第18話〜地上へ帰る条件〜
「ねえ、帰りたいよ! メル姉ちゃんにもじゅじゅ姉ちゃんにも、ユキとポコにも会いたい! にゃあああん……!」
気持ちを抑えられなくなっちまったんだろう。ルナが尻尾をブンブンしながらニャーニャー鳴き始めた。
プレアデスの奴は、天井の方をボーッと見つめたまま何も言いやがらねえ。おい、これ以上じらすんじゃねえよ。
と思ったら突然こっちを見て、いきなり頭をペコリと下げやがった。
「……ゴマくん、ルナくん。君たちの力を貸して欲しいんだ。“地上世界”へ行ってから、“ネズミたちが暮らす伝説の理想郷”へ、僕と一緒に行って欲しい。……それが、君たちを家に帰す条件……というより、お願い、だね」
は?
いや、待て待て。
そんな有りもしねえ世界に行けだなんて、コイツ頭狂っちまったのか? いや、元々ニャーんか、怪しいと思ってたんだ。
「“伝説の理想郷”の場所ももう特定してあるし、そこへ行くための手段もある」
「おいプレアデス! テメエ、ボクらをおちょくってやがんのか!」
ボクは、プレアデスのムカつくぐらい整った顔を思いっきり睨み、全身の毛を逆立てて威嚇しながら声を上げた。
が、奴はビビるどころか、平然とした顔して言い返しやがる。
「からかってなんかない。真剣だよ。例の科学研究者は、ちゃんと“伝説の理想郷”へ行ったんだよ。写真があるんだ。見て」
プレアデスは、“ニャイフォン”の画面を見せてきた。
何だ、ボヤけていてよく分からねえじゃねえか。画面全体が虹色になっていて、そこにうっすら、建物らしき影があるだけだ。
こんなモン、証拠になんねえだろ。
ついでに、毛むくじゃらのネコの顔も写っていた。プレアデスに聞いてみると、例の科学研究者とやらの姿らしい。
「てことで、まず最初に僕らは、例の科学研究者のいる研究所へと向かうよ。山奥にあるんだ」
「待てって。その怪しい科学研究者とやらに会えってのか? まだ、その条件を飲むって言ってねえぞ」
「ゴマくんたちは地上へ行きたいんでしょ? 例の科学研究者のマシンに乗らないと、地上へは行けないよ?」
「ぐ……」
めちゃくちゃ胡散臭えが、地上へ行ったという科学研究者とやらを頼らなきゃ、ボクらは帰れねえらしい。ていうか、今のところ帰れる可能性としては、それしか無え。
とりあえず、最後まで話を聞いてみるか。
「……その科学研究者とやらに会ってからはどーすんだ」
「研究所へ着いたら、科学研究者のマシンに乗って、山の中に隠された【地上へと繋がる穴】に入るんだ。地底世界は地上世界の真裏にあるから、地下へ潜っていけば地上に出るっていうわけ」
本当にそれで帰れるんだな?
ルナが不安そうにしながら、ボクにくっついてやがる。
もし帰れなかったら、ネコキックじゃ済まさねえぞ。
「大丈夫だよ! 僕を信じて。それで地上に着いて、ネズミの住む“伝説の理想郷”のある場所へたどり着いたら、科学研究者の最新技術でもって、ゴマくんたちと僕はネズミと同じサイズになってもらう。そしてまた最新技術を使って、張り巡らされた【結界】を通り抜け、潜入するんだ」
最新技術ばっかだな。
ま、地上と行き来するくらいだから、その毛むくじゃらの科学研究者とやらは、ネコの中でも相当凄えネコなんだろう。どーでもいいが。
「ネズミと同じサイズになる? 信じられねえな。……で、そのネズミのリソーキョーとやらで、ボクらは何したらいいんだ?」
怪しすぎて聞く気が失せちまいそうだが、まあ最後までは聞いてやるとするか。
プレアデスは“ニャイフォン”の裏側を見せてきた。よく見ると、黒くて小さな丸いレンズみてえなものがくっついている。
「君たちには、“ニャイフォン”に付いているビデオカメラ機能で、“伝説の理想郷”に住むネズミがどんな暮らしをしているか、その様子を撮影してきてもらいたいんだ。あ、ネズミを襲って食べたりしちゃダメだよ」
「使い方が分かんねえよ」
「ちゃんと説明するから」
「それが終わったら、帰ってもいいのか?」
「撮影した映像データを僕に送信してもらったら、また“結界”を抜けて、“伝説の理想郷”から帰還するんだ。最新技術で元のサイズに戻ってもらったら、帰って大丈夫だよ。僕らもまた科学研究者のマシンで、ニャンバラへ帰るから」
要は、地上のどっかに、服着て言葉を喋るネズミどもが暮らす平和な世界がある。
で、地底に住めなくなりつつあるニャンバラの奴らが、科学研究者とやらの最新技術でネズミサイズになって、そのネズミの住む世界へ移住しようとしてるらしい。
だが、ネズミの世界とやらがどんな所かは、ニャンバラの奴らも知らねえ。
だからちょっと様子を見て来るのを手伝えと。そういう事らしい。
胡散臭さしかねえが、棲家に帰るためだ。ここは一旦、条件を飲むか。
ルナが力のない声で聞いてくる。
「……兄ちゃん、大丈夫なの?」
「ああ、やるしかねえみてえだ。おいプレアデス、仕方ねえからやってやる。本当に、地上へ行けるんだな!? 嘘ついたら、必殺ネコキックだからな」
「ありがとう! やってくれるんだね! よろしく頼んだよ、ゴマくん、ルナくん!」
闇の中、天井から落ちる水滴の音が響き続ける。こんなおかしな世界なんか、さっさとおさらばしちまいたい。
ボクはもう、プレアデスの声を聞きたくはなかった。なのに、まだ奴は話を続けやがる。
「科学研究者の最新技術についてちょっと話すね。さっきもチラッと言ったけど、ネズミの住む“伝説の理想郷”には、何重もの“結界”が張られてるんだ。そこで、科学研究者が開発したトンネル状の発明品を“結界”にくっつけて、中をくぐれば……」
「あーうるせえうるせえ。難しい事はそこに着いてから説明しろ」
「じゃあゴマくん、ルナくん、支度が終わったら一眠りして、山奥にある研究所に向けて出発しよう!」
プレアデスは袋から出した魚を頭から丸かじりした後、すぐに丸くなって眠りこけてしまった。
ほんの少しだけ見えた希望。
じめじめした地下室の中で、ボクもルナも眠りについた。




