〈15〉
アルシェッタ辺境伯邸に戻り、クロエの執務室にイーサン、バート、アンナが呼ばれた。
今日のお茶会での出来事を皆に話す。
クロエの話を聞いてから、イーサンが「お申し付けのドミトス公爵領の税率とランドルク伯爵家の台所事情をバートとアンナが調べて参りました」と告げた。
後を継いでバートが「ドミトス公爵領の税率ですが、既に来期から1割上げるように本邸から通達がきたようです」
マックスの眉が上がった。
「しかし、ただの通達だったので、不審に思った代官が、本邸に確認の書簡を送ろうとしていました。私が確認した段階ではまだ発送はされておりませんでした」
アンナが「ランドルク伯爵家の台所事情ですが…特に不審な点や困っているような様子はありませんでした。出入りの業者も変わりなく取り引きしているようでした。事業の方も特筆することはなく、特に大きなトラブルにも見舞われた形跡はありませんでした」
「なるほど…そうすると、やはりロベリア夫人が元凶みたいだな…娘を言いなりにしているのだろう…。バート、アンナ悪いがまた動いてもらえるか?〈宝石工房の人間〉になって、ロベリア夫人にめちゃくちゃ高い物を買わせて欲しい。それからロベリア夫人がどこの賭場に出かけているかも調べて欲しい」
バート、アンナ夫妻はニヤリと笑って「「かしこまりました」」と声を揃えてクロエに言った。
話の成り行きを見ていたマックスが「俺は、屋敷に戻った方がいいのかもしれない…な」とポツリと言った。
その場にいるすべての人間が同意見だったのか、誰もなにも言わなかった。
「バート、アンナ。今指示した仕事はどのくらいかかりそうだ?」
「…そうですね。ランドルク伯爵邸の訪問日も考えて…10日程あれば…と思います」とバートが答えた。
「10日…そうか」暫くクロエは何かを考えているようだったが、何かを決めたように
「マックス。屋敷に戻るのは2週間後にしよう!」と告げた。
「2週間後…ですか?」
「ああ。バートとアンナに頼んだ結果もわかるし、王宮舞踏会も終わる…私も護衛として同行する」
クロエのこの発言にその場にいた皆は驚いて「ええ⁈」と声をあげていた。
そして、誰もクロエを止めることはできなかった。
最初に諦めたのはイーサンだった。
「わかりました。クロエ様のご意志を尊重します…が無茶は絶対しないでくださいね!」
「あはは…それはもう十分わかってるって!」
そして、王宮舞踏会にも出席して、バートとアンナの調査報告を聞いてマックスと共にドミトス公爵家に護衛として潜入する予定だった…が、領地から早馬で知らせが届いた。
国境付近にムーンベルク王国軍が姿を現した…と。
王国軍を率いているのはムーンベルク王国の王太子ランスロット。
ランスロットから辺境伯代理への書簡も同封されていた。
ランスロットからの書簡には
まず、辺境伯代理の両親をムーンベルクの政争に巻き込んでしまった詫びが認められていた。
緊張して手紙を握りしめていたクロエは一気に脱力した。
「ふぅ…。大丈夫だ…悪い知らせではないようだ」
クロエのひとことに執務室にいたイーサンもマックスもホッとした。
そして、ムーンベルク王国内の情勢が落ち着いた。
ムーンベルク王国は怒りの矛をおさめてくれたアルシェッタ辺境伯代理に誠意を見せたい。国境までご足労願いたい。
そしてその後は、友好国としての交易路の開通を目指したい。
と記してあった。
読み終えたクロエは「もう私の中では終わったことなのに…な」と呟いた後、
「仕方ない。国王に謁見を求めよう。何も知らせずに動く訳にはいかない…イーサン、申請の準備を」
「かしこまりました」
翌日には申請が認められて、その翌日クロエは王宮に向かった。
護衛はマックスが務めた。
クロエとクロエの後ろに控えたマックスは謁見の間で国王の入室を待つ。
暫くして、国王と宰相が入室してきた。
用件は事前に俎上してあったので、あとは国王の判断を仰ぐだけであった。
クロエはドレスの裾を持ちカーテシーで国王と宰相を迎えた。
マックスは臣下の礼をとっている。
国王は穏やかに「待たせたな…楽にせよ」とクロエとマックスに告げた。
クロエは顔をあげ国王を仰ぎ見る。
マックスは俯いたままの姿勢を崩さない。
「アルシェッタ辺境伯代理クロエ嬢。大儀である。
ムーンベルク王国からは我にも書簡がきておった。
いつまでも睨み合っている訳にはいかない。其方はどう思う?」
「恐れながら申し上げます。陛下からもムーンベルク王国からも既にお気持ちは頂戴しております。
金銭で解決するものではないと承知しておりますが、それよりも辺境の民達が命を落とすことなく、強いては両国に平和をもたらすのならば…と思い頂戴したものでございます。私どもに禍根はございません」
「そうか…よかった。ならばムーンベルク王国のけじめを見届けてきてくれ。あちらもそれをしないと自国に示しがつかないであろう。頼めるか?」
「謹んで承ります。すぐに領地に向かい見届けて参ります」
「うむ、社交期に悪いな…頼むよ」
「はい」クロエは深くカーテシーをして忠誠を示した。
そこで、国王と宰相の退室を待っていたのだが
「公。なぜそこにいる?」とクロエの後ろのマックスに向かって国王が問いかけた。




