第17話〜真っ黒い、地底の夜〜
地下室に取り残されちまった。
何かが腐ったような変な匂いもするし、ジメジメしてて居心地が悪りい。
部屋が広い事だけが、まだ救いだ。
食いモンは、プレアデスの奴が魚の缶詰を置いて行ったから大丈夫そうだが、こんな所に閉じ込められてるなんて、ボクにとっちゃ拷問と同じだ。退屈だし。
何時間、ここにいただろう。あー、外に出てえ。体を動かしてえ。
「おい、ルナ。ちょっと外へ出てみねえか?」
「ダメ兄ちゃん。危ないよ。外に出ちゃダメってプレアデス兄ちゃん言ってたじゃん」
「じゃあお前、そこで待ってろ。ボクは体動かしたくてもう限界なんだよ」
「ダメだってばー! もう、兄ちゃん!!」
ルナの忠告を無視して鉄の扉を開き、階段を上がってみた。
焼け焦げた匂いが鼻をくすぐる。
外は、真っ暗だ。
ボロアパートがあった場所は、瓦礫の山になっていた。
「何だ……この空は……?」
吸い込まれるような、真っ黒に染まった空が目に映った。
やっぱり、地底世界にも夜があるらしい。
だが空には、月も星も無え。ただ黒一色の闇が広がるだけだ。そんな夜空を見てると、背筋がゾクっとする。
周りには、誰もいねえようだ。
近くの建物はみんな瓦礫になっていて、所々に残る街灯だけが寂しく街を照らしている。
「ゴマくん! 外に出たら危ないよー!」
聞き覚えのある声だ。
「チッ、見つかっちまったか」
「早く地下室へ戻るよ」
「分かってらあ」
プレアデスの奴だ。額に擦り傷ができてやがる。
またいつバクダンが降ってくるか分かんねえんだろ? コイツ、よく平気でウロウロできるな。一体どんな立場なんだ。こないだの警察の奴じゃあなさそうだが。
「それより、何だ、あの空は。真っ暗というより、真っ黒じゃねえか」
「今は、“セントラル・サン”の輝きが弱くなる時なんだ。それが地底世界での夜なのさ」
「日が沈むって訳じゃねえのか?」
「日が沈むってどういう事? 地底世界では、“セントラル・サン”の輝きが強い時が昼、弱い時が夜なんだよ。よく見て。“セントラル・サン”が小さく光っているでしょ?」
プレアデスは黒い空の真上に、前脚を向けた。
見ると確かに、たった1つだけ、ひときわ明るい星が見える。
あれが、昼間に出てた地底のお日様って事か。
「僕の腕時計の、短い方の針が一回りしたら……つまり12時間が経ったら、また“セントラル・サン”が輝き出して夜が明けるんだ。昼と夜がそれぞれ12時間で、1日が24時間。7日で1週間。30日か31日で1ヶ月。12ヶ月で1年。これが地底世界での暦さ。今は222年2月22日、ノームの曜日さ。あ、曜日は全部で7日だから7種類あって――」
ちょっと何言ってるか分かんなくなったから、後は聞き流した。とりあえず、地底にも昼と夜があるってことは理解したぞ。
「――ってこと。あ、まずい。夢中で話しちゃった。早く地下室へ戻らないと」
「……お前、しっかりしてるようで、どっか抜けてるな」
「……ルナくんも待ってるから、早く入ろう」
何でかちょっと悲しそうな顔をしたプレアデスが、ゆっくりと鉄の扉を開けた。
ちょっと睨まれた気もする。
ボク、そんなに酷え事言ったか? ……いや、気にしすぎか。でもデリカシー無え事言っちまう癖は、メルさんやポコによく怒られてたから、直さねえと。
そういやメルさん、ポコ、ユキ……。アイミ姉ちゃんも……。今頃、めっちゃ心配してんだろな……。
地下室に入ると、ルナがめっちゃ頭を下げていた。
「すみません、プレアデスさん! 僕、止めたんですけど兄ちゃんが聞かなくて」
「いいよ、何事も無かったんだから。ニャルザル軍もいなくなったし、もう大丈夫だよ。それより、例の科学研究者と会ってきたんだ。遅くなったけど、君たちを地上に帰すための条件の話をするね」
やっと、か。
ボクらは一刻も早く地上へ、棲家のガレージへ帰りてえんだ。
一体、どんニャ条件を突きつけてきやがるんだ……?




