〈13〉
「なかなかヒットしなかったなあー」
「年齢的に難しかったですからね…」
馬車の中のクロエと御者台のマックスが話している。
「今日は、お顔を拝めるかもしれないぞ…なんせ母君達とご一緒するからな…」
クロエはここ数軒のお茶会に参加して顔繋ぎに努めた。
最初は令嬢達だけのお茶会だった。顔馴染みになってきた令嬢と談笑して
「私は実は皆様より少し年上なんですの…」と話を切り出し「きっと皆様ご存知でしょうが、私は〈辺境伯代理〉という立場です。いつかは婿をとらねばなりませんが、その前に〈貴族家の夫人〉とはいかなるものか勉強もせねばならないのです。母からの教えを乞うことは叶いませんでしたので…ぐすっ」
としおらしく話してみた。
素直な令嬢達は
「ええ、お噂は耳にしておりました。早くにご両親を亡くされた…と。お辛かったでしょう…ぐすっ」
「私には兄がふたりおりますの。下の兄などいかがでしょう…会ってみてくださらない?」
(いやいやそうじゃない…)と思いながら…「私はまだまだ未熟者です、先に〈夫人〉の立ち振る舞いを勉強せねばならないと思っているのですよ…それに辺境は諍いが多いところですから…覚悟が必要かと…もしそれでもよろしければ…」
「まぁ…そうなのですね…」とすぐに〈下の兄〉を推すのをやめて「クロエ様、今度はウチにいらしてくださらない?母とご一緒してください!」と話を変えてきた。
「まぁ、ありがとう存じます!」
「クロエ様!ウチにもいらしてください!」とクロエが嬉しそうな顔をして礼を言うと他の令嬢も口々にクロエを誘い始めた。
そこでクロエは感激した様子で
「まぁ!皆様…私はなんて幸せなのでしょう…本当にありがとう存じます。…では、私が皆様とお母上様をご招待いたしましょう!教えを乞うのですから当然ですわ!…そうですわね…ホテルの庭園を貸切にいたしましょう!きっといつもと違う赴きになるかもしれませんわ!いかがでしょう?」
「まぁ!それは素敵ですわね!ご招待お待ちしておりますわ!」
「ええ!すぐに!」
…そういう訳で今は王都でも有名なグレードの高いホテルに向かっている。
招待状には〈より多くの貴婦人にお目にかかり教えを乞いたい。ご紹介いただければありがたい〉と書いておいた。
今、わかっているだけでも相当数の大規模なお茶会になるだろう…
マックスが「しかし思い切ったことをされましたね、ホテルのホールと庭園を貸切にするなんて…」と笑って言えば
「だって、一件一軒回って、その度に説教をくらうなんてごめんだ!一度に済ませたいからな…それに家門同士の交友関係もわかるし…ふふ」
クロエの今日の姿と、今クロエが話す言葉はまったくチグハグでマックスは「流石はクロエ様…次は何をされるのか楽しみになってきました…ははは」と笑った。
今日のクロエはいつも通りの毛先はクルクル、ピンクを基調とした化粧、白いふわふわの毛皮をつけたケープの下にはコーラルピンクの可愛らしいドレス姿だった。そして、今回は豪華なネックレス、イヤリング、ブレスレットを身につけている。
マックスもいつものスーツ姿ではなく、黒に金糸で控えめに刺繍を入れたフロックコート姿であった。髪は黒と金の組紐で結んでいて黒縁メガネをかけていた。
ホテルに到着して、マックスのエスコートで会場に向かった。ふたりはなかなか目立っているようで、振り返り見る者もいた。
会場には既に到着している者もいて、ふたりが姿を現すとザワザワとして中には「ほぉー」とため息をこぼす者もいた。
マックスはクロエを会場に送り届けたあと、会場内に向かい一礼をして出て行った。
令嬢達はすぐにクロエの元に集まり「クロエ様!ご招待ありがとう存じます。今日は楽しみにして参りましたの!」と口々に礼を述べ
「エスコートされていたのは、あのいつもの御者の方ですわよね?とても野生味溢れて素敵な方ですわよね…どういった方ですの?」とひとりの令嬢に聞かれた。
周りを見回すと令嬢だけでなく、その母親達も興味津々の様子である。
(なるほど…今のところはマックスが何者か、皆知らないようだ…)と内心ホッとしながら
「あの者ですか?領地から同行させた者ですの。護衛も兼ねておりますの。ほほほ…」
「まぁ!あんな屈強そうな方が護衛なら安心ですわね!父についている護衛はあの方から見ればひ弱そうに見えますわ!」
「ほほほ…諍い事が起きれば出陣することもありますからね…王都と比べると辺境は物騒なところですので…ほほほ」
(マックスの話はもういいよぉ…)と思いながら笑って答えていた。
「あの方は貴族の出なのでしょうか?私、あの方に似た方を見たことがあるような気がします…」
と、ある夫人がポツリと口にした。
クロエはドキッとしたが…「まぁ!そうなのですか?」と惚けてみた。
夫人は続ける「きっと人違いですわね。あのように大きい方ではなかった…と記憶しておりますので」
「そうだったのですね…世の中には似ている方は結構多いと聞いたことがあります…ふふふ」
とクロエは答えながら、5年前に初めて会った頃のマックスを思い出していた。




