第九話 新米冒険者、少女と特訓をする その1
「......?メリカさん、武器は......」
ふと、レンがメリカが木剣を帯刀していないことに気付く。
この木剣はそれぞれ訓練場の倉庫に大量に置かれており、生徒たちはそれを借りて使用しているのだ。
「あ、あの......私......ちょっと使う剣が特殊で......」
「え、そうだったの?」
今まで実技の授業はあったが、レンが覚えている限りではメリカの成績はかなり下の方だったはずだ。
剣に振り回されているというか、剣の扱いにまだ慣れていない......そんな印象を受けたのを覚えている。
「も、持ってくるね......」
ちょこちょこと小闘技場の外に出ていくメリカを見て数分。
「お、お待たせ......」
「メリカさん戻っ......て......で、デカ......!!」
小走りで戻ってきたメリカが抱えていたのは、1.7mほどもある大きな木剣だった。
それはメリカの身体よりも頭一つ分高く、剣身を抱くようにして持っている。
「それが......メリカさんの本来の剣?」
「う、うん......これが私の......。みんなと違うから......へ、変かな......」
顔を赤らめながらメリカが剣に隠れようと身を縮こまらせるが、全く隠れられていない。
だが、そんなメリカにレンは詰め寄った。
「......す、すごいよ!!」
「す、すごいなんて......そんな......」
レンの勢いにメリカが少し驚いたが、褒められて悪い気はしないのか薄っすらと赤く染まった頬をポリポリとかく。それから、少し目を伏せて話し始めた。
「私......騎士の家系で......代々この剣の使い手だから......これしか教えられてこなくて......」
「メリカさん、騎士の家系だったんだ......!!」
「う、うん......って言っても、私の代では三代目くらいだから......全然、名のある感じでも無いし......」
「それでもだよ!この王国の騎士って貴族の出が多くて平民からはなりづらいのに......!」
「ごめん、ちょっといい?」
鼻息を荒くしながらメリカに騎士の凄さを語り掛けるレンだったが、そこに横やりが入ってくる。
後ろを向くと立っていたのは男女の二人組。
赤髪短髪のライツと、金髪のポニーテールを揺らす少女『ジンジャー』だった。
「なあレン、俺たちと模擬戦闘やんねーか?」
「え、僕たち......?」
ライツたちは模擬戦闘の相手を探していたようだ。
だがレンとメリカ、特にレンはメリカがどういった戦い方をするのかまだ全く知らない。
最初から実践をしてみるというのも手かも知れないし、もう少し互いのことを知ってから戦った方が良いかもしれない、どう答えようかとレンはメリカの反応を見ながら回答を考える。
「え、えと......」
一方、メリカも同じような思考になっていた。今日初めて会話したばかりで自分がはいやりましょう答える勇気はなく、レンの方をチラチラ見ながら出方を伺っている。
そんな二人を見て、ジンジャーは首を傾げた。
「私たち、組んだはいいんだけど周りを見たら大体男同士か女同士でペアを組んでたのよね。で、ちょうどよくあなたたちが組んでたみたいだから声を掛けて見たんだけど......まだ準備できてない?」
「そう構えなくたって俺たちの目標は同じなんだし、気ぃ張る必要はねぇんだぞ?」
「ええと......僕は大丈夫だけど、メリカさんは?」
「わ、私も、レンくんが良いなら......」
二人の曖昧な回答だったが、ジンジャーはポジティブに受け取る性格らしく腰に手を当てて大きく頷いた。
「じゃ決まりね!」
「おし、じゃあ早速やろうぜ」
「う、うん......」
十メートルに満たない距離を開け、両者が構える。
そして、レン・メリカ対ライツ・ジンジャーの模擬戦闘が始まった。
「......それ、構えてんだよな?」
「え、は、はい......?」
ライツが正面に構えるメリカに問いかける。というのも、メリカは目の前に大剣を突き立て、その剣身を抱きしめるような姿勢のままだったからだ。
「......まあいいか。じゃあ......こっちから行くぞ!」
先に駆け出したのはライツ・ジンジャーだった。
ライツはレンへ、ジンジャーはメリカへ。連携の欠片も無いが、何の練習もしていないこの場ではそれが最善だという判断なのだろう。
「オラァッ!」
「っ......!」
ライツが木剣を振るが、その大ぶりな攻撃はレンにわずかに届かない。
カリンの教えを日々の訓練から守ってきたレンは、ただ一つ見切るという動きに関してはDクラスの中でトップの実力になるまで成長していた。
「チッ......まだ.....だっ!」
ライツがもう一歩踏み込むが、それもレンには当たらない。
だが、さらにもう一歩。
ライツが畳みかけるように踏み込むと、今度は木剣同士が激しくぶつかる。
カッと木がぶつかり合う小気味良い音とは裏腹に力ではライツが上回っていて、レンは受けに徹さざるを得なくなっていた。
「ぐっ......うあっ!」
しばらく耐えてはいたが、木剣を弾き飛ばされレンは尻もちをついた。
手に痺れるような感触が残っており、レンとライツの戦いは決着する。
「ふぃー......さて、ジンジャーの方は......」
と、ライツがジンジャーの方を見て目を疑った。
「くっ......メリカあんた、中々やるわね......」
少し離れた場所で、メリカを前に剣を支えにして膝をつくジンジャーの姿がそこにあった。




