第三話 新米冒険者、初めて魔物を倒す
「私はカリン。君は?」
「れ、レン、です......」
着席を促されてから、レンは蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまっている。
その場は、まるでレンから声を掛けたとは思えないくらいにカリンのペースだった。
「......レンか。今回限りのパーティーだが、よろしく頼む」
「は、はいっ......よ、よろしく、お願いします......!」
年齢はそこまで離れていないはずなのに、大物冒険者とでも話しているかのような空気感。
レンは緊張こそすれどそうそうどもるタイプでは無いのだが、今回ばかりはカリンの放つオーラに完全に委縮していた。
「ところで、今回のクエストだが......」
「は、あひ!」
「......レン。君は今回のパーティーが初めてか?」
あまりにも緊張が抜けないレンを見て、カリンが話題を変えた。
「は、はい!僕、まだ冒険者になりたてで......」
「そうか、では一つ助言をあげよう。私もまだDランクの冒険者だが───君よりは少し経験がある」
「す、すみません......」
咄嗟に怒られると思ったのか咄嗟に頭を下げるレンに対して、そうではないと首を振る。
「なに、別に怒っているわけではないんだ。ただ、これだけは覚えていて欲しい。パーティーは、命を預けあう仲間だ。そう緊張していては、仲間は背を預けてくれないぞ?」
レンにはカリンがどこか悲しそうな顔をしているように見えたが、それ以上に、カリンのその言葉にレンの心は動かされていた。
「ありがとうございます......!」
「うん、いい目になった。それではクエストの話に戻ろうか」
──────
スライムとは、この世で最も知名度のある魔物だ。
そして、この世で最も弱いとされる魔物。知能が低く半固形の、体当たりしかできない魔物。
恐らく彼らの被害による死者はおらず、体の中心の核を突けば簡単に倒せてしまうような、そんな魔物。
そんなわけで今回のクエストは、スライム三匹の討伐。
「レン。戦いの基本は知っているか?」
「ええと......学園で習うもの程度なら」
タイムリープしたため力や技術は多少落ちているが、それでも彼女の記憶に残っている戦闘経験は常人のそれではない。
「相手がどんな攻撃をしてくるか分からない時、最も気を付けなければならないのは相手のリーチだ」
「リーチ......」
「体格、腕の長さ、足の長さ。相手を観察して、どんな動きがどこまで届くかを想像する。それも、少し臆病なくらいがいい」
「なるほど......!」
周囲を警戒しながら、自然とカリンの授業が始まる。
それはレンが学園で習った基礎よりも、もっと実践的なアドバイスだった。
「あっ!───あれ、スライムじゃないですか?」
レンが指さす先には、おあつらえ向きと言わんばかりの、小動物ほどの大きさのスライムが一匹いた。
遠目からしっかり観察してスライムだと確信すると、腰の剣を抜いて近づいていく。
「レン、一人で平気か?」
「はい!僕一人でやってみます......!」
じりじりと近づいていくレンにスライムが気づいた。
互いに、少し開きすぎたくらいの距離を保って対峙する。
膠着した空気の中先に動いたのは───スライムだった。
「───!」
「き、きたっ!」
スライムの体当たりは、射程の外に居たレンには当たらず手前で止まってしまう。
そして、スライムが全身したことによって、今度はスライムがレンの射程内に入った。
「やぁーっ!!」
「───っ!!」
レンが振り下ろした剣は、見事スライムの核を叩き割る。
核が割れたスライムは紫の霧となって霧散し、その場に小さな石が落ちた。
小さな魔物は素材になるようなものが取れないが、その代わりに魔石と呼ばれるそれが討伐の証となっていた。
「おめでとう、レン」
「カリンさん......!カリンさんのおかげで僕、初めて魔物を倒せました!」
「私は何もしてないさ。これはレンが一人で倒したんだ」
「そんな......はは、僕が......!」
初めての魔物討伐。
今までのお手伝いのようなクエストとは得られる達成感が段違いで、つまるところレンは舞い上がっていた。
だから、その横で拍手を送っていたカリンの表情が曇っていることには気付けなかった。
それからというもの、特に難航することも無くレンはスライムを倒していく。一度倒してしまうとそれ以降はあっけないもので、三匹目を倒すのに時間はかからなかった。
「やぁっ!───よし、これで三匹目......!」
「お疲れ様、少し休憩したら帰ろうか」
「はい!......あの、僕の動き......どうでした?」
レンの動きはいたって普通だが、それでも一匹目のときから少しずつ上達はしていた。
「ああ、一匹目の時よりも動きが良くなっているよ」
「えへへ、そうですかねぇ......!あ、そういえば」
「どうかしたか?」
「カリンさんって、知識も凄いしすごく強そうなのに、どうしてDランクなんですか?」
レンが疑問を持つのは当たり前だった。
まだ剣も振っていないのだが、冒険者になりたてのレンから見てもCランク、いや、Bランクはあるだろうと感じていた。
「......ああ。最初は、ただギルドがどういうものだろうと気になって見に来ただけだったんだ。私は冒険者になるつもりじゃなかったんだが......」
「じゃ、じゃあもしかして、僕が無理やり......」
「いや、私の意思でパーティーに入ったんだ。君が気にすることじゃない。───......それにもう全て終わったことだ」
「......?それって、どういう───」
「しっ───」
レンが話の続きを聞こうとした瞬間、カリンが手でレンの口を塞いだ。
カリンは何かを探しているようで、彼女の表情からそれが恐らく敵なのだとレンにも理解できた。
「......ゴブリンだ」
「───っ!!」




