悪役転生第47話 落日
「ハァ、ハァ・・・俺もここまでだな。
狙い通りか? 魔王。」
「そうだね。」
堕ちたアルヴァ―ドを見つけた。
白の軍服はボロボロ。
避けた軍服の下から、
焼け焦げた皮膚が顔を覗かせる。
美しい顔や髪も煤で汚れ、
大の字で倒れて指一つ動かせないでいる。
そして、魔力も完全にない。
彼の「修復」は魔力も戻せる。
とは言え、その“起動”には魔力が要る。
一撃で魔力切れまで追い込むことが、
修復を攻略する唯一の方法。
そして今、力尽きた彼と、
少しばかり話をしている。
「最初から騙してたのか? 瞬発力、瞬間火力では
俺が勝ってると思わせ、あの技で決めるために。」
「最初からあの流れを読んでいた訳じゃないよ。
単に火渡雷という切り札を
隠したかっただけ。」
「あの時は、魔力そのものを修復できるとは
思わなかったもの。」
「フッ、確かに。あの時のお前、
本当に驚いてたもんな。」
「返す言葉もないよ。」
思いのほか気さくに話せている。
火渡雷を見たことで、
僕をガキだとは思わなくなったからだろうか。
外交は舐められたら終わり。
そんな言葉も思い出す。
「紫毒と火渡雷、
この二つで決めようと思ったのはその後。
レオナから連絡が入った時だよ。」
「レオ― 待て。お前あの時、
“ノエラから”って言ってなかったか?」
「それはね・・・」
物凄く言いづらい。が、言うしかないか。
「あれは嘘だよ。連絡をくれたのはレオナ。
セイレンじゃなくて、セリアを倒したって報告。」
「何だと!? ちょっと待て。
じゃあセイレンは―」
「残念だけど、セイレンも既に倒されてるよ。
ここに来る途中で連絡があった。」
「感慨にふけっていたら、急に空の色が変わって
びっくりしたってさ。」
とは言え、ノエラは話しぶりからして、
とても清々しい様子だった。
母の仇をとったことで、
過去に区切りをつけられたのだろう。
「そう、か・・・だがどうしてそんな嘘を?」
「“セイレン”じゃないと、
隙をつくれないと思ったからだよ。」
アルヴァ―ドが顔に疑問符を浮かべる。
僕は、あの時の考えを説明する。
「あの巨大な鎧を倒した後、
君たちを観察していて気になったんだ。」
「負傷したセリアを修復する時、
君とセイレンが少し煩わしそうにしていたこと。」
「そしてもう一つ、レオナとノエラの奇襲攻撃。
セリアはまともに食らっていたけど、
セイレンは防御が間に合っていた。」
「その時思ったんだ。あの二人の中では、
セイレンの方が実力は上。
そして、立場的にも君に近い。」
「言い換えれば、より信頼されているってね。」
「フッ、フフフフフッ― よく分かったな。」
策で敗れたと認めたからか、
答え合わせも協力してくれた。
「お前の言う通りだよ。
セイレンは暗殺者も兼ねた白騎士として、
父上の代から王家に仕えている忠臣だ。」
「強さに加えて隙も無い。」
「セリアは強いが、あの通り
詰めが甘い所があってな。」
「俺に惚れている分使いやすかったが、
それもそれで面倒だったよ。」
よく分かった。
忠誠心の強い仕事人タイプと、
甘言でやる気を出す少し抜けた人。
確かに前者の方が扱いやすいし、
確実性という面で信頼できるのも分かる。
にしても―
「その気にさせて動かしてたんだ。
存外ずるいこともするんだね。」
「お前が言うな。噓つきの魔王。」
それはそう。
僕も人のことを言えた立場ではない。
「嘘をついたのは、悪かったと思ってる。
良くないことだ。僕のいた世界でも同じ。」
「でもね―」
一拍間を置き、アルヴァ―ドの顔を見て言う。
「人を殺すことは、嘘よりも罪が重いんだよ。
こっちの世界は違うのかな。」
アルヴァ―ドの顔から笑みが消え、
そして感慨深い顔つきへと変わる。
自身が何に敗北したのか、
それを今一度自覚したからだろうか。
「甘い― いや、勝ったのはお前か。
だったら後は好きにしろ。」
「そのお優しい考えの下、この国を滅ぼすなり、
支配するなりすればいい。」
「・・・簡単に言うんだね。」
「簡単だろ? 俺に勝った男ならな。」
「せいぜい頑張れ。」
「“あれ”さえ凌げばお前の天下だ。」
弱った声だが、目だけはまっすぐに僕を見ていた。
ひねくれた、
それでいて武人らしい敬意を受け取り、
彼の魔法を吸収した。
既に魔力が空だったとは言え、
強化された魔法の全てが僕の力となった。
その後僕はレオナたちと合流し、
倒れていた残りの白騎士の魔力も吸収。
無言のセイレンとすすり泣くセリア。
どちらも思いのほか静かだった。
彼ら三人は捕虜とした。
黒金城を取り囲んでいた鎧たちは、
アルヴァ―ドの沈黙と共に活動を停止した。
彼らと蒼大、そして赤竜の魔力も吸収。
こうして白騎士との決戦は、
その事後処理も含めて無事完了した。
だが僕は分かっていた。この後何が起きるのかを。
アルヴァ―ドの言っていた、“あれ”の意味も―
■ アルヴァ―ド・スペリア率いる
黒金討伐軍 “全滅”
その報に王宮が揺れ、
貴族らが国の行末を案じるも、
打開策はなし。
そんな状況から一週間と経たぬうちに、
更なる災厄がヴァロマ王国を襲った。
血相を変えた伝令が報告する。
「ハァ、ハァ、失礼いたします。
だ、大至急報告すべき事案が―」
「落ち着け。」
国王のニュート。
弟が安否不明の今でも、
その冷静さは変わらなかった。
「ゆっくりと申せ。誰も急かしはしない。」
「フゥ、フゥ、はい。
ありがとうございます、陛下。
ですが、事は一刻を争います。」
「何があった?」
「元雷です。
元雷が我が国に宣戦布告。」
「一万を超える軍が国境を越え、
進軍を続けています。」
「!?」
驚きのあまり、ニュートが玉座から立ち上がる。
顔が蒼白とし、血の気も失せているように見える。
この場にいた貴族たちも同じで、
皆が言葉を失っていた。
白騎士不在での軍事侵攻。
国王を含め、泰然としていられる者など
一人としていなかった。




