第19話〜プレアデスの家へ〜
目が覚めた。
相変わらず、ジメジメとした地下室だ。
頭がズキズキする。埃にまみれた空気のせいなのか、よく寝付けなかったのかもしれねえ。
ルナも、プレアデスの奴も、既に起きていた。
「おはよう、ゴマくん。出発するから、支度して」
「ああ……ちゃんと案内しろよ、プレアデス。おいルナ、さっさと顔洗いに行くぞ。水は汚ねえけどよ」
「うん……」
ボクらは地下室にある水道の、砂とか泥が混じった水で顔を洗った。プレアデスの奴は、食糧の缶詰をいくつもカバンに入れている。まさか、何日もかかるような旅じゃあねえだろうな?
支度を済ませて鉄の扉を開き、階段を上って、外に出た。
空は、相変わらず不気味なくらいの真っ黒だ。てっきり朝が来たものだと思ってたが、まだこんな真夜中だったのか。周りも誰も居なくて、静まり返っている。
「おかしいな。もう明るくなってるはずの時間なんだけど。時計が壊れたのかな?」
「プレアデスよぉ、お前おっちょこちょいなところあるから、時間間違えてるだけなんじゃねえか?」
「そんなはずはないよ……。それに、僕はおっちょこちょいじゃない。次からはそういう事を言うのはやめてね」
「お、おう……。すまねえ、怒ってるのか……?」
またデリカシーの無え事言っちまった。プレアデスの奴、どうやら自分の性格を気にしてるみてえだ。
クソ、次からは気をつけなきゃな。
他所の国のバクダンを受けて所々瓦礫の山になってるニャンバラの街を、3匹でひたすら歩いた。
ガラスとか釘みてえなものがあちこち散らばっていて、足元を見て歩かねえとケガしちまいそうだ。
「おい、まだ着かねえのか?」
「まだまだ道のりは遠いよ。まずは、あそこに見える僕の家へ向かうんだ。ちょっと休んでくといいよ。何日も空けちゃったから、掃除しなきゃいけないけど」
丘の上に、丸太を組んで出来た2階建ての大きな家が見える。
真っ黒な空の下、小一時間ほど、ボクらは緩い登り坂をひたすらに歩いた。
ようやく、丸太の家の前へと辿り着いた。
見たところ、部屋がいくつもありそうだ。屋根には煙突が、広いバルコニーには立派なイスがある。
庭には、グネグネ曲がった植物がいっぱい植えられていた。敷地にある広場には、プロペラのついた乗り物っぽい物がある。
コイツ、1匹でこんなデケエ家に住んでやがったのか。
「ここが僕の家さ。僕の小型飛行機に乗って空を飛んで、【ツメトギ山】の奥地にある研究所へ向かうよ。地上へと繋がる穴も、研究所のすぐ近くにあるんだ」
「クソッタレ、歩き疲れたぜ。前みてえに、あの美味えミルク出せ、ミルク」
「兄ちゃん、もう少しプレアデスさんに気遣いしなきゃダメだよ」
プレアデスは「部屋を軽く掃除するから待ってて」と言い、木の扉を開けた。
……が。
途端に、埃のニオイと、何やら色々混じった得体の知れねえニオイが鼻を直撃してきやがった。
「ゲホッゲホッ……! おい! 何だこのニオイは!」
「ゴホッ! ああ、ダメだ! とても誰かを入れられる状態じゃない! ごめんね、ゴマくん、ルナくん」
真っ暗な部屋に、紙屑の山が床に散らばっているのが見えた。魚の腐ったやつとかも無かったか……?
爽やかな雰囲気に似合わず、部屋はとんでもねえ事になってやがんだな……。ネコならもう少し綺麗好きでいろよ……。
「いや、前まではちゃんと綺麗にしてたんだ、本当だよ」
「言い訳はイイから、早く缶詰か何か食わせろ……フエックシュン!!」
「クシュン……! うう、寒くなってきたね」
急に風が冷たくなってきやがった。
ルナも鼻水垂らしてやがる。
「外も寒いし、もう小型飛行機で“ツメトギ山”へ向かっちゃおう。鍵開けたから、乗って」
「ん? あのプロペラがついた乗り物か? あれで一体どこを移動するってんだ?」
「飛行機だから、空を飛ぶんだよ」
「空だと!?」
デケえプロペラが前に1つ、小せえプロペラが左右両方に突き出た翼みてえなやつに2つ。まさか、これで空を飛ぶってのだろうか。
小型ヒコーキとやらの中は、前に運転席があって、後ろはちょうど2匹分が乗れる座席になっていた。
ルナと一緒に、乗り込む。ギリギリ手足を動かせるぐらいの広さだ。
運転席に乗り込んだプレアデスは、スイッチらしい物を押した。
ブルンッと、乗り物が震える。
「うおッ!?」
「ゴマくん、ルナくん、ベルト締めてね。行くよ!」
前に見えるプロペラが回り始めた直後、ヒコーキは敷地の外へゆっくり動き出した。
目の前は、一直線に伸びる道路だ。
周りの景色が、すげえスピードで後ろへと過ぎ去って行く。と思ったら、体が下方向へ強く押さえつけられた。ルナが「わぁー!」と声を上げる。
窓から下を見ると、明かりの灯る建物の数々が、みるみるうちに小さくなっていくじゃねえか。
ボクらは、真っ黒な空へと飛び立ったんだ。




