第21話〜母ちゃんの思い〜
「喰らえライム!! “ダークブレイク”!!」
地面に、“暗黒剣・ニャインライヴ”をブッ刺した。嵐みてえな風とともに、衝撃波が周りに広がる。
「……ぐっ!?」
ライムの苦しそうな声が聞こえた。
見ると、さすがの巨体のライムも、巻き起こった衝撃波と暴風にあおられて、体4つぶんぐらいの距離まで吹っ飛ばされている。
すかさず、顔を歪めているライムの方へ駆け寄った。
「思い知ったかライム。今度はボクの渾身のネコパンチをお見舞いして、テメエを懲らしめてやる」
「ゴマ、やめてください!」
「……母ちゃん!?」
途端に、体が動かなくなった。紫色の光が、オタマジャクシみたいな形になって、体から離れていく――。
あれ? “暗黒剣・ニャインライヴ”が無え。
あ! また、“転身”が、解けてしまっている!
「クソ、動けねえ!」
……顔だけは動かせるみてえだ。振り向くと、追ってきた母ちゃんが険しい顔して、杖をかざしていた。杖が怪しく赤紫色に光っていて、その光がボクの体にまとわりついている。
「母ちゃん、何で……」
「ライムを傷つけないで、ゴマ……! 私はライムと……話がしたいのです」
母ちゃんの声が震えていた。
必死に体を動かそうとしても、母ちゃんの魔力には敵わなかった。ウダウダしてる間に、ライムがゆっくりと立ち上がって、こっちに近づいてくる――。
「少々効いたな。こんなガキも星光団になれるのか」
ライムは鎧についた土を払いながら、舌打ちをした。
「ガキじゃねえ! ボクは“暁闇の勇者・ゴマ”だ! ボクはメルさん、じゅじゅさんの弟だ。だからテメエの弟でもあるんだよ! 同じ家族として、目ぇ覚まさせてやるんだ!」
「貴様と家族になった覚えはねえよ。貴様のように、考え無しに力を振るうだけでは、私の望み……ネズミの世界の占領計画を止める事は、できねえな」
「何だと?」
「ゴマといったな。貴様には本当の“力”というものを、いずれ思い知らせてやる。偵察はこれで十分だ。私たちは帰らせてもらう。だが次に来る時は、我が軍隊を率いて総攻撃を加え、ネズミの世界を完全に我々ニャンバラが占領するのだ。そして豊かな資源を独占し、大量のネズミを捕獲して、ニャンバリアンの食糧とするのだ。その時に貴様を……そして星光団を、葬ってやろう」
「クソ! 待て、ライム!!」
ライムが、“ワームホール”の方へと行っちまう……!
振り向くと、母ちゃんが杖を構えたまま、もう片方の前足で顔を押さえている。「ライム……ライム……!」と、声を震わせている。
すぐにでもライムを追いたかったが、母ちゃんの魔力のせいでやっぱり動けねえ。母ちゃんは、
「待て! “ワームホール”はどうするつもりだ?」
ソールさんが“ワームホール”の前へ飛び出し、盾を構えて立ち塞がった。ライムはそのまま止まらずにドデカい剣を引き抜くと、ソールさんの盾にそっと剣の先を当てた。
ギシギシと音がして、ソールさんが後ろに押されていく。
「邪魔すると、この場で貴様を殺すぞ」
「クッ……」
「ソール、やめろ! 退がれ!」
マーズさんが叫ぶ。
ソールさん1匹で敵うはずがねえ。ボクもまだ、母ちゃんの魔力のせいで動けねえ。
ライムはデカい剣をしまう。ソールさんはうつむきながら盾を下ろして、悔しそうな顔をしながら道を開けた。
ライムが、“ワームホール”へと向かいながら言い捨てる。
「総攻撃が始まるまで、貴様らはこの平和なネズミの世界でいい子に暮らしてるがいいさ。死ぬ前に穏やかな時間を過ごすのも、悪くはねえだろう」
「待ってや! ライムさん、ウチを助けてよ!」
ロープに巻かれたままのスピカが、デケえ声を上げた。
ライムは振り向かずに、足を止める。
「……ゴマは確かに厄介だ。だがスピカ。精鋭ともあろう者なら、デネブとリゲルのように、逃走するという判断ができたはずだ。油断するんじゃねえと何度も言ったのを忘れたか? スピカ」
「いや、ライムさん! ウチは……」
「スピカ。貴様もそこで、ネズミどもと仲良く暮らしてろ。貴様は」
「そんな……。嫌や! ライムさん……」
スピカが声を上げて訴えかけたが、ライムはその言葉を遮る。
「今をもって、“ニャンバラ軍精鋭・ギャラクシー”ならびに、ニャンバラ軍を解雇する」
ライムは再び地響きを立てて歩き出し、とうとう“ワームホール”をくぐって、行ってしまった。
辺りが少しの間、嫌な静けさに包まれた。
「ウソやん……、ライムさん、今までずっと信じてついてきたのに……。ウソやん。そんなん無いわ……、ニャアアアアン!!」
スピカの泣き声が、さっきまでの静けさを引き裂くみてえに響き渡った。
ただでさえこの女は声がデケえのに……、耳がおかしくなっちまいそうだ。
「ああっ、“ワームホール”が……!」
「消えてしまいましたね……」
ソールさんと母ちゃんの言葉を聞いて振り向くと、もうそこには“ワームホール”の影も形も無くなっていた。……って事は、ボクらはネズミの世界に取り残されちまったって事だ。




