第10話〜最高級品の報酬のために〜
『ニ、ニンゲン……!? どうして……』
ルナの“ニャイフォン”から、プレアデスの野郎の声が漏れて聞こえた。
「本当にいるんです。待ってください、“ニャイフォン”で撮影して送信しますね。ついでに今まで撮ったやつもまとめて送ります」
『ルナくん、“ニャイフォン”使いこなすの早いね。……本当だ。てっきり巨大なニンゲンがいるのかと思ったけど、ネズミと同じ背丈なんだね』
「そうなんです。引き続き撮影を続けたらいいですか?」
『うん。もっとたくさんデータが欲しいからね。また後で連絡するから、それまでよろしく頼んだよ。あ、この仕事の報酬は、青魚の缶詰最高級品だから。頑張ってね』
「何ッ!? ならやるしかねぇな!!」
「兄ちゃん、声が大きい! ……すみませんプレアデスさん、ではまた後で」
魚の缶詰の最高級品だとよ。
さっきパンみてえなのを食ったばかりだが、もうよだれが口ん中に溢れてきやがった。
「さあルナ! マサシとやらを見失わないよう、追いかけるぞ」
「はいはい。はしゃぎ過ぎて見つかったら報酬もきっともらえないから、気をつけてね。あ、あのニンゲンさんたち、川辺の建物に入って行ったよ」
「そうか! 急ぐぞ!」
見ると、大通りから続く橋の近くにある四角い建物に、ちょうどマサシどもが入って行くところだった。
大通りには、ネズミどもがうじゃうじゃと居やがる。
こんなハリボテみてえなかぶり物、ぜってえ怪しまれるに決まってるぜ。
建物まで行くには、大通りを渡らなきゃならねえ。ニンゲン社会でいう横断歩道みてえなのがあるが、今は赤いランプがついてて変な柵も出てて、渡れねえ。
「物音立てずに移動するのは得意だが、さすがにコイツは少々キツいな」
「あ、ランプが青になって、渡れるようになったよ」
柵が地面に収まると、今度は横断歩道の左右に柵が出てきて、車が通れなくなった。ニャるほど、これなら車に轢かれることは無えわけだ。ネズミどもの街、ニンゲン社会より進んでるんじゃねえか?
「今はネズミどもが少ねえ。ダッシュで渡っちまおう!」
「うん!」
ネズミどもの視線は感じたが、大丈夫だ。もし話しかけられても、振り切るだけだ。
どうにか、川辺の建物に辿り着いた。
「だが、中に入る訳にはいかねえもんな」
「あ! テラスにマサシさんたち、いるよ」
ルナの言う通り、マサシどもはテラスで、美味そうな飲み物を飲んでやがる。
「この赤いボタンが……動く映像で撮れるやつか。ポチッと」
「そうそう。はあ、やっと使い慣れてきたんだね」
「うるせえよ」
「ほら、僕らの声まで入っちゃうから黙って」
他のネズミたちの様子も、動く映像に収めておいた。
ネズミどもはみんな、悩みとか無さそうで幸せそうな顔してる奴らばかりだ。ネズミ同士のイザコザみたいなのも、全く見当たらねえ。
ニャるほど、プレアデスの言ってた通り、この世界ならヘイワに暮らせそうだ。
「何か、いいよな、ここ」
「うん。分かる。なんか言葉にできないけど、いい所だよね」
……と、今度は川の向こうから、何やら騒がしい音が聴こえてきた。
笛とかラッパの音、太鼓みてえな音。ネズミどもの歓声。
どうやら、祭りみてえなものが始まるようだ。
そうこうしているうちに、マサシどもが席を立った。
「ねえ、あそこまで行って、近くで聴かない?」
「ふふ、じゃあ行こうか、マサシくん」
「行こ行こー、マサシ兄ちゃん!」
マサシどもの声が聞こえたと思ったら、奴らは足早に建物を出て行った。
「ルナ、ボクらも行くぞ」
「うん。念を押すけど、静かにね」




