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悪役転生  作者: こすもす
国家戦争
48/53

悪役転生第48話 開戦


「宣戦布告!? 馬鹿を申せ!

先日守りを厚くしたばかりだぞ!」


王宮にて、貴族の怒号が飛ぶ。


元雷の一方的な宣戦布告と、

間を置かずしての侵略行為。


混乱のあまり、ひたすら感情を吐露するしかない。


「申し訳ありません。ですが、事実でして。」


「・・・分かっておるわ! そんな事。」


「よせ。」


ニュートが狼狽える貴族を制止する。

とはいえ、彼も泰然とはしていられない。


白騎士を失ったことが、

他国に漏れるのは覚悟していた。


圧力が強まることも予測し、

国境を守る兵士や国英も増員した。


それでも、甘かった。


好機とは言え、

こうも早くに戦争を仕掛けてくるとは。


思えばこれは、

アルヴァ―ドが黒金にしたことと同じ。


“される”ことを想定していなかった落ち度が、

ニュートの自己嫌悪を加速させる。


「陛下。ご決断を。」


だが今は、それが許される状況ではない。


「国王の名のもとに非常事態を宣言する。

国英全てに緊急招集をかけろ!」


「必ず元雷軍を追い払うぞ!」


「「「「ハ!!」」」」


号令の下、貴族たちが迎撃の準備に入る。


しかしそれでは間に合わない程に、

事態は急を要していた。




■ ヴァロマ王国の国境は、

結界によって守られている。


スペリア家に継承される魔法が、

国境や王都、その他主要都市を包み込む。


結界は極めて強固。


だが不壊ではなく、広大になればなる程、

反比例して強度は下がる。


既に結界は一部が破られ、

壊死した細胞が崩れ落ちるかのように穴は拡大。


元雷の越境を許しただけでなく、

守備隊が突破され、

より深くへの侵入をも許していた。


「ここが、例のグレイン?」


「はい。王都セイオルまでの中間地となります。」


四方で火の手が上がり、

人々が恐怖と混乱に逃げ惑う中、

日常の落ち着きのままに会話する男女がいた。


それぞれ、水色と紫のデールに身を包んでおり、

女の方には、至る所に金の刺繡が施されている。


「じゃあそろそろ主要都市にも近づいて・・・

本番が始まるのね。」


「その通りです。ここから先、

防御の薄い地方都市は無視し、

一気に本番へ進むこともできます。」


舌なめずりをし、興奮を隠しきれない女に、

男はニコリと笑顔で頷く。


彼の名は、オルガイ・ハビル。

元雷の第六王子にして、将軍。


“将軍”とは、ヴァロマ王国の国英に当たり、

彼はこの軍の副将を任されている。



「それはいいけど。進路は?

ちゃんと確保できてる?」


「勿論です。先遣隊を動かしていますが、

現状目立った障害はありません。」


「ヴァロマ王国の本隊が着くより先に、

主要都市への攻撃を始めることができます。」


「フフッ、速いわね。流石、私の可愛い弟。」


ニンマリとした笑顔でオルガイを抱き寄せ、

自身の胸に顔をうずめる。


そして、


「アッ! ハハハ。やめてくださぁい、姉上。」


ご褒美、とでも言わんばかりに弟の耳を舐め、

まんざらでもない顔をした彼をよがらせる。


彼女の名は、サルジャ・ハビル。

元雷の第五王女にして、大将軍。


ヴァロマ王国でいう白騎士に当たり、

彼女が軍の総大将である。


「・・・それにしても、いい景色よね、本当。」


「確かに、絶景ですね。」


姉が弟と肩を組み、眺めた光景―


地獄だった。


グレインという街は、

元より決して穏やかだった訳ではない。


国英の巻き添えにより、

幾度となく破壊が繰り返されていた。


だが、今回はそれらの比ではなかった。


人の形をした人ならざる物たちが、

街と人を蹂躙している。


土人形(ゴーレム)


等身大の兵器にして、無慈悲な量産兵。


右腕には金属の刃を装備し、

左腕は筒状に変形している。


刃で人の肉を裂き、

筒から放つ魔法弾で建物を破壊する。


巻き添えではない。


明確な意図と目的によって、

破壊と殺戮が繰り広げられている。


軍の英雄たる、将軍の手によって。


「どうします? 姉上。そろそろ進みますか?」


「そうねぇ~ ん?」


サルジャは、街の景色から

ある人々へと目線を移した。


瓦礫の陰に身を潜める、五、六人の若い男女。


土人形を警戒し、周囲を見渡していた。


だが彼らは不幸にも、

サルジャと目を合わせてしまった。


不審な相手を前に一瞬固まるも、

すぐに彼らは逃げた。


彼女の目に宿る邪悪を、

直感的に感じ取ったからだ。


彼らの背を見つめ、

サルジャは悪意に満ちた笑みを浮かべる。


「オルちゃん。やっぱり

“補給”してから行きましょう。」


そう言って、サルジャは魔法を発動する。


必死で走る彼らの上から、黒い何かが降ってきた。


遠目には墨のように見えるそれらは

一瞬で若者たちを覆い、

みるみるうちに肥大化、否、“増殖”した。


黒胎の蟲(こくたいのむし)


サルジャの魔法。

蚊、蜂、蛾、蟻、百足など、

様々な形をした黒き蟲を操る魔法。


蟲は血肉を摂取することで、

際限なく増殖する。


「ウ、ウゥ・・・オォ、アァァ―」


蟲に体を侵食され、彼らは肉体的、

そして精神的にも地獄を味わう。


だがそれを声に出すことも叶わず、

苦しみ呻くことしかできなかった。


若者数人の血肉で、

蟲の群れは気球の如く膨れ上がる。


気色の悪い景色だが、この姉弟には見慣れた光景。


血肉を餌に膨れ上がる蟲たちを、

体を寄せ合い眺める幸福。


彼女らはそれを噛みしめていた。


「あ! 姉上、見てください。」


弟が姉の背中に手を寄せ、一人の少女を指差した。


七歳ほどの、茶髪の女の子。


瓦礫に足を取られ、転びそうになっていた。


「いい子ね。オルちゃん。」


弟の額に口づけをし、姉は蟲を少女に向けた。


なんてことはない、ついでの補給。


偶々そこにいたから。それ以上の理由はない。


そんな無為の悪意によって、

少女の命が喰われようとしていた―


悪炎美頭(あぽぴす)


悪意の蟲を、炎の蛇が喰らい尽くす。


蛇の形を成した業火が、

膨れ上がった蟲の群れを飲み込み、

余すことなく焼き尽くした。


そして炎は爆ぜ、蟲の体も塵となる。


塵は熱を帯びた火の粉になるが、

それが飛び散ることはなかった。


唐突に空気の流れが変わり、

一つ残らず姉弟に降り注いだ。


「熱! 熱い、熱い痛い!」


火の粉を払う姉弟を鼻で笑いながら、

彼は少女に逃げるよう促した。


安全な場所を教えて。


「熱い・・・誰? 国英?」


姉の目は、怒りと恨みに染まる。


弟は未知の敵に怯み、姉の体に強く抱き着く。


男は黒の外套をたなびかせ、

黄金の仮面を被っている。


その気配でサルジャは悟った。


この男は国英、英雄ですらないことを。


「初めまして。僕は、

黒金という組織の魔王です。」


戦場の空気が静かに歪む。


「奪いに来たよ。君たちの力を。」


進化を終えた彼にとって、

他国の英雄など脅威ではなかった。


彼を中心として、戦場の空気も、

この戦争の趨勢すらも変わりつつあった。

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