第23話〜迂闊〜
ボクらが乗った不思議なマシン――“パルサー”は、音もなく宙に浮かび始めた。
薄暗いライトで照らされた窓の外を眺めていると、
「XXXXXXXXXXXXX……」
プルートのジジイが突然、変な呪文を唱え始めやがる。やっぱり蚊の羽音のような声で、不愉快だ。
と、突然、奇妙な形の蔓や葉で覆われた茂みが勝手にモゾモゾと動いて、何とそこに、ドデカい穴が現れたんだ。
“パルサー”が丸ごと入れるくらいのデカさだ。
穴の中は、黒い夜空よりももっと真っ黒で、まるで別世界へ吸い込まれるかのようだ。背筋がゾクゾクッとした。
“パルサー”は、そのドデカい穴の上へゆっくりと飛んで行く。そして少しずつ高度を下げ、穴の中へ入って行くじゃねえか。
「うおお、何だかすげえな」
「動いちゃダメだよ、兄ちゃん」
“パルサー”は、完全に穴の中へ入ったみてえだ。
窓の外、上の方を見ると、また茂みが動いて、穴を塞いでいっていた。
そしてすぐに窓の外は、真っ暗闇になってしまった。
「ワタシが地上へ行った日の事ですぅ〜。突然、体のバランスがぁ崩れてぇ、4本足でしか歩けなくなりぃ? びっくりしましたぁ〜! そのまましばらくぅ探索しているとぉ? 緑の植物がぁ茂る森の中にぃ、煌々と輝く草地があるのを見ぃつけたあのでぇす?」
プルートのジジイが語り始めた。
操縦に集中しろよ、命懸けの旅ニャんだからよ。
「そ〜っと覗いてみればぁ、なぁ~んと。我々と同じように知性を持っているであろうネズミたちの姿がありましたぁ。衣服を身につけ、言葉でコミュニケーションを取っている様子が窺えましたァァ。しか〜もぉ? 大きな街を作って楽しそうに暮らしてるでは、あぁ~りませんかぁ? それはそれは平和で、豊かなぁ暮らしぶりでしたぁ。イ一ヒッヒィ〜!」
「ジジイうるせえぞ」
「シッ。話を遮ると機嫌損ねるから、そっとしといてあげて」
プレアデスがボクの言葉を遮ると、プルートの様子を心配そうに見た。
全く、面倒臭え奴だ。
「ワタシのぉ、数々の発明品を使えばァ? ワタシたちネコもォ、ネズミとおんなぁじ大きさになる事がぁできますゥ〜。そこでぇ!! ニャンバラのネコたちをぉ? あの平和なネズミの街にぃ、移住させてはどうかとぉ思いつきましたぁ」
ルナが顔を歪めながら、体を丸めている。コイツもジジイの声を、不愉快に思ってるみてえだ。
「場所も特定してますぅ。しっかぁし、ネズミの暮らす街にはぁ? 何重にも【結界】が張られていてぇ、中に立ち入ることがぁできないのですゥ。そこでぇ、ワタシは帰ってぇ研究しぃ、発明しましたァ!! それはなななぁんと? ワタシたちネコがネズミのサイズにまで小さくなれると同時にぃ、“結界”をもォ通過できるという優れたトンネルなのですゥゥ!? 着いたらぁ、試してみましょうねぇ~。グッフフフフフフぅ~」
よく分かんねえが、コイツの発明品とやら、まだちゃんと使えるかテストしてねえっぽいな。
ま、何にせよ。
「おい、ルナ」
「どしたの、兄ちゃん?」
「地上へ着いたら、プレアデスが見てない隙に、1、2の3で逃げるぞ」
ハッキリ言って、ネズミの国なんざもニャンバラの危機とやらも、ボクにとっちゃどうでもイイ。
ボクらがただ、棲家のガレージへ帰れさえすりゃイイんだ。
地上へ着いたら、隙を見て逃げちまおう。
「ダメだよ兄ちゃん。頼まれたお仕事はちゃんとしなきゃ」
「バカ野郎。これ以上奴らと関わるってのか? あんだけ怖がってたのは誰だよ?」
「でも、地上へ帰るといっても、僕らの棲家の近くに出るとは限らないじゃん……。あんまり考えたくないけど……」
「う、それは……」
しまった。
ボクの棲家がどこにあるかなんて、プレアデスの奴らは知るはずもねぇよな。
クソッタレ! 迂闊だった。
必死だったから、ただ地上へ帰る事しか考えてなかった。地上といっても、どこに出るかなんて見当もつかねえ。
そう思った瞬間だ。
ズドン!!
ボクらは、激しい揺れに襲われた。




