第八話 新米冒険者と元女勇者、合同演習を告げられる
「ご、合同演習......!?」
カリンの編入から数日が経過し、今日も授業が始まろうとしていた時に担当教員のスパイスが「そういえば」と口を開いた。
「お前らに連絡だ。えー......来週から剣術クラス一回生全体で合同演習がある」
急な発表にクラス中がどよめいた。
「二人一組のトーナメント制。まあ入学してからの交流会みたいなもんだが......怪我しない程度に頑張ってくれー」
あまりにも軽く言い放つスパイスに対し、一回生の中で一番下のランクであるこの教室の中には絶望的な雰囲気が漂っている。
そんな中、ミントが手を挙げた。
「あの!」
「ん、なんだ」
「......私たちDランクは、CランクならまだしもAランクやBランクとはかなり実力差があると思うのですがいかがでしょうか」
至極真っ当な質問だった。
ミントの声に、周囲の生徒たちもうんうんと頷いている。
「あー、正直言ってその意見には俺も同意だ」
「ならどうして......?」
「......だが、一つ上には勝てるかも知れねえって思ってるのは全ランク共通だ。お前らはCランクに勝てるよう頑張ってくれ。そもそも、Cランクに当たればの話だが......」
それもそうだ。
トーナメント制だしA、B、C、Dの中からCまたはD同士で当たる確率は生徒数が同じだとして半分を切る。
より酷くなった状況に加え、一週間という短い期間では大した成長は見込めないだろう。
だが、そんな中で一人の少女が立ち上がり前に出た。
カリンは胸に手を当て、自身に満ち溢れた顔で教室全体を見渡した。
「みんな、そう落ち込むんじゃない。たとえどのランクだとしても、入学してそう時間の経っていない今では成長性で上回れる可能性がある」
「そ、そうは言ってもだろ......」
一人の男子生徒が弱音を吐いた。
何しろ、発言しているのは編入試験で実力を見せたカリンなのだから、同じ教室にいるとしても彼女の言葉はそこまで彼らを動かすものではなかった。
「......スパイス氏、授業のカリキュラムはランクでどれほどの違いが?」
「さすがに何か月もすれば出てくるが、演習前までなら対して差はねぇよ」
「ふむ、聞いたか君」
ビッ、と発信元の男子生徒をカリンが指さす。
指された生徒は少し狼狽えるが、しっかりとカリンを見つめた。
その顔を見てニッと笑うと、カリンは両手を広げて口を開いた。
「生きている中で自分よりも強い存在と戦う機会はそれなりに多い。それこそ、付け焼刃の小手先の技術でなんとかするしかないような場面も来るだろう。......だが、そこで渾身の一手を思いつけるかは───経験だ。絶対に勝つぞ!共に見返してやろうじゃないか!」
まるで演説のようなカリンの言葉に、生徒たちからぽつぽつとポジティブな言葉が上がってくる。
そして、Dランク生徒たちは一丸となって演習を勝ち抜くことを決意したのだった。
「(みんなが一気にやる気に......さすがカリンさん、すごい......!)」
そんなカリンを最前列で見ていたレンもまた、人知れずやる気に満ちていた。
そして放課後、剣術クラスDランクの一回生たちは小訓練場に集まっている。
「さて、じゃあ秘密の特訓を始めようか」
自然と取り仕切るのはカリンになっていた。もちろん小さな不満を漏らす生徒もいたが、合同演習までは少しでも勝機のある方を選んだ。
カリンを囲うように生徒が集まる中、一人の男子生徒が前に出てきた。
「それで、何するんだ?」
彼の名前は『ライツ』。
赤髪短髪で、まさにカリンが仕切るのに不満を漏らしていた張本人だ。
「そうだな。普段の授業でみんなの動きはある程度観察していたから、まずは伸ばせるところを一人ずつ指導する。残念ながらスパイス氏がいないので時間はかかってしまうが......ちょうどいい、その間は適当な人と二対二で模擬戦闘をしてみてくれ」
カリンは名前の若い順に一人ずつ呼んでいくと、中の良い友人やたまたま近くにいた人に声を掛けすぐに二人組を組み始める。
「あ、わ、ど、どうしよう......!」
だがここに一人、慌てている生徒がいた。
声を掛ける前に周囲の生徒が八方向に広がって行ってしまい、そこまで広くない訓練場の中でひとりポツンと立ち尽くしている。
そんなレンに、一人の生徒が近づいていた。
「あ、あの......」
「えっ?ぼく?」
そこに立っていたのは紫髪ショートボブの少女だった。
クラスメイトの『メリカ』。
いつも教室の端の方のグループで話していた彼女が、レンに声を掛けてきていた。
「あ、め、メリカさん......いつもの子たちは......?」
「その......いつもは、三人で喋ってて......あの......」
大人しい性格なのは知っていたが、勇気を出して声を掛けてきただけでレンよりかは度胸があるのだろう。
少し悔しいような気持ちになっていると、メリカの後ろから二人組が来た。
「あ、レンくん......!メリカが私たちに二人組譲ってくれて......組んであげてくれない?」
「メリカ、めっちゃいい子だからさ......ね、おねがい!」
どうやら、一人になってしまった友人を心配して頼み込んできてくれているのだろう。
申し訳なさそうにしているメリカの後ろで「お願い!」と二人が頼み込んでいるが、元々断るつもりなんて無かったレン慌てて手を横にぶんぶんと振った。
「そんな、こちらこそだよ!......今日はよろしくね、メリカさん」
手を出して握手を求めると、メリカは顔を上げてぱあっと笑顔になった。
そのままレンの手を両手で掴み、ぶんぶんと縦に振る。
「あっ、ありがとう......!」
「レンくんマジでありがとう!」
「今度なんかお礼させてよ!メリカも、頑張ってね!」
「う、うん......!」
そうして、合同演習に向けた練習初日が始まった───。
「───カリンさん?」
「え、ああ、すまない。少しな」
「体調悪いとか......すごく、険しい顔をしてたけど......」
「いや、本当に何でもないんだ。......さあ、始めようか」




