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悪役転生  作者: こすもす
白と黒
38/53

悪役転生第38話 王宮


「黒金と、和睦するべきではないだろうか?」


耳を疑う王の言葉に、部屋の空気が凍り付く。


貴族らがざわめく中、一人立ち上がり、

国王に諫言する者がいた。


「何のつもりです? 兄上。」


他ならぬアルヴァ―ドだった。


今は敢えて、「陛下」とは呼ばない。


「黒金が、悪とは言い切れないからだ。」


皆に疑念の目を向けられたまま、

国王―ニュートは説明する。


「最近の黒金はかつてとは違う。

強盗まがいの襲撃はなくなり、国英のいない

地方都市では魔獣の討伐もしている。」


「今や彼らは、辺境の秩序となりつつある。」


「な、何故それを―」


貴族の一人が驚きを口にするも、


「情報網だよ。これでも国王だからな。」


そう言って意に返さない。


その姿に、貴族も白騎士も目を丸くする。


それほどまでに、国王の発言は珍しかった。


政治にほとんど興味を示さず、

お飾り同然の王であった。


そんな人物の急な提案。

容易に認められるわけがない。


「なりません! いいですか、兄上。

奴らが地方を守っているのは善意なんかじゃない。」


「戦力を増やすためです! 

今の魔王は、相手の魔力や魔法を奪える。」


「グラディオやヒルデがどうなったかは

ご存じでしょう。」


「魔獣を倒して魔力を奪い、

恩を着せて兵士を集める。

それが奴らの手口です!」


アルヴァ―ドの怒気が部屋に響く。


白騎士はもとより、数人の貴族も無言で頷く。


この場の空気は、アルヴァ―ドに傾いていた。


「少ないんだ。」


それでもニュートは譲らない。


「地方の都市や村で勧誘に応じたのは、

人口の一、二割程度。」


「その他は変わらぬ暮らしを続けている。

戦えそうな男も含めてな。」


「つまり?」


「“強制徴兵”はしていないんだよ。

他、税の類を取っている様子もない。」


「恩を売っている割には実に寛容だ。

我々より余程民に優しい。」


全員が驚愕の目を国王に向け、

一部は開いた口が塞がらずにいる。


大国の王ともあろう者が、悪の組織を評価する。

冗談で済む話ではない。


「兄上・・・ご自身の発言・・・・・・

分かっていらっしゃるのか?」


濃い怒りに敵意が混ざり、どす黒い声が腹に響く。


アルヴァ―ドの両手に魔力が籠められる。


一触即発の空気に、貴族は震える声を漏らし、

白騎士たちでさえ顔を青ざめる。


「・・・済まない。軽率な発言だったな。

撤回しよう。」


王が下がった。


ついさっきまでの発言が、

嘘に思えるほどあっさりと。


修羅場は避けられたが、

相変わらず国王の考えが分からない。


考えても分からない。


だから皆、変わり者だと頭の中を片付けた。


「・・・私も、失礼いたしました。」


大きく息を吐き、アルヴァ―ドも矛を収める。

再び跪き、再度国王に上奏する。


「では陛下。黒金討伐の裁可、

今すぐお願いいたします。」


「さすれば直ちに、我々白騎士が、

奴らを殲滅いたします故。」


貴族も白騎士も、皆が心の内で安堵する。


陛下も黙り、王弟の怒りも静まった。


後は討伐の命令が下るだけ。


それで話は終わり、予定調和で幕が閉じる。


しかし話が終わるまでに、

もう一悶着起こってしまった。


言うまでもなく、元凶は国王。


顔を斜に構え、じっとアルヴァ―ドを見ている。


その奇妙な沈黙を前に、貴族たちは

湿り気のある緊張感を覚え、息が苦しくなる。


白騎士たちもこの独特の空気を感じ取り、

たまらず国王の顔を見る。


「・・・何です? 陛下。」


アルヴァ―ドがたまらず沈黙を破る。


するとニュートは、じっとりとした目と、

斜めに構えた顔を崩さないまま、

アルヴァ―ドに一言尋ねた。


「勝てるのか?」


尋ねられたアルヴァ―ドの目が血走る。


先程以上の殺気を前に、貴族や白騎士は、

乾いた緊張感で喉が詰まる。


「・・・どういう意味です?」


見開いた目を、一切動かさずに尋ね返す。


ニュートは姿勢を正すも、表情は変えずにいた。

その後国王は俯き、顔色も暗くなる。


しばらく沈黙が続いた。


殺気に当てられた故かは分からない。


それでも国王は顔を上げ、徐に口を開いた。


「深い意味はない。だが、

グラディオは五千体の鎧を率いて敗れた。」


「元雷への防衛も必要だ。

あれ以上の兵を割くことはできない。違うか?」


今度は正論。


賢人なのか変人なのか。


またしても国王が分からず、

貴族たちの脳は疲弊する。


「陛下。鎧など一千もいれば十分です。

我々白騎士の力で、黒金を潰します。」


「できるのか?」


額の血管が浮き出る。


国王の様子を見るに、一切の悪気なく、

アルヴァ―ドのプライドを傷つけているようだ。


「白騎士の力を疑うわけではないが、現に君たちは

魔王やその側近を取り逃がしている。」


「グラディオと戦い、疲弊した彼らを、だ。

しかも魔王の側近の一人は、あろうことか結界―」


「兄上!!!!!!!!」


王宮が震えた。


意識が遠のいていた貴族たちが我に返る。


白騎士の体も強張るほどの怒号。


プライドを傷つけられた故の激昂にも見えるが、

実際は違う。


アルヴァ―ドはただ、国王が「不義の子」の存在を

口走るのを止めたのである。


先代王の醜聞は、イリーナを暗殺した白騎士―

セイレン・ヴァイスと、

王族の二人のみが知っている。


鎧計画を知る上級貴族とは言え、

安易に口外はできない。


「・・・済まん。だが、半端に刺激しては

対話すら不可能になる。」


「確実でないのなら、

強硬策は避けるべきだと思ってな。」


国王も怒号の意図を理解し、

アルヴァ―ドに話を合わせる。


「まだ和睦をお考えですか・・・」


「とにかく、黒金は“一人残らず”殲滅するべきです。

“王家の”威信に懸けて。」


改めて、黒金の殲滅を王に進言する。

白騎士の筆頭として。


そしてそれ以上に、スペリア家の人間として。


「・・・認めよう。」


オォ! 貴族たちの口から安堵が漏れる。


何とか王の裁可を得られたことに、

この場の全員が胸をなでおろす。


ただ一人、ニュートは下を向いてため息をつき、

疲れ切った表情で玉座にもたれかかる。


その諦念に満ちた胸中は、王宮の誰にも理解されず、

共有されることもなかった。


ただこの国の行末だけが、

彼の視界に重く横たわっていた。

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