ふたつの世界①
「その、まだ何も受け止められていないんですけど、『宇宙人』とか『支店』とかってなんなんですか?」
俺は緊張を紛らわす為かお茶を無駄にすすりながら春奈さんへ尋ねた。
「まあ、さすがにそこは教えなきゃダメよね」
春奈さんは心底面倒くさそうに頭を掻くと、デスクの引き出しから、およそ役所の出張所には似つかわしくない、真っ黒で分厚いファイルを放り出した。重苦しい音を立てて机に置かれたそれを、春奈さんはトントンと指で叩く。
「いい? 驚くのは勝手だけど、今から話すのは教科書をシュレッダーに放り込みたくなるような、この世界の『本当の歴史』よ」
春奈さんの口から語られたのは、俺のちっぽけな常識と今までの世界を粉々に粉砕する、あまりにも壮大な地球の裏歴史だった。
「あんた、シュメール文明とかマヤ文明、古代中国の超技術にギリシャ神話……そういうオカルトチックな話は理解ある方?」
「え、あ、はい。YouTubeに解説動画あれば開くくらいには……」
「オカルトも何も、あれは全て真実よ」
春奈さんは紫煙をふわりと吐き出しながら、こともなげに言った。
太古の昔から、地球にはひっきりなしに宇宙人が訪れていた。古代の人々が超人的な力を持つ『神』として崇め、神話に書き残したのは、なんてことはない、ただの異星人たちだったのだ。
歴史的に説明のつかない謎の古代遺物――いわゆる『オーパーツ』も、彼らがうっかり置き忘れたり、その時代の人々に横流ししたハイテク機器の残骸に過ぎないという。
「じゃあ、あのゼウスの雷とかも、ただのプラズマ兵器か何かだったってことですか……?」
「そういうこと。神話の神様なんて、ただの迷惑な宇宙人観光客よ」
しかし、そんな宇宙人とのフリーな交流も、1900年代に入って終わりを迎える。
「引き金は、第一次世界大戦よ」
春奈さんの目が、一瞬だけ鋭くなった。
人類が初めて世界規模の殺し合いを経験したあの時、当時の『国際連盟』のほんの一握りのトップたちは、血の気が引くような可能性に気づいてしまった。
「宇宙のオーバーテクノロジーを戦争に転用したら、確実にこの星は消滅する」
そして世界のトップ達はある密約を交わした。それこそが、『宇宙人の存在の完全なる隠匿』だった。
それ以降、政府の極秘機関は、宇宙人の仕業とされるあらゆる事象に対して、徹底的な情報操作を行った。
『UFO』や『古代宇宙飛行士説』といった話は、あえてオカルトマニアのおもちゃとして放置し、「ただの陰謀論」や「フェイク」という名のカバーストーリーを流布して、世間から徹底的に隔離したのだ。
煙草の灰を落としながら春奈さんが続ける。
「まあ、今の世の中SNSが発達してこのベールが捲れそうになるリスクもあるけど、そこは上位機関や唯の様なSNSジャンキーが片っ端から削除してるわ」
「じゃ、じゃあ、宇宙人は何のために今も地球に来てるんですか……!? 侵略とか、そういう……!」
俺が唾を呑み込んで尋ねると、春奈さんは鼻で笑った。




