第七話 元女勇者、自己紹介をする
ログレス学園の教室は、教壇を囲むように半円状に広がっているのが特徴だ。
机や椅子に隣との区切りは無く、聴講室さながら四段階の高さ分けられていて、生徒は自由に座ることができる。
そんな中、剣術クラスDランク一回生の教室は入学以来で一番のざわつきを見せていた。
「ねえ、レンくん......だよね?」
「え?ぼく?」
最前列に座るレンは後ろから声を掛けられて振り返る。
レンの後ろには、肩から一本のおさげを垂らした女生徒───『ミント』が座っていた。
「そう、キミだよ。キミ以外にレンなんて名前いないじゃない」
「あ、あはは。そうだよね。え、と......何か用?」
「用も用だよ。レンくん、単刀直入に聞くね......編入生のカリンさんとどんな関係なの?」
目を輝かせながら身を乗り出してくるミントに気圧される。
「どんな関係って......パーティーを組んでるだけだよ」
「え。レンくんってパーティー組んでたの?てっきり孤高の狼的な感じかと思ってた!」
そのほとんどが冒険者や騎士を目指す剣術クラスではレンのような引っ込み思案は珍しく、早い者は入学して数時間でパーティーを組むようなスピード感だったので、ミントがこの感想を抱くのもおかしいことでは無かった。
「そんなのじゃないよ。ただ緊張して誰にも声を掛けられなかったから......」
「なーんだ。じゃああたしも声かければよかったなぁ」
本気かお世辞かわからないミントの言葉に、レンは愛想笑いを返すことしかできない。
そして、また本題へと戻る。
「それで、パーティーって他にも誰かいるの?」
「いや、僕とカリンの二人だけだよ」
「それって男女二人パーティーってこと!?っていうか呼び捨てなの!!?」
続々とでてくる新情報にミントはややオーバー気味なリアクションを取りつつ、ぐいぐいと食いついてくる。
思春期の女子にとってこの情報は、これ以上ないほどの餌だった。
「じゃ、じゃあもしかして───」
ミントが話している途中で教室のドアが開く。
静まり返った教室の中、入室してきたのはカリン───ではなく、剣術クラスDランク一回生の担当教員『スパイス』だった。
彼はその特徴的なさらさらのストレートヘアを靡かせながら教壇に立つと、いつもの気だるげな口調で話し始めた。
「はいおはよう。今日も勉学に励んでいくぞー......───と、言いたいところだが」
「入学してまだひと月も経っていない君たちに、新しい仲間が加わることになった。はい拍手」
教室の中にはスパイスただ一人の拍手が虚しく響き渡る。
「どーしたお前ら。歴代最高の女子入学率に拍車をかける新たな女子生徒だぞ。しかもすごいオーラ。先生なんて将来を見越してもうサインもらっちゃったからな───って、ホント大丈夫か?いつもの調子の良さはどこ行ったんだよ」
そんなのいいから早く呼べ。と言わんばかりの視線を受けているはずなのだが、スパイスは微塵も気にする様子を見せない。
「はい。じゃー呼びまーす。入ってきていいぞー」
その言葉でドアが勢いよく開き、全員の視線が集中する。
教壇まで歩いてくる、その一挙手一投足にレン以外の生徒は魅入られていた。
「この度、ログレス学園剣術クラスDランク一回生へと編入したカリンだ。ともに切磋琢磨していこう」
カリンの簡潔な自己紹介とともに教室中に湧き上がる歓声と拍手。
本来自己紹介というものはもうちょっとプロフィールを話すものだが、それを必要とさせない凛々しさが彼女にはあった。
「はい。というわけで......適当なところに座っちゃって」
「......ふむ、スパイス氏。どこに座ってもいいのですか?」
「ん?まあ、机と椅子があるところならいいよ。うち自由席だから」
「なるほど。それでは───」
カリンは迷わず、レンの隣に座った。
若干の事情を知っているミントだけが興奮しているが、他の生徒たちは奇異の視線をレンに向けている。
「ふふ、これからはここでも一緒だな」
「あはは......」
これだけ狭い空間だと、さすがのレンでも自分の背中に刺さる視線に気づいていた。
「うーし、じゃあまずは俺の座学からだ。ちゃんと聞いとけよー」
──────
仕方ないといえば仕方のないことなのだが、浮足立った生徒たちは次の休み時間にカリンの元へ殺到した。
スパイスの授業は、カリンへの質問を考える時間に置き換わっていたのだろう。四方八方から、カリンへと様々な質問が投げかけられる。
「ふふ、まだまだ時間はあるんだ。そう急く必要は無いよ」
乱雑に投げかけられる質問にもカリンは一つひとつ丁寧に答えていく。
そんな中、おそらくこの場にいる全員が気になっていたであろう質問がどこからか飛んできた。
「カリンさんとレンくんってどんな関係!?」
気にはなっていたものの、初日に聞きづらいと多くが思っている中でこの質問ラッシュに乗じて誰かが言った。
すると、それまでテンポよく質問に答えていたカリンの動きが止まった。
カリンは腕を組んで少しの間考えると、言葉の整理が上手くいったのか頷きながら口を開いた。
「......そうだな。今の私は、レンのために剣を振っているんだ」
「ちょっ......」
誤解の生みそうな答えに隣で空気になっていたレンの制止も間に合わず、今日一の歓声が沸き上がる。
その意味はよく分かっていなくとも、ありがちではない答えというだけで生徒たちを興奮させるには十分だった。
それから質問の中身は当然全て「そっち」方向になる。
といっても今の答え以上のものは出てこないのだが、少しでも何か聞き出せないかという(主に女子陣からの)質問攻めは、放課後まで続いた───。




