悪役転生第41話 殺意
頭を失い、倒れ込む巨大な鎧―蒼大の棍棒。
振り下ろされることのなかった得物の切っ先で、
二人の戦士が火花を散らせる。
黒金幹部ノエラと、白騎士セイレンの戦い。
ノエラの奇襲から始まったこの戦いは―
白騎士の優勢だった。
槍で攻めるノエラに対し、セイレンは素手で捌く。
魔力で両手を保護し、瞬間的な超音波で槍を弾く。
まるで行動を予期しているかのような挙動。
そして、
「カハッ!」
ノエラが乾いた息を吐き、
両足で地を抉って後ろに下がる。
セイレンの攻撃が腹に当たった。
超音波による発勁。
魔力で防御しても尚、衝撃が内部に響く。
続いて―
キイィィィィィィィィン!
超音波の照射。
掌から方向を絞って発射し、
その分威力を上げている。
耳を塞ぎ、膝から崩れ落ちるノエラ。
音は振動。
脳を中心に守ってはいるが、
半ば魔力をすり抜けるように音が響く。
長時間耐えられるものではない。
「空間転移」
魔法で音から脱出。
呼吸を整えるノエラに、セイレンは蹴りで攻撃。
槍で防ぐも、衝撃で転がり木に激突。
背中に激痛が広がる。
だがすかさず攻撃。
槍から一筋の雷を放つ。
セイレンに命中―
だが効いてはいない。
防がれている。
よく見ると、両手から魔力の籠った音―
振動が出ており、それが雷を抑えている。
そして雷はいなされ、攻撃は失敗。
セイレンが話を始めた。
「分かっただろ。魔力のある音は攻撃を防ぎ、
そうでない音は魔力を貫く。」
「“血筋”故、お前の魔力が濃いとして―」
話し終わる前に攻撃。
槍を振り、雷の斬撃を飛ばす。
しかし片手で弾かれる。
「効くと思うか? そんな苦し紛れの―」
セイレンは真顔になる。
敵の真意に気付いたからだ。
あれは囮。
槍を地面に突き刺し、下から雷を―
白騎士たる彼はそう考え、
そして考え終わる前に動いた。
足裏から音を放って急接近。
雷が広がるより速く、
ノエラの顔目掛けて膝蹴りを放つ。
膝はノエラの額に命中。
のけ反るようにして仰向けに倒れる。
額から出血し、目の焦点も定まっていない。
そこにセイレンの追撃。
踏みつけからの衝撃波。
大きく土煙が舞った。
「・・・よく避けたな。」
口元を緩め、敵を見つめる。
立ち上がるノエラ。
槍に身を預けているが、
空間転移でとどめは回避していた。
ノエラは深く息を吸う。
手で血を拭い、頭も押さえる。
その間も超音波の照射は続くが、
空間転移で回避する。
そして、
「またか。」
近づいての刺突。これは弾かれた。
そして間髪入れずに空間転移。
今度は背後を―
「一応言うが、意味ないぞ。」
またしても失敗。肘でずらされた。
その後も空間転移と槍の攻撃を繰り返すも、
悉く捌かれ失敗する。
最初と同様、カウンターの発勁が腹部に命中。
再び膝をつくことに。
「諦めろ。そんな状態で勝てると思うか?」
「ハァ、ハァ・・・黙れ。」
曇った声に、吐き捨てるような言葉。
この戦いの中、初めて口を開いた。
そして相手の眼。鋭くも狭窄している。
それを見てセイレンは、
自身の勝利と、その勝因を確信した。
ノエラが再び攻撃を仕掛ける。
空間転移からの刺突。
防がれるも、直後ノエラはセイレンに触れ、
共に空中へ転移した。
「またか?」
呆れるセイレン。空中で再度転移し、
ノエラは刺突を放つ。
だが空を貫いた。
両手両足。四点から音を放っての空中機動。
そのままノエラを取り囲むように空を跳ねる。
そして攻撃。蹴りが背中に当たる。
「空中戦は得意だぞ。」
殴られ蹴られ、四方からの止まぬ攻撃。
空中で舞い続け、最後は上からの衝撃波。
一直線に地面へと落下した。
「ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ」
うずくまるノエラ。
防御に徹したとは言え、
ダメージは決して少なくない。
雌雄は決した。
そう思ったセイレンは、
一息ついてから話し始めた。
「何故だと思う?」
「何故、君は負けたのだと思う?」
唐突な疑問文。
ノエラは言葉を返せない。
「魔法は優れ、魔力も濃い。
性能では勝っているのに、何故負けたのだと思う?」
「誰が負けだ―」
「感情だよ。もっと言えば、殺意の扱いだ。」
殺意。思わぬ言葉にノエラも閉口。
耳を傾けてしまう。
「君は私が、母を殺した私が憎いのだろう?
だから君には殺意が宿り、
それが原因で負けたんだよ。」
「何を言ってる?」
「分からんか?
私は、先代王の命で君の母を殺した。」
「“そういうこと”は初めてではなくてね。
故に感じるんだよ。殺意を、殺気を。
どの国英より遥かに鋭く。」
「分かるんだよ。君の殺意、その“移動先”が。」
「空間転移は確かに厄介だが、どこに来るのか
分かってしまえば恐れるものではない。」
槍を持つ手が震えた。
敵の解説を、ノエラは愕然として聞いた。
殺意が原因で起きた窮地。
消せなかった。抑えられなかった。
母の仇への憎しみを。
魔王様がヒルデを倒した後、
一度は国英、王室への憎しみは落ち着いた。
だが仇本人と対峙したことで、
抑えきれぬ殺意に身を委ねてしまった。
仲間の足を引っ張ってしまった。
自己嫌悪に陥る彼女を見下し、
セイレンは淡々と告げる。
「殺意は、操ろうとして操れるものではない。」
「殺意を見せず相手を仕留める。それができるのは
ごく一握り。私のようにな。」
次の瞬間、セイレンの手刀がノエラの頭に。
言葉通り、殺意も殺気も見せずにとどめを刺す。
ノエラはかろうじて防御。
が―
「音の刃。前は得物を使っていたが、
アルヴァ―ド様のおかげで必要なくなった。
便利な―」
突然、セイレンの言葉が止まる。
そして、
「フッ、フハハハハハ。良い顔になったな。」
嘲るような大笑いを始めた。
原因はノエラの顔。
斬撃の余波で傷がついていた。
顔の中央。
眼は無事だが、かなり大きな傷になっている。
「フフッ、無様だな。」
「ああ! 無様で思い出したが、
君の母親も大概だったぞ。」
ノエラは固まるも、セイレンは構わず話した。
「君が逃げた後、君の母は抵抗したが、
敵う筈もなく命乞いを始めてな。」
「何でもするから殺さないでくれ、と。」
急にノエラは顔を上げ、
目を見開いてセイレンを見た。
「無理だと言ったら、
今度は無様にも泣き言を吐いていたよ。」
「娘なんて生まなければ良かった!
堕胎しておけば、王宮で殺しておけば、
こんな目に遭うことはなかった! と。」
掌が圧迫される程強く槍を握り、
ノエラの腕と槍もわなわなと震える。
「そのまま後悔にまみれて死んだ。
そう言えばあの女が抵抗した時、
君と同じような傷ができていたか。」
「いずれにせよ、
“女傑”とは思えない最期だったよ。」
そしてノエラは下を向き、沈黙。
直後セイレンは、空気が凍るような寒気を覚える。
煽り過ぎたか―
「フフッ、フフフフフッ―」
「・・・何が可笑しい?」
唐突に笑うノエラ。セイレンも困惑する。
逆上か消沈。
どちらかを狙っての発言だったが、
明らかにそうではない。
ノエラは槍を持ち、ゆっくりと立ち上がる。
そして、笑みを浮かべてこう言った。
「やっちゃったわね、あなた。」
要領を得ない発言。だが構わず続けた。
「いいわ。お礼に一つ教えてあげる。」
「あなた、勝ってないわよ。私にも。私の母にも。」
ノエラから殺意が消えた。
だが顔に青筋を立てたセイレンは、
もうそれどころではなかった。




