第22話〜地上へ出発〜
目が覚めた。周りは真っ暗だ。
カーテンを開けて窓の外を見てみた。空は未だに、塗りつぶされたような黒だった。
グッスリ寝た実感はあるんだが、まだ夜中なのか。地底の夜、ちぃと長すぎやしねえか?
ルナは、まだぐっすりと眠ってやがる。
暇だし、ボクは部屋の中を見て回ることにした。ネコの目は、暗闇でもよく見えるんだ。珍しいオモチャとか無えかな。
ん?
部屋の隅に、何やら細長い物が落っこちている。
近づいて見てみると、それはサビサビになった細長い刃物だった。刃の根元が、野に咲く花のような形になっていて、一際目を引いた。
だが、サビサビだ。何に使うんだ、これ……。
妙に気になって、両前足で持ち上げてみた。意外と軽いんだな、コレ。形はキレイだし、刃も錆びてるからケガする心配も無さそうだし、持って帰っちまおうか。
そう思った時だ。誰かが部屋をノックした。
「ゴマくん、ルナくん、おはよう」
同時に豆電球が灯った。
ルナが「うーん」と唸って伸びをして、目を覚ました。
ボクはサビサビの刃物をそっと元の場所に置いた。やっぱりドロボウはまずい。
「おうプレアデス。やっと地上へ帰れるのか?」
「うん! 出発準備が出来たから、支度してね」
「ていうかプレアデスよ、まだ“セントラル・サン”とやらは光ってねえじゃねえか。どんだけ長えんだ、この世界の夜は」
尋ねると、プレアデスは首を傾げた。
「そう、それなんだけど……。時間的にはとっくに夜明けは過ぎてる。なのにまだ、“セントラル・サン”が輝き始めない。ニュースでは、異常現象だとして世界中で大騒ぎになってるって」
「今までにも、そんニャ事はあったのか?」
「ううん、こんな事は生まれて初めてだよ。とにかく、今は僕らがやるべき事をやるのを優先しよう。支度が済んだら言ってね」
……もうこんニャ訳のわからねえ世界は、こりごりだ。
ボクもルナもさっさと魚の缶詰を食って、顔を洗って毛づくろいを済ませた。
プレアデスに案内され、暗い階段やら廊下やらを通って行く。埃やら変な薬品やらのニオイで、頭が痛くなった。
建物の外に出た時、目に飛び込んできたのは――。
銀一色に塗装された、おかしな形の乗り物だ。
皿のような円盤の上に、ボールを半分にしたような物が乗っかっているような形だ。
真ん丸い窓からぼんやりと、明かりが漏れている。
「みなさァァん~? お揃いですかぁ~?」
出た。イカれた科学研究者のジジイ、プルートだ。
不愉快な高い声に、思わず毛を逆立ててしまう。
「うん。プルート、マシンの調子は大丈夫?」
「はぁい、バッチグ~ですよぉ?」
ジジイがガニ股になって両前足でマルのマークを作る。全然可愛くねえ。「バッチグ~」ニャンて、いつの言葉だよ。
いや、そんニャ事はどうでもイイ。この銀色のマシンとやらに乗って、地上へ行くというのか。だがこの変な形のマシンが一体どんなふうに動くのか、全く想像出来ねえ。
「昨日説明した通りぃ、私が一度地上へ行った時に使ったマシン、【パルサー】でェ、皆さんを地上へ送り届けますぅ? 私とプレアデスしか知らなぁい隠された地上への道……イーッヒッヒッヒぃ……!」
ジジイの説明からわざと意識を逸らしながら、プレアデスに話しかけた。
「どうしたんだい、ゴマくん?」
「……操縦もこのジジイがするのか?」
一番不安だった事だ。
だがプレアデスは、こくりと頷いて「うん、そうだよ」と平然と言いやがった。
「……大丈夫なのか?」
「きっと大丈夫。ああ見えて、事故を起こした事は1度もないみたいだよ」
信用できねえ。不安が拭えねえまま、ボクらは、“パルサー”の元へ案内された。
ボールを半分にしたような部分が、乗る場所らしい。ドアがウイーンと音を立てて開く。
ツルツル滑る円盤の上に乗り、中へ入った。
身動きが一切出来ねえほどの狭さだった。シートがフカフカな事だけが救いだ。
前の席には、訳の分からねえボタンやらが色々ついている。そこにプルートのジジイが乗り込んできた。薬品みてえなニオイがして、吐き気がするぜ。
ボクもルナも、どうにか後ろの座席に座れた。するとプレアデスが“安全ベルト”とやらを引っ張り出し、ボクの体に巻き付けていきやがる。
「ジジイが乗り物を運転してる間、ずっとベルトでぐるぐる巻きにされるのか……。なるべく早く終わってくれよ」
「息が苦しい……」
「ルナくん、巻き過ぎ巻き過ぎ。……これくらいでいいから」
ルナはちゃんとジジイの話を聞いてやがったからか、自分でベルトを巻いていた。ったく、よくあんな説明、聞く気になれたもんだ。
狭っ苦しい後部座席の右にボク、左にプレアデス、真ん中にルナ。前の運転席にプルートのジジイ。
全員が安全ベルトとやらを着けると、ウイーンと音を立てて、自動的にドアが閉まっていった。
乗り物が震えだして、まん丸い窓から見える地面が離れていく。
“パルサー”は宙に浮いたみてえだ。
同時に、明かりが消える。建物の明かりも、全て消えていた。真っ暗闇だ。プレアデスが言っていたように、地上への穴の場所がバレちゃいけねえからだろう。
しばらくすると、プルートのジジイが口を開いた。
「さぁ~て皆さぁん? いまから“パルサー”はぁ、この茂みの奥にある秘密の入り口からぁ? 地上へ向かいますぅ。入り口からはぁ、まぁーっすぐ下方向へ穴が続いてるのでぇー、ひたすら“パルサー”はぁ空中を飛び続けますぅ。気分がぁ? 悪くなったらぁ、知らぁせてくださいねぇ」
テメエの存在のせいで気分が悪りいと言おうとしたが、やめておいた。
「重力の中心はぁ地殻のど真ん中にありますう。なので、中間地点で、天と地が反転いたしますぅ〜。脳天をぉ? かき回される感覚になるので、気をつけてくださいねぇ~?」
ダメだ、何言ってるか分かりゃしねえ。
それよりも、身動きが取れねえのが、とってもストレスだ。
「おいルナ、大丈夫か?」
「……頑張る」
プルートのジジイが右前足を上げた。プルプルと小刻みに震えている。
「それではぁ~、あ、地上へと向かいますぅぅ~?」




