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悪役転生  作者: こすもす
白と黒
36/53

悪役転生第36話 人災


その日の晩、夕食の席は静けさに包まれていた。


険悪という訳ではない。


だがあんな話の後では、

とても食事を楽しむことはできなかった。


味のしない食べ物を口にしながら、

ノエラはこれまでの生活を思い出していた。


槍の稽古や魔法の練習。


薬や病気、人体の仕組みといった、

医療に関係する基本的な知識も学んだ。


この国の歴史、社会や政治の仕組みも教えられた。


庶民は基本的に学校へ行かない。

そもそも地方都市には学校自体がない。


だから知は力になる。


母はそう言い、とても熱心に教育を施した。


あの熱の入り様はずっと不思議だったが、

今日ようやく納得がいった。


私を無力にしないためだ。


武力も知力も、そして技術も―


いつか“命を狙われる王族”となった時、

自分の身と尊厳を守れるように。


そして、もう一つ納得できたことがある。


「ねえ、お母さん。」


「どうしたの?」


「“誰にも魔法を見せるな”って前に言われたけど、

あれも、()()なの?」


いつだったか、初めて魔法を使ったとき、

母が物凄い顔をして私を見たことがある。


あの目には驚愕と怒り、

或いはそれを通り越した感情が籠められていた。


「ええ、そうよ。あなたの空間転移のように、

“空間”に影響を及ぼす魔法は、

代々この国の王族に受け継がれているものなの。」


「だから、万が一にも露見しないよう、

そう教えていたのよ。」


「あの時のお母さん、

本当に、本当に怖かったよ。」


「フフッ、ごめんなさい。

怖がらせる気はなかったの。」


「ただ本当に驚いただけよ。

可能性があったとはいえ、

あなたに王族の魔法が受け継がれていたことにね。」


食卓に血が通う。

ようやくいつもの雰囲気に戻った。


「本当に驚いただけ」

恐らくこの言葉は真実ではない。


確かに驚いてはいたが、

あの顔はそれだけではなかった。


私が王の、あの男の血を継いでいる。

その事実を受け入れたくなかったのだろう。


だがそれでもよかった。


血筋がどうであれ、

母が私を愛していることも事実だからだ。


でなければとっくに私を捨てている筈。


まして自ら教育を施し、武術まで教えるわけがない。


不義の子供でも、憎むべき男の子供でも、

母にとっては娘なのだろう。


私にとっても、母は母だ。


食卓に灯る小さな明かりが、

母の横顔を優しく照らす。


この何気ない幸せを、

何も隠さなくていい唯一の環境を守りたい。


少女の願いが砕かれたのは、その夜のことだった。




夕食を終え、眠りにつこうとしたその時、

母の手が止まった。


顔も強張っている。


「お母―」


手で言葉を遮られる。


そのまま母は稽古場へ行き、

二人分の槍を持ってきた。


直後、玄関で物音がした。

誰か入ってきた。


ビイィィィィィン―


響く爆音。

耳を塞ぐより前に吹き飛ばされる。


家全体が揺れ、家財道具も割れて散乱する。


音の主が階段を上って現れた。


「・・・まさかとは思っていたが、

娘も生きていたのか。」


男の軍服を彩る銀の装飾。


それが目に入った時、

イリーナは自然と覚悟を決めた。


「ノエラ、逃げなさい。」


「え?」


「魔法を使っていい。

お母さんも後で行くから、先に逃げて。」


「でも―」


「行きなさい!」


初めて母が声を荒げた。


ノエラも自然と理解した。


これが最期だということを。


「逃がすと思うか―」


イリーナは渾身の力で槍を投げた。


娘に向いた殺意の音源を、

自身へと逸らすために。


その渾身も、白騎士は魔法で一蹴する。


だが無駄ではない。


敵の意識が槍に向く。その刹那にノエラは逃走。


槍を手にし、空間転移で家を脱した。


外へと逃げおおせたノエラ。


とは言え、

まだ窮地に陥っていることには変わりない。


とにかく一歩でも遠くへ逃げなければ。


そう思い、ノエラは前を見た。

そこに広がっていた景色は―


地獄だった。


見渡す限りの建物が壊され、

住み慣れた街の姿は見る影もない。


人々も混乱し、

何が起こったのかも分からず逃げ惑っている。


そしてその最中においても、浮かぶ瓦礫が家を壊し、

瓦礫が瓦礫を生み続けている。


その元凶が、私を見つけた。


「槍の女。でも、“女傑”にしては若い。」


「あなた、イリーナ・カルディアの娘ね?」


話しかけてきた女は瓦礫に乗り、

そして無数の瓦礫を引き連れていた。


白いローブを、国英の証を身に纏い、

平然と街を蹂躙している。


「・・・あなたは?」


「国家英雄―ヒルデ・ラブル。

あなたのお母さんを殺しに来たの。」


「じゃあ何で街を―」


「あなたも、よ。」


「恨みはないけど、

“女傑”と本気で殺り合うためにね!」


瓦礫を飛ばす。街の残骸数個が襲い掛かる。


瞬殺、または避けて逃げ惑うかと思ったのだろう。


だがノエラは違った。


軌道を観察、攻撃を紙一重で躱す。

最後の瓦礫は槍で砕く。


ヒルデの顔が変わった。


「へぇ~ そう。鍛えてるのね。」


「お嬢ちゃん。遊んでくれる?」


口角を吊り上げ、ぎらついた眼をこちらに向ける。


ヒルデが両手を掲げ、空気が一拍止まる。


次の瞬間―


瓦礫の豪雨が降り注ぐ。


ノエラめがけての集中砲火。立ち込める土煙。


視界も遮られ、まるで軌道が視えない。


そして―


耳の奥に直接響くような鈍い轟音。


ノエラのいた場所へ、

雪崩のように瓦礫が降り積もる。


さながら絨毯爆撃のよう。


気配がなくなる。


勝った。すぐに死体を―


「ッ!?  アア―」


ヒルデの呻き声。

それと共に、白のローブが血で汚れる。


ノエラだった。


土煙で身を隠し、空間転移で背後から刺した。


このまま追撃―


「いいわよ!」

抉れた脇腹を押さえ、痛みに耐えて蹴りを放つ。


槍で受けさせ、そこを瓦礫で攻撃。

こちらが本命。


が、当たらなかった。


紫の光を放った直後、一瞬で影も形もなくなった。


周囲を見渡すも、姿は見えない。

また、襲ってくる様子はない。


・・・逃げられた。


ヒルデは失態を悔いるも、

その後すぐに思考を巡らせる。


あれは瞬間移動。空間操作系統の魔法。


代々、この国の王族が継承するもの。


何故使える?


あの女は標的の、

子を連れて王宮を脱走した女の娘。


抹殺を命じたのは―


もういい。


私は国英。言われた敵を倒すだけ。


楽しく戦えればそれでいい。


後は知らない。


そして深追いもしない。


本命は女傑。何より―


(また会いたいなぁ。

大きくなったあの娘を殺りたい)


傷口を押さえ、

血にまみれた口角を上げて笑みを浮かべる。


彼女は再びこのグレインでノエラと会うが、

それはまだ先。


ある者に死を、ある者には生を望まれる少女は、

今はただ逃げていた。


遠く、遠く、ひたすら遠くへ。


枯れない涙を目に浮かべ、

道なき道を進み続けた。

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