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悪役転生  作者: こすもす
白と黒
44/53

悪役転生第44話 化物


「悪いけど、アンタとは格が違うの。」


そう言い切ったレオナの目は、

どこか相手を憐れむようにも見えた。


その目と、今まさに自身を殴り飛ばした彼女の力。


信じ難い膂力と瞬発力に、

セリアの脳裏に最悪の予想がよぎる。


敗北の可能性を、

セリアはより現実的に感じ取ってしまった。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


弱々しい叫び声をあげ、

それでもレオナに立ち向かう。


敗北の予感を振り払わんと、必死に戦う。


だが意味はなかった。


拳に蹴り。向かっても向かっても転がされた。


先程までとは一撃の重みがまるで異なり、

殴られるたびに宙を舞う。


今までの接戦が嘘だったかのような、

一方的な戦い。


そして、この状況を一番信じられない、

信じたくないセリアの頭は、焦りを通り越して

混乱の極みに達しようとしていた。


(マズい、どうしよう、殴り合い、負ける、

このままじゃ負ける、どうしよう、潰される―)


だがギリギリの所で踏み止まり、

セリアは正気を保った。


そして一縷の望みに懸け、

セリアは最後の勝負に出た。


立ち上がり、前に出る。


殴り合い―

と見せかけての垂直飛行。


翼を目一杯広げ、全速力。

空高く飛び上がった。


攻撃が来ない。

ある程度、そう安心できる距離に

届いた所で地上を見る。


レオナは辛うじて視認できる。


だが気配は尋常ではなく、

おかげで狙いは定まりやすい。


丹田に力を籠め、それを熱として口先に集約する。

そして、放つ。


熱閃(ねっせん)


集約された熱の塊が、一本の線として、

一点目掛けて突き下ろされる。


爆炎咆哮(ばくえんほうこう)


レオナは下から、正面から迎撃。


形が違う両者の熱が、空中で激しく激突する。


鍔迫り合いの末―


咆哮が勝った。


熱閃は次第に押され、

そして完全に潰れる直前、咆哮諸共大きく爆ぜた。


翼で前面を覆い、セリアは爆風から身を守る。


咆哮の直撃は免れたものの、かなり近くで爆発。


魔力で保護しても尚、翼の骨が強く軋んだ。


爆発で飛ばされた後、翼を広げて体勢を立て直す。


痛みはあるものの、飛行に問題はない。


そして再度攻撃にかかる。


レオナの周囲を旋回するように滑空し、

再び口先に熱を集める。


旋回しながらの攻撃。


今度は熱線ではなく、無数の焼夷弾として放つ。


焼夷弾に取り囲まれる。

空中からの多段攻撃。


この攻撃へのレオナの答えは、

爆炎咆哮(ばくえんほうこう)


ただし形は違う。


先程の一点を押し潰すような咆哮ではない。


全方位を掬うように放たれた咆哮は、

真紅のオーロラのように焼夷弾を包み込む。


全て空中で爆発、一つとて着弾はさせなかった。


鮮烈な、それでいて美しい攻撃に

目を奪われながらも、

セリアは次を考えた。


殴られ続けたことで体力も削られ、

加えて魔力切れも近い。


後がないと悟ったセリアは賭けに出た。


空を飛び、視認できる限界まで

レオナと距離を取る。


両翼に魔力を注ぎ込む。

残りの魔力を費やし、最後の一撃に出る。


魔力を炎に変換、

そして炎も練り上げ、灼熱の刃へ昇華させる。


火竜双閃(かりゅうそうせん)


空気を焦がす灼熱が、大気を裂く程の速さで飛ぶ。


相手も熱に耐性はあるだろうが、

この熱と速さなら斬れる。


いや、斬らなければならない。


アルヴァ―ド様と結ばれるには―




一瞬だった。


地上にいる筈の相手の顔が、

目の前に見えた直後に視界が反転。


気が付けば仰向け。


地面に叩きつけられ、

激痛と共に空を見上げていた。


そして上にはレオナがいた。


足裏からの咆哮で急降下。


その勢いのまま「拳火(けんか)」が炸裂。


地面が割れる衝撃と共に、二人の勝敗が決した。




「アンタ何したの?」


セリアが口を開く。

竜人化も解除され、もう体も動かない。


「何って・・・殴った。」


「その前よ。」


「? ああ! 捕まえて叩きつけた。

それだけよ。」


最初は意味が分からなかったが、

何回か聞くうちに、

セリアは自身の敗北、その詳細を理解した。


セリアが近づいたタイミング、

レオナは咆哮で大きく跳躍。


そのまま太股で首を挟み、両脚で背中を押さえた。


そして脚と腹筋に力を籠め、

飛行の勢いを殺さぬように回転。


セリアを地面に叩きつけた。


あの一瞬でやってのけたことに驚愕したが、

同時に敗因も納得できた。


言われた通り、格が違った。


それが理解できた今、 

もう悔しさすら感じなかった。


「トドメね。」


レオナはセリアを見下ろし、

全身の熱を口に集める。


セリアも悪あがきはしない。


愛する人に戦力として求められ、

その戦いに負けた。


引き上げられた下級貴族には、

元より叶わぬ夢だった。


一縷の望みも断たれた今、

命など惜しくはなかった。


「フゥゥゥゥゥゥ―」


「ケホッ、ケホッ・・・な、何?」


咆哮ではない。


レオナが出したのは、高温の水蒸気だった。


レオナの本気―炎を完全開放した際の、

熱が籠るという反動。


それを自力で解決すべく、レオナは対策を講じた。


咆哮と同じ要領で余熱を集め、

無害な水蒸気として体外に逃がす。


メイに負担をかけずとも、

心置きなく本気を出せる。


「熱の処理よ。自力でできるようにしたの。」


「可愛い妹分に頼ってばっかりじゃ、

示しが付かないからね!」


示し?


言葉が胸の奥に刺さる。


そして引き金となり、セリアの目に涙が溢れた。


「何が示しよ! 

負けた挙句に情けまでかけられて!」


「こんなんじゃ、アルヴァ―ド様に

顔向けできないわよ!」


泣きながら怒鳴るその様は、

どこか子供の癇癪にも見えた。


「大体、全部アンタたちのせいよ!」


「国内の魔獣が減って、前線の竜に送る餌が

足りなくなった。おまけに鎧の生産も止まって、

元雷への侵攻もできなくなった!」


「戦果を挙げてアルヴァ―ド様と結ばれる計画が、

全部アンタたちのせいで破綻したのよ!!」


「何でこんな・・・アンタたちみたいな

化物のせいで!」


胸の内を全て吐き出すように責め立てる。


喉の奥が震えるような、必死の叫び―


「で? その後は何したの?」


慰めはしなかった。

レオナの言葉には怒りも籠っている。


「自分のせいでも他人のせいでも、

文句言ってるだけじゃ何も変わらないのよ。」


「不条理を変えるにも、夢を叶えるにも、

自分で行動するしかないの。」


「行動? アンタがやってた盗賊団も、

その“行動”ってわけ?」


負け惜しみにも聞こえるセリアの台詞。


だが、レオナは目を逸らさなかった。


「あれが正解だったとは思ってない。」


その上で、宣言するようにセリアへ言った。


「仲間や大切な人のためなら、

他人にどう思われても構わない。」


「盗賊だろうと、化物だろうとね。」


踵を返して、レオナはこの場を後にした。


自分はまだ動ける。戦える。


自分にできることをするために、

レオナは歩みを止めなかった。

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