〈14〉
殆どの招待客が集まり、お茶会が始まった。
クロエの感謝の挨拶と「どうぞ、お楽しみくださいませ」の言葉で至るところで歓談が始まった。
クロエはあちこち挨拶周りをしていた。そして…
「皆様、本日はお忙しい中お越しいただきありがとう存じます」とある集団に声をかけた。
「まぁ!クロエ様。今日はお招きいただきありがとう存じます。母と母の友人とそのお母上もお誘いしましたの!よろしかったかしら?」
「ええ!ええ!もちろんですわ!やはり長く家内を切り盛りされている方から教えを乞うことはとてもありがたいことですもの…!」
紹介されたのはアンジェラ・ドミトス前公爵夫人とその母、ロベリア・ランドルク伯爵夫人だった。
クロエから見たアンジェラ夫人はおとなしく気弱そうに見えた、ドレスも身につける宝飾品も驚くほど高価なものではない。対するロベリア夫人は質の良さそうな細かい細工が施されているドレスに身を包み、比較的豪華な宝飾品を身に着けていたあと穏やかに笑っているが彼女の目はクロエの豪華なネックレスに向かっていた。
クロエはふたりの差に違和感を覚えた。
「ドミトス前公爵夫人、アンジェラ様。ご夫君を亡くされたとうかがいました。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。お悔やみ申し上げます」とクロエが礼をすると
「ご丁寧にありがとうございます。なにせ急だったものですから…まだ信じられませんの」
そう言う割には淡々としているように見えた。
「さようでしたか…もしこの会が夫人の心の安寧に繋がるなら嬉しく存じます」と微笑むとアンジェラ夫人も「ありがとう存じます。楽しませていただきますわ」と微笑んで答えていた。
クロエはロベリアに声をかける
「ランドルク伯爵夫人。私はまだまだ若輩者ですので、是非いろいろ教えていただきたいのです。いかがでございましょうか?」
ロベリアは「まぁなんと謙虚なお方なのでしょう?私でよければなんなりと…」
「うふふ、ありがとう存じます。しかし不躾ながら夫人の今日のお姿はとても美しく、ため息が出そうですわ!」
決してお世辞ではなかった。質の良いドレスに宝飾品。高価であることは明白だった。
ロベリアは自慢気に「身につけるものの選び方も夫人の嗜みのひとつですからね…例えば…」とドレスや宝飾品の話をし出した。
クロエ達その場にいる者は笑顔で頷きながらロベリアの話に耳を傾けた。
そして「うふふ、そういう意味ではクロエ様は心配ございませんね!今日お召しのドレスもその宝飾品もとても素敵ですわ!きっと名のある工房の物なのでしょうね!」とクロエのネックレスをあからさまに見る。
「まぁ、ありがとう存じます。もしお気に召したら、工房の者を紹介いたしますが…」
「まぁ!本当ですか?是非お願いいたしますわ!」
隣からアンジェラ夫人が「お母様…」と控えめに声をかけるが、ロベリアは聞こえないふりをした。
クロエはロベリア夫人の好みと工房の職人の派遣する日を決めて「この辺で私は失礼して、ご挨拶回りに行って参ります」とその場を辞した。
そして、次に挨拶を交わした集まりにロベリア夫人との話に興味を持った者がいた。
「楽しんでいただいておりますか?本日はお運びいただきありがとう存じます」とクロエが挨拶をすると
「お招きありがとう存じます。お陰様で楽しませていただいております。…ところで、先程ロベリア・ランドルク伯爵夫人と話が盛り上がっていらっしゃったようですが…」
「ええ、〈夫人の選ぶ物の嗜み〉についてお話しいただいておりました。ふふ勉強になりました…なにか…」と小首を傾げて可愛く聞いてみた。
「いいえ、特にはなにもないのですけど…僭越ながら少しご忠告をと思いまして…」
「まぁ!ありがとう存じます。なにぶん田舎者ですので…王都のことは勉強不足で…謹んで拝聴いたします」とわざと目をうるうるさせて言った。
気をよくした夫人は「あの方は懇意になると、金銭を貸して欲しいと仰るそうです。伯爵家は決して傾いてはいないのに…です。どうやら賭け事もされていると噂で聞きました。お付き合いされるのならどうぞお気をつけてくださいませ」
「まぁ、そうなんですのね!ありがとう存じます。ふふ、いけませんわね、こうやって交流を図らないとまったく疎くなってしまいます。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします」
「ふふ、これからですわよ。こちらこそどうぞよろしくお願いします」
そうして忠告をしてくれた夫人達とも暫く歓談をしながらお茶会は恙無く進行した。
お開きの時間になり、クロエはすべての招待客を見送り、最後にホテルをあとにした。
馬車に乗り込み、御者台のマックスと壁越しに話す。
「アンジェラ夫人が来ていたぞ」
「はい。クロエ様を送り届けたあと、馬車に戻る途中ですれ違いました」
「気づかれなかったのか?」
「ええ、まったく…」
「なんと…」クロエは呆れてしまった。
「そんなもんですよ…それに、外見は少し変わった。と自覚してますから…」
「ふふ、確かに…な」
「ふふふ」
「屋敷に戻りもう一度確認しなければならないが、ロベリア夫人のドミトス公爵家への金の無心はロベリア夫人の浪費が原因だな…ひとつふっかけてみよう…」
「そうだったんですか…まったく…」
「とりあえず屋敷に戻ろう。皆で考えよう!」
「はい!かしこまりました!」
ウイングとボイジャーは一路アルシェッタ辺境伯邸に向かった。




