表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/126

アメリアは気にしない

書籍化します。詳しくは活動報告をチェック!


「ジェーダン……あの発展した貿易都市が、壊滅状態にあるという事か」


 辺境伯邸の執務室。その仕事机に両肘を付けたセドリック閣下は、難しい表情を浮かべて唸る。

 

「ウォークライの次に巨竜半島から近いとはいえ、我が領のように海岸から視認できるほどではない。相当な距離が離れており、ドラゴンの目撃情報があの街で見られたという話は聞いたことがありませんが……可能性としては、ゼロではなかったという事でしょう。結果的にドラゴンへの対応が不十分だったが故の惨事でしたが、ジェーダンでの出来事は我々にとっても他人事ではありませんね」


 ユーステッド殿下曰く、貿易都市ジェーダンを経由して帝国に渡ってくる海外からの商人たちというのも多いらしい。

 一応、帝国にもウォークライ領の軍港や漁港ポルトガとは別に、海外からの商人とやり取りをする貿易中心の港町が他領に存在しているらしいけど、それだけでは帝国の外資系事業を支えるには不十分のようだし、ジェーダンを経由して帝国に訪れる商人たちの経路の代わりにはならないみたいだ。

 まぁ飛行機を使えば一日で外国に行けた前世と違い、移動にとにかく手間のかかるご時世だ。食料を始めとした、長距離移動にかかる経費と手間も馬鹿にならないんだろう。


「うむ。帝国南部全体の経済に大きな打撃を与えうる。我が領にしても、ケイリッドのオリーブオイルの輸出先が減って損失が出るだろう……ジェーダンの奪還は急務だ」

「この事については、既にお母様とレオンハルトお兄様には既に伝えられているのですよね? 今回の一件は確実に辺境伯軍を動かすことになるでしょうし、派兵するには認可が必須です」


 この場に同席していたティア様はおずおずと確認をすると、セドリック閣下はしっかりと頷く。


「それについては既に、ニールセン騎兵隊員に私からの報告書を持たせて帝都に向かわせた。何事も無ければ、明日には返事が戻ってくるだろう」

 

 ウォークライ領から帝都は本来なら、一か月くらいかけて往復しないといけない距離だけど、そこはドラゴンの力様様って奴だ。

 ヘキソウウモウリュウなら乗り換えなしで一日以内で往復可能な距離だし、そのドラゴンを駆るのは辺境伯軍で一番騎乗が上手いヴィルマさん……下手すれば、こちらの想定より早く戻ってくる。


「帝国とエルメニア王国は良好とは言い難い関係ではあるが、経済的な結び付きはある。ジェーダンの都市機能が停まったとなれば、正妃殿下やレオンハルトの判断も早いはずだ。まず間違いなく、人員派遣を言い渡されるだろう」

「しかし……そうなると、アメリアを一時的にエルメニア王国に戻すという事になりますね」

「あぁ。ドラゴン相手に人間の力尽くが通用しない以上、件のドラゴンをジェーダンから移動させるには、彼女の知見は必要不可欠だ」

「お姉様を身代わりにして巨竜半島に追いやったあの国の土を、再びお姉様に踏ませることになるなんて……」


 何やら気を使っているかのようなオーラが私の背中に突き刺さる。

 そんな三人の視線を一身に浴びている私はといえば……。


「ほらほらクラウディア、それも詰めて詰めて! ドラゴンの不可解な行動を調べるには、準備は幾らあっても足りないからさ!」

「は、はいっ! ……って、フラスコ!? もしかしてまた排泄物を採取するとかそういう……!?」

「当たり前でしょ。例のドラゴンは慣れない環境下に長期間身を置き続けてるらしいじゃん。排泄物にストレス物質が混ざっているっていう、決定的なサンプルが手に入るかもじゃん。チャンスを見逃さず、絶対に採取しなきゃ」

「ひぃぃぃぃいいんっ! や、やっぱりぃいいいいいいい!?」


 それを無視して、ウキウキ気分でクラウディアと一緒に調査遠征の準備に励んでいた。

 大きいリュックサックを二人分用意したけど、そこに調査に使えそうな道具や資料を片っ端から詰め込んだおかげで、もうボールみたいにパンパンだ。総合的な大きさなら、すでに私たちの体よりも上かもしれない。 


「あ、閣下。ジェーダンにはいつ出発するんですか? こっちは何時でも準備万端ですよ」

「…………心配して損した」


 呆れたように片手で顔を覆って天を仰ぐユーステッド殿下に、ティア様とセドリック閣下が苦笑する。


「どうしたんですか、そんな疲れたような顔をして。出発する前からそんな調子じゃ、身が持ちませんよ?」

「誰のせいだと思っているのだ、誰の」


 その言葉に同意するように、後ろの二人も首を縦に振る。

 おかしい……私は何も悪いことしていないのに、なぜか私のせいみたいな雰囲気になっている。


「でも博士、本当に大丈夫なんですか? エルメニア王国って言ったら、博士を巨竜半島に追いやった国ですよね? 何か思うところとか無いんですか?」

「え? クッソどうでもいいんだけど?」


 クラウディアには話したこと無いけど、あの日の出来事は私にとって完全に結果オーライだった。

 確かにエルメニア王国に住んでた時は色々あったし、良い思い出とかも特に無いけど、だからってドラゴン調査を足踏みする理由は無い。


「気持ちは分かるが、アメリアは良くも悪くもこういう人物だ。気にするだけ無駄だろう」

「みたいですね……」


 よく分からないけど、クラウディアも納得したようだ……何か感心したというか、呆れたような目を向けてくることには若干引っ掛かるけど。

 そんな助手の尊敬してるのかしていないのか判別が付かない視線を受けていると、セドリック閣下が『話を戻そう』と話題を元に戻す。


「帝国南部の経済や、エルメニアへ貸しを作るという意味でも、正妃殿下はアメリアをジェーダンに送るように指示するだろう。なので今の内に出立の準備を進めておく必要がある。エルメニア王国に滞在している大使との連携し、外交的なやり取りはこちらで行うことになるが……同時に、アメリアの護衛部隊も編成する必要がある」

「あー、前から言ってた奴ですか?」


 なんか私が色々危なっかしいから、研究の手伝いも兼ねた護衛を付けてくれるって話だ。ドラゴンに乗って移動する機会も多いことから、実際に部隊が結成されるのはまだ先だって話だと聞いてたんだけど……。


「いや、今回は少し違う。あくまでもエルメニア王国側の人間を、アメリアに近づけさせないための処置だ」

「お前は日頃から頓着していないようだから忠告しておくが、我が国がドラゴンを軸にした事業展開を推し進めると同時に、ドラゴン研究の需要は世界中で高まりつつある。しかしこれまでは触らぬ神に祟りなしとばかりに後回しにされ続けた分野だっただけに、お前やクラウディアを除けばまともなドラゴン研究者は存在しない……となれば、一部の人間は研究者を一から育てるコストよりも、既に知識を有している人間を誘拐するリスクを取ろうと考える」

「まぁそういう人も居るでしょうね……で、そうする可能性が一番高そうなのが、エルメニア王国側の人間ってことですか?」

「そういうことだ。書類上はともかく、お前の事をエルメニア貴族出身だと知っている者は多いだろうからな」


 私は一応、アルバラン帝国出身の平民って事になっているけど、それを本心から信じているエルメニア側の貴族……特に王家や実家の人間は居ないっていうのは、想像に難くない。

 となると、私が帝国でドラゴン研究をして、帝国の利益をもたらしているのが気に入らないっていう人が出てくるのは当然だろう。


「実際に、支援に赴いた他国の人間を害する可能性は低いだろうが……人間が絡む以上、何事も確実は存在しない。最悪を想定した体制で臨んだ方が良いだろう」

「とりあえず、アメリアと公的に接触しようとする者は、我々が理由を付けて跳ね除けておく。お前たちは調査に専念し、ジェーダンからドラゴンを立ち退かせることに集中してくれ」

「了解でーす。それじゃあ、件のドラゴンの事で分かっている情報とかも教えてもらっていいですかね。出発までに考察しておきたいんで」


 そんな話をしていた翌日、正妃様からエルメニア行きの勅書を携えたヴィルマさんがウォークライ領に戻ってきた。

 これによって、晴れてジェーダンにドラゴン研究へ行けることとなった私は、七年以上ぶりに故郷の土を踏むこととなった。




面白いと思っていただければ、評価ポイント、お気に入り登録よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ