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悪役転生  作者: こすもす
白と黒
46/53

悪役転生第46話 悪役―転


本当は、戦いたくなかった。


アルヴァ―ド・スペリア。

王弟にして、複数の魔法を持つ白騎士筆頭。


ハルスに話を聞いた時からずっと、

フェーズ3になった後で戦うべきだと思っていた。


フェーズ3は極めて強力。

恐らく単騎で国を滅ぼせる。


だが辿り着くまでの道のりは険しく、

必要な魔力量も尋常ではない。


そしてそれを集める前に、

アルヴァ―ドとの決戦が始まってしまった。


代案としてゼインの魔力増幅に頼ったものの、

決して優位を取れているわけではない。


「次は俺の番だぜ、魔王。全身で味わえよな!!」


アルヴァ―ドを囲み、うねる様に回転する竜巻。


纏う魔力諸共圧縮され、同時に鋭く洗練される。


刃の如く、ではない。


回る風が刃となり、

弓の弦を引き絞る様に、籠る殺気も鋭さを増す。


アルヴァ―ドの合図一つで、

無数の刃が全てを断ち切る。


嵐断(らんだん)


竜巻と斬撃。二つの魔法の同時発動。


風から形を成した刃が、

文字通り嵐の如き勢いで拡散される。


下手に背を見せれば死ぬ。


それは直感的に理解できた。


唯一の逃げ場、地下に隠れる。


吸収能力で取り込んだものは、

触れれば自在に操れる。


黒金城周囲の土は予め吸収している。


グラディオ戦でやったように地面を操れば、

地下という安全地帯を即席で用意できる。


このままやり過ごす。

が、この考えも甘かった。


「下か! いい判断だな!」


上からの叫び声。

見ると、遥か上空にアルヴァ―ドの姿が。


遠目でよく見えないが、何かするのは明らかだ。


恐らくは、沈んだ穴を埋め尽くすほどの斬撃。


僕は横へ逃げた。掘り進むようにして退避。


しかし斬撃は止まず、

しかも見えているかのように狙い撃ちされる。


このままでは回避できない。


そう判断して地上へ出た所を、

目の前にいたアルヴァ―ドに斬られた―


一帯の木が切り刻まれ、未だに宙を舞っている。


周囲全てを巻き込んで敵を屠る。

今の国英を象徴するような技。


そんな彼は今、致命傷を負い、

虫の息となった魔王を見下していた。


刻まれた木々と、切断された魔王の刃。


咄嗟の防御も間に合わず、

胸から腹にかけての大きな傷が、

夥しい血を吐き出している。


意識も朦朧としてきた。


「分かるか? それが“死”だ、魔王。」


アルヴァ―ドの声が聞こえる。


体が軽くなったせいか、

僕の口まで軽くなってしまう。


「悪いね。知らないんだよ。

殺し合いも・・・喧嘩すらもね。」


彼の怪訝な顔など気にせず、

独り言のように話し続けた。


「僕のいた世界、厳密に言えば国は平和でね。

戦争は御法度、永久に放棄するとまで言ってる。」


「殺し合いや、殴り合いの喧嘩さえも、

真っ当に生きていれば関わることすらない。」


「・・・ノエラや、その母親のことは

兄上から聞いている。」


「まさかとは思っていたが、

お前転生者だったんだな。」


「如何にも。」


「イリーナの前で転生について口を滑らせたと、

晩年になって父上は白状したらしい。」


「記録によれば、最新の転生者は百年以上前。

魔族を滅ぼした勇者だ。」


「ごめんね、こんな魔王で。」


「でもこんな、人殺しが嫌な魔王だからこそ、

出来ることはあると思ってる。」


ゆっくりと立ち上がった僕を見て、

アルヴァ―ドは目を疑った。


だが瞬時に、その違和感の正体にも気付いた。


「お前もか?」


「そうだよ。君ほどではないけど。」


再生能力。話の間に傷は治した。


まだ僕は戦える。


「続きだよ。平和な世界で育ったからね。

生理的に人殺しは嫌なんだ。それに―」


「僕がなりたいのは悪役。

残忍な“悪そのもの”ではない。」


「違うのか? 悪と悪役。」


「そうだね・・・僕が思うに、“欲望”のため、

己以外の全てを害するのが悪。」


「そして、正義や法に背いてでも、

“心”に従って自由に生きる。それが悪役かな。」


「なら俺も悪役か? 鎧計画は国のため、

俺の意志でやった。」


「奴隷や地方民共の犠牲も、

そう考えれば無意味じゃないだろ?」


悪意のない言葉。

おかげで彼がよく分かる。


「だから君には心がないんだ。」


カッとした勢いでの斬撃。

右腕の刃で防いだ。


刃は触手と同じ。

いくら壊れても問題はない。


「もう言葉は通じないね。じゃあ始め―」


通信が入った。

眷属からの、僕本体への意識共有。


レオナだった。


ありがとう。


報告を聞いた後で礼を伝え、休むよう命じる。


彼女のおかげで元気が出た。


そして、次の戦略も決まった。


「どうした?」


「ああ、悪いね。仲間から連絡が入って。」


「仲間?」


「ノエラだよ。セイレンを倒したってさ。」


「セイレンが!? 馬鹿な―」


そう。嘘だよ。そっちはまだ連絡は入ってない。


でも・・・そうだよね。


“そっち”の方が驚くよね。


「そんなまさか、あのセ― イ!?

あ、ああっ、ああああああ!!」


でも驚くのはまだ早い。


取り乱し、急激に発狂するアルヴァ―ド。


地中に潜らせた僕の触手が、彼の足に突き刺さる。


打ち込まれたのは―


「ゴハッ、脚、溶け・・・紫の!? 毒―」


紫毒に侵される脚を見て、

アルヴァ―ドは戦慄した。


殺しが嫌と言った直後に、

打ち込まれた致死性の毒。


信じられなかった。


あの言葉も、優しさと覚悟が入り混じったような

あの表情も、全て噓だったのか!?


「違うよ。」


睨むアルヴァ―ド。

だがその目は、一瞬で驚愕に変わった。


「人殺しは嫌。あれは紛れもない、僕の本心。」


「嘘は、それじゃない。」


「覚えてるかな?

“瞬発力では負けてる”って言ったの。」


思い出した。


故に愕然とした。


欺いてはいたが、嘘ではなかったことに。


技の火力を抑え、そう思うように誘導する一方で、

確かに真実を述べていたことに。


目の前の敵は、

“殺さずに勝つ手段”を本当に持っていた。


アルヴァ―ドの眼前で、炎と雷が混ざり合う。


二つは溶けあい、より濃密で、

より純粋な熱となる。


球状になり、極限まで圧縮されたエネルギー。


解放されたそれは、目の前の敵を蹂躙する。


形を成した、魔王の力として―


火渡雷(ひどら)


灼熱が形を成した蛇。


龍と見紛う程の巨大なそれは、

修復を終えた直後のアルヴァ―ドを飲み込む。


絶望に目を染めた彼と共に空を昇った。


そして遥か上空にて、

火渡雷はアルヴァ―ドを喰らい尽くし、

とぐろを巻くようにして自らを圧縮。


熱の塊として爆ぜようとしている。


これは敬意であり、信頼でもある。


あの量の紫毒と火渡雷では、

アルヴァ―ドは死なない。


分かり合えなかったとは言え、国英、

それ以前に一人の戦士として、彼は強かった。


そんな彼を殺さずに倒すことで、

悪役としての、僕の答えを彼に示す。


熱が解放され、見渡す限りの空の色が変わった。


橙色に染まる景色に、遅れて衝撃音が響く。


決戦の幕が下りた。

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