八章『生還』
ふと気がつくと、視界には見知らぬ天井が広がっていた。
どこだここは――
混乱したまま体を起こすと、
横から親友が飛び出してきて、泣きながら私に抱きついてきた。
「よかった……! 本当に……!」
その直後、
お坊さんと、強面のお兄さんが病室へ入ってきた。
私はまだ状況が飲み込めず、
彼らの話を聞くしかなかった。
お坊さんが静かに語り始めた。
「夜になってしまって、急いであなたの家に向かったんです。
ですが、チャイムを押しても反応がなくて……
扉の向こうからは、水があふれる音がしていました。」
「まずいと思って、扉を破ってでも入ろうとしたんですが……
なぜか鍵が開いてたんです。
あれは……やつが開けたのか、
それともあなたが疲れて閉め忘れたのか……」
お坊さんと強面のお兄さんは顔を見合わせ、
そして言った。
「急いで風呂場に向かったら……
あいつがあなたを浴槽に引きずり込んでいたんです。」
私は息を呑んだ。
「慌てて二人であなたを引き抜き、
お経を唱えて……なんとか事なきを得ました。」
話を聞き終え、
生きていることへの安堵と、
胸の奥に残る重い影が入り混じった。
どうやら私は、
重度の精神疾患を患ってしまい、
しばらく入院が続く可能性が高いらしい。
「……仕方ない。
それで助かるなら。」
そう思った。
だが、お兄さんが静かに言った。
「退治はできました。
ですが――確実に倒せたわけではありません。」
部屋の空気が一気に冷えた。
「あなたは退院したら、
すぐに遠く離れた場所へ逃げなければなりません。
もし“まだ生きている”とバレてしまったら……」
そこでお兄さんは言葉を濁し、
深く息を吐いた。
私はゆっくりと頷く。
「……実家が離れにあるので、そこへ行きます。
仕事は……どうしようもないので辞めて、
また新しいのを探します。」
「皆さん、この度は本当にありがとうございました。
助けてもらった報酬は――」
そう言いかけたところで、
お坊さんが私の手をそっと掴んだ。
「いえ。今回は私も大変勉強になりましたし、
助かったのはこちらも同じです。
報酬はいりません。」
「そのお金は、あなたの社会復帰のために使ってください。」
そう言って、お坊さんは静かに部屋を出ていった。
親友は泣きながら私の手を握りしめた。
「よかった……よかった……
本当に無事で……」
私はその手を握り返した。
生きている。
本当に助かった。
きっと大丈夫。
仕事も、またすぐ見つかる。
そう自分に言い聞かせながら、
私は実家へ電話をかけるのだった。




