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八巻(二十一)

ハエルヌンによる春(八)

 ラウザドからの帰路、執政官[トオドジエ・コルネイア]の豪華な邸宅で、サレは饗応を受けた。

 サレの杯に酒をそそぎながら、執政官が言った。

「坐っているだけで(わい)()が入ってくる、いい身分になれた。きみのおかげだよ」

「その代わり、お互い、悪名高くなってしまったな」

 しみじみとサレが口にすると、「何を今さら」と執政官が笑った。

「執政官。きみもそれだけの苦労をしたということだ。金は何に使うつもりだ?」

「さいきん、若い(めかけ)を囲い始めたのはいいが、宝石好きの金のかかる女でね。きみは何に使っているのだ。賄賂を受け取っていなくとも、ずいぶんと潤っているのだろう?」

「ホアラの整備に回している。道や水路を舗装したり、学問所をつくったり。コステラで出来なかったことをホアラでやっているよ。私の理想とする都市にホアラを変えてみせる。私の生きているあいだに、間に合えばよいのだが……。息子には息子の考えがあるだろうし」

 そのようにサレが語ると、「立派なことだ」と執政官がうなづいたので、「いや、きみ、そういうことじゃないよ。趣味なんだよ。そう、趣味」とサレは応じた。

 すると、執政官は、「なるほど、立派な趣味だ。しかし、少し危険な趣味でもある。私のような穏やかな趣味をきみも持つべきだ」と忠告してきた。

「考えておくよ。しかし、生来、女にさほど興味がないうえに、さいきんは元気がなくてね」

 サレが肩をすくめると、「おいおい。タバコの吸い過ぎじゃないのかい?」と、執政官が心配するそぶりをみせた。

「それもあるかもしれないが、どうも、近北公[ハエルヌン・スラザーラ]に深くかかわるようになってからのような気がする。あの方は、人の精気を吸い取るようなところがある」

「まあ、何でもいいが、野心を抱いていないことを示しておくに越したことはない。ほどほどに賄賂を受け取り、美しいだけの女にうつつを抜かしていると思われるのが、いちばん楽だよ。屋敷の中へ閉じ込めておけば、たいした悪さもしないからな」

 友人の忠告に、「それはそうだ。考えておこう」と、サレはいちおう同意してみせた。

 すると、「とにかく、用済みになった猟犬は、かわいいところや抜けたところを見せて、主人の愛玩物になるしか生き残れん。まだ、死にたくないだろう?」と、執政官が言ってきた。

 それに対して、サレは再度、「それはそうだ」と言いながら、深く首肯した。それから、そのまま、酒杯に映っている自分の顔を見た。若さはもう、ほとんど残っていなかった。

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