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野性に振り回される権威

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「……ていう事があったんですけど、いますよね? 別荘跡の地下室に、ソラバシリオオリュウの子供が」


 私がこれまで判明したことを全て説明すると、その場にいた全員が信じられないものを見るような眼をアルフォンス殿下に向ける。

 ジェーダンの封鎖による国内外への損害、その原因がエルメニア王族の人間によるもので、それを隠蔽しようとしたんだ。彼らの胸中に渦巻く激情は、推して知るべしってところだろう。

 

「という訳で、床扉の封印解除の魔道具を貸してくれません? 力ずくで破るには、リスクが大きすぎるんですよ」


 恐らく、重要品を盗まれるくらいなら埋めるという意図があって、地下室の入り口に封印魔法なんて施したんだろう。

 それ自体は結構なことだけど、今の私たちにとっては不都合だ。大人しく床扉の封印を解除してほしいものである。


「……そ、そのような事は知らん。何を言っているんだ、貴様は」


 しかし、アルフォンス殿下は私の言葉を真っ向から否定した。

 まぁここで簡単に認められないんだろう。これまで散々知らぬ存ぜぬを貫いてきたのに、ここにきて身内の失態を知られたら立つ瀬がない。

 そういう自己保身も私は否定しない。生き残るのに必死なのは皆そう。むしろアルフォンス殿下がここまで来ても尚誤魔化そうとするのは、生物的には自然な事と言える。

 ……もっとも、それは全ての生物に根差す本能だ。


「グォオオオオオオオオオオッ!」


 突如、屋敷の外から屋内を覗き込んでいたソラバシリオオリュウが壁を突き破り、床を砕きながら、顔を会議室内に突っ込んできた。

 種の存続の為に子供を守るのも生物が持つ強い本能の一つ。今まさに子供を危険に晒しておきながら、それでも煮え切らない態度ばかり取るアルフォンス殿下を口で咥えると、ソラバシリオオリュウはそのまま殿下を屋敷内から引きずり出し、ブンブンと首を前後左右に振り回し始めた。


「うわああああああああああああああああっ!? や、止め……ぎゃあああああああああっ!?」

「お、王太子殿下ああああああああああああああっ!?」

「アメリア博士っ! 一体何のつもりかっ!?」

「いや、私のせいにされても困るんですけど。止めれるんならとっくに止めてますって」


 すると、王太子の警護をしていた兵士たちが私に剣の切っ先を向ける。

 恐らく、彼らは私がソラバシリオオリュウを操ってアルフォンス王太子を攻撃していると思っているんだろうけど、実際のところは違う。むしろ私は、このドラゴンに振り回されている側だ。


「ここに至るまでの行動は、ソラバシリオオリュウの自発的なものです。王太子殿下の思念波を読み取り、自分の子供なんて知らないと言ってるのが嘘だと分かったんでしょう。だからああやって脅してるんです……さっさと子供を返さないと殺すぞ、と」


 そもそもの話、自分の子供の生存が掛かっている状況下では、私が何か言ったところでソラバシリオオリュウは止められない。

 誤解されがちではあるけど、私はあくまでもドラゴンとの交渉方法を確立しただけであって、操る術を開発した訳ではないのだ。交渉の余地さえない状況であれば、私でも荒れ狂うドラゴンを鎮めるのは不可能である。


「しかしエルメニア王国の王族をあのままにしておくわけにはいかんぞ!? どうにかならんのか、アメリア!」

「もう素直に子供を返すしかないですね。そうすれば離してもらえる余地はあるかと」


 無論、絶対ではない。用済みとなったら憂さ晴らしにアルフォンス王太子を地面や壁に叩きつける可能性もある。

 しかし、この状況下にあっても、このソラバシリオオリュウは冷静だ。咥えた王太子を噛み殺すこともせず、脅すだけで留めているんだから。

 最優先すべきはあくまでも我が子の生存という事だろう……けれど、ソラバシリオオリュウがいつまで己を律し続けていられるかなんて、私にも分からない。


「さて……アルフォンス王太子殿下がああいう状況になった以上、どうするかの判断が出来る人はいますかね? ちなみに、早く決めないとその分だけ王太子殿下の命が危険に晒されますし、子竜が死んだら死んだで、親竜の恨みを買う危険性もあるんですけど」


 ソラバシリオオリュウの親子愛の深さに加え、ドラゴンとしての知能と記憶力、そして思念波を読み取る力を鑑みれば、人の手によって我が子が殺されたという結論に至る可能性は高いと思う。そうなったらあの個体が人間を外敵と学習する危険性もあるのだ。

 私が周囲を見渡しながら告げると、ユーステッド殿下が深々と溜息を吐きながら隣に立つ。


「まるで脅すように言うんじゃない……と言いたいところだが、早急に決めてもらわなければならないのは事実だ」


 とある一団……丁度アルフォンス王太子の近くにいた連中に視線を向けながら、ユーステッド殿下は厳然と告げる。


「アルフォンス王太子殿下のお命だけではない。もしここであのドラゴンの子供が衰弱死などすれば、先日忠告した通り人間を襲い始めるやもしれん。地域の安全の為にも、賢明な判断を下してもらいたい」

「し、しかし……我々だけで決めるには……」


 ここにきても尚、煮え切らない様子を示してくる。

 察するに、王族の信用問題にまで関わってくるこの局面を差配できるだけの権限が無いってところか。

 しかし、だからと言って状況が待ってくれないのも事実。こうなったら危険性は高いけどプランB、瓦礫が地下室に落ちないように丁寧に床扉を破壊して強行突破しかないか。


「話は聞かせてもらった」


 そんなことを考えていると、半壊した会議室に聞き覚えの無い声が響いた。

 振り返って見ると、そこに立っているのは私と同じような鼠色の髪に緑色の目をした、やけに目つきの悪い中年男性で、見るからに立派な服を身に纏っている。

 一体どこの誰だろう……そう思っていると、男性は途切れた床越しにユーステッド殿下に向かって恭しく頭を下げた。


「お初にお目に掛ります、ユーステッド第二皇子殿下。私はエルメニア王国宰相、ケイン・リーヴスです。本来であれば然るべき場でご挨拶申し上げたかったところですが、今は緊急事態。非礼を承知で御身に拝謁することを、どうかお許しいただきたい」


 あぁ、この人が私の父親か……そんな薄い感想が、私の正直な気持ちだった。

 何分、記憶にある限りだと話したこともなければ、顔も合わせたことがない人物だ。実母以上に思い入れも何もなくて、これ以上の反応が出来ない。


「貴殿がリーヴス宰相でしたか。なぜこの場に?」

「無論、我が国にとって重要なジェーダン解放の為。不足している人員を埋めるため、国王陛下より兵士三千、文官二百人を率いて現地入りするよう命ぜられたからにございます……そしてつい先ほどフォルゲンに到着したのですが、どうやらジェーダン解放の目途が立ったとのこと。その為に地下室の開放が必要なのであれば、喜んで手配いたしましょう」


 ここにきて事態は一転。王太子の言葉を覆し、宰相が進んで私たちに協力姿勢を示してきた。

 私的には有難い申し出だけど、ユーステッド殿下の方は少し怪訝な表情。大方、幾ら宰相とはいえ王太子の意向に歯向かう形で一臣下が取り仕切って大丈夫なのかって疑念に思っているってところか。


「私は国王陛下より今回の一件における現場指揮の全権を預かっております。ここからは私が交渉窓口となりますので、何卒ご了承ください」


 そんなユーステッド殿下の懸念を察知したのか、実父はエルメニアの王様の意向を口に出した。

 つまり今この場においては、実父は王太子以上の権限を与えられているという事か。まぁ年若くて経験不足そうな王太子より、場数を踏んだ宰相が取り仕切った方が混乱も少ないだろうし、誰にとってもそこまで悪い話じゃないだろう。

 宰相やエルメニア国王がどういう思惑なのかは知らないけど……少なくとも、私はそこら辺の事は適当に上手いことやってくれれば、後はどうでもいい。


「殿下殿下、そういう事なら私は子竜の保護に向かいたいです。こうしている時間すら勿体ないですし」


 ユーステッド殿下の袖を抓んで軽く二回ほど引っ張ると、殿下は隣に立っていた帝国の外交官と顔を合わせて頷き合う。


「ではアメリア、お前はアルフォンス王太子殿下を解放するように交渉した後、ジェーダンに直行してくれ。その間に、床扉の封印解除手段を用意してもらう……それで構いませんね? 宰相閣下」

「勿論にございます……それと、その者に関しても我々が処罰いたしますので、どうかお任せいただきたく存じます」


 そう言いながら、実父は床に転がしていた実母に視線を一瞬だけ送る。

 時間にして一秒もない、すぐにユーステッド殿下に視線を戻したけど、その眼差しは非常に無機質。少なくとも、世間一般的に家族に向けるようなものではないんじゃなかろうか?

 そういう意味では、私と実父は容姿を含めて結構似ているのかもしれない。私自身、実の家族に対して情を向けられるかと言われれば難しいし。

 しかし、あの様子だと実母はやっぱりタダでは済まないんだと、改めて確信させられた……そう思うと少しだけ複雑な気持ちが芽生えてきたけど、私はそれを振り切ってソラバシリオオリュウに王太子を離してもらうよう交渉に向かうのだった。


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― 新着の感想 ―
小竜が何事もなく無事に解放される事を祈ります。
ドラゴンは魔力食だけど、水もなくて大丈夫なんでしたっけ。幼ドラゴンは肉体的にあまりダメージ受けずに解放されてほしいな。親ドラゴンが素晴らしいので、感情移入しながら親子再会を待っています。ヒトのエゴがめ…
尻尾切りしても意味無いでしょ。 安全も信用もなくなれば商人なんて来る可能性なんてないでしょ
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