八巻(二十)
ハエルヌンによる春(七)
初夏[七月]。
鹿集館の跡地に、薔薇園[執政府]を移築した。その資金を薔薇園はラウザドから借りた。
ラウザドに出向いた際、サレがオルベルタ[・ローレイル]に、「少なくとも倍にして返してもらえよ」と言うと、彼は、「いえいえ、十二分に儲けさせていただいておりますから」と手を振った。
「まあ、儲け過ぎもよくないからな。私も、さいきん気をつけなければならないと常々思っている。本当だぞ」
そのようにサレが口を開くと、一瞬、お互い真顔になった後に、ふたりで笑いあった。
塩賊が退治され、塩田の操業と塩の運搬に支障がなくなると、ようやく、塩券の値が、前の大公[ムゲリ・スラザーラ]存命中に、見劣りしない額にまで戻った。それには、近北公[ハエルヌン・スラザーラ]の治世に入ったことも、大きく作用していたことだろう。
この値段で売るのならば、父ヘイリプのさまよう魂が荒ぶることもあるまいと、サレは塩券を渡すことで、オルベルタに負っていた借金を帳消しにした。
ようやく金に縛られる生活が終わって、サレは晴れ晴れとした気分になり、持病の胃痛も少し良くなった。
そして、隠居をさらに強く願うようになった(※1)
※1 そして、隠居をさらに強く願うようになった
後年、ホアラの整備に加えて、ウストリレ進攻問題で金が必要になると、サレは金に困る暮らしを常に送った。
この窮乏が、長子オイルタンを、進攻推進派に与させた要因のひとつと考えられている。




