」
「今日、午前中にバートとアンナが連れてきてくれる」
「あいつにとっても、久しぶりの我が家だ」
「そうだな…ふふ、きっと喜ぶな…」
ふたりの会話を聞いていると、なんだか違和感を感じる。どうもご令嬢と話をしているようには聞こえなかった。
「レオ様もボイジャーに会うのは久しぶりではありませんか?」とクロエが静かなレオナールに声をかけてきた。
「あ、ええ…一年ぶり…かな?」
「ふふ、ボイジャーも逞しくなりましたよ…」
「そうなんですね!会うのが楽しみです!」レオナールは笑顔で答えた。
朝食後、サロンで3人が寛いでいると
「辺境伯邸から使いの方がいらっしゃいました。ボイジャーも一緒です」とエリオットが伝えにきた。
3人で正面玄関に向かう。
レオナールの目に入ってきたのは、レオナールの知っている乗馬馬ではない猛々しい〈軍馬〉が四頭、前庭にいた。その中の一頭の黒い馬はボイジャーだった。
「え?ボイジャー?」
「ああ、随分変わっただろう?」マックスはレオナールの疑問に答えて、ボイジャーの方に歩いて行った。
ボイジャーの横には栗色の毛並みの馬がいてクロエに擦り寄っている。
「少し運動するか?」のクロエの問いに、その栗毛の馬は立て髪をゆすっている。
すぐに四頭はドミトク公爵邸の馬場に移動した。
今、四頭は馬場の外周を走っている。
「早い…」レオナールは思わず呟いていた。
次にレオナールが目にしたのは、マックスとクロエが馬に乗ったまま、剣の手合わせをする様子だった。
「激しい…」レオナールはまた呟いていた。
「旦那様は本当に随分変わられました…」と隣にきていたエリオットがマックスを眩しそうに見ながらレオナールに話しかけた。
「僕も、あんな風になりたい…」そう呟いた時、
後ろから「少しお相手いたしましょうか?」とバートという辺境伯邸からやってきた男性に声をかけられた。
「いいの?」
「もちろんです」
貴族の男児、剣術の心得はあった。しかし、相手にいなされてばかりで追い詰めることはできない。
意地になってかかっていくが…最後は体力が尽きて終了となった。
いつの間にか様子を見ていたマックスはバートに
「どうだろうか?」と聞いていた。
「はい。基本はしっかり身についていらっしゃいます。あとは体力と慣れ…でしょうか…」
「ふふ、少し前の俺だな」と独り言を言ったあと、
「レオナール、どうしたい?」とレオナールに聞いた。
まだ荒い呼吸のレオナールは兄の問いに戸惑った。
「どうしたい…とは?」
「このまま、剣術の訓練を続けるかどうかを聞いている」
レオナールは即答した「もし可能であれば是非続けたいです。兄上のようになりたいです!」
「ふふ、俺は辺境では弱い方だ…。バート、頼めるか?」最後はバートに聞いた。
「承知いたしました。扱かせていただきます。ふふ」
「ふふふ…頼んだ」
「あの、兄上…」
「なんだ?」
マックスがレオナールを見るとレオナールはボイジャーの方に視線を動かした。
「そうかそうか。お前の馬もか?」
「いいですか?」
「もちろんだ!…アンナ、頼めるか?」
「ふふ、承知しました」
「では、バートとアンナの部屋も用意しよう!都合によってはこちらにも滞在してくれ」
上機嫌でそう言ったあと、マックスはエリオットに
「今日からレオナールの剣術と馬上訓練の教師だ、よろしく頼むよ!」
(なるほど…そういうことか)と思いながらエリオットは「かしこまりました。バートさんアンナさんよろしくお願いします」と一礼した。
早速、レオナールの馬を連れ出すために、レオナールとバートとアンナは厩舎の方に向かって行った。
残されたエリオットはマックスに「うまくのせましたね?」と笑いながら言うと
「なにかあった時には俺たちの剣術は役に立たないと身をもって知ったからな…レオナールにそんな経験はしてほしくないが…」
「さようでございますね…」
3人は厩舎の方を見ながら話していた。
「エリオット。バートとアンナだが、彼らには間者の監視も頼んである。そのあたりもよろしく頼む」
「旦那様…ありがとうございます。承知いたしました」
「辺境伯の者達は優秀な者ばかりだ…見習いたい」
「ふふ、それは大袈裟よ。辺境はそうじゃなきゃ生きていけなかったからね…でもきっと〈けじめ〉が終わったら変わるわ…。それに王都では無用の力かもよ…」
「…だといいんだが…」
「それから旦那様。領地への書簡は今朝発送いたしました」
「ありがとう、ひとまずは安心かな…。なにかあったら連絡してくれ」
「承知いたしました」
3人は厩舎の方をずっと見ながら話を続けていた。




