第七話 再び、あなたと
暗闇が晴れ、明るい光が目に入った。
「今日は恋人に花を贈る日だろう。公女がペオニアの花が好きと聞いて取り寄せた」
── その声に、息をのむ。
憎らしいくらい整った顔立ちに金の髪、赤い瞳が目の前にいた。
楽しげに笑いながら、いつもの席から私を見つめる。
生きている。
セドリックが。
……生きている。
「公女?」
その声すら、もう二度と聞けないと思っていた。
「こ、公女……?! どうしたんだ? ……どこか痛いのか?」
当惑した様子の彼の声がなんだかおかしくて私は泣きながら笑った。
そういえば、この頃はまだ『公女』と呼ばれていたっけ。
ああ、何もかもが懐かしい。
「大丈夫です……・感動して泣いているだけですから」
本当のことだ。感動している。あなたと再び出会えてこんなにも嬉しい。
ああ、今わかった。
私はこの人が好きだったのだ。いつのまにかあなたへの恋に落ちていた。
「それは……嬉しいな。わざわざ取り寄せた甲斐があったな」
ふっと小さく彼は笑む。
優しい顔だ。
「にしても、いつもなら恋人じゃないとか難癖をつけそうなのに、いったいどういう風の吹き回しだ? 公女も俺を好きなのだと誤解してしまうぞ?」
彼は悪戯好きの子供のように笑う。
以前の私は、そうあなたに言って花に罪はないからとペオニアの花束だけを貰ったの。枯れた後も栞にして、大事に持っていたの。
それなのに、あなたへの思いを自覚したのが遅すぎた。
でも、今の私は自分の気持ちを知っている。
素直になれる。
「誤解じゃないですよ。私は殿下をお慕いしていますから」
私がそう言うと、彼は一瞬呆けた顔をした後、信じられないような顔をした。一瞬見せた喜びはすぐに掻き消え、そこには戸惑いがあった。
「公女、いったい何が起こったんだ? いつもの君じゃないぞ」
彼は心配そうに手を伸ばして私の涙をハンカチで拭ってくれた。
「あ……」
だが、話そうとすると喉がつかえて嗚咽が出る。
苦しくて、息がうまく吸えない。
── あなたが死んだ日のことを思い出してしまう。
話したいことがたくさんあった。感謝の言葉、愛の告白、だけど……それよりも、あなたに伝えないと!!
狩猟パーティであなたは怪我をするの。
罠にはめられるの。
あなたは……殺されるの!!
だけど、言葉が出てこない。
焦れば焦るほど、呼吸すらも苦しくなる。
「公女、もう家に帰って休め」
彼は私の背中をぽんぽんとあやすように叩いた。
「何があったかわからないが、ちゃんと聞く。そうだ、明日は朝一番にここへ来よう。それでいいか?」
彼の言葉に私は子供みたいに頷くしかできなかった。
私は彼を通りまで見送った。
馬車が小さくなるまで、ずっとずっと。
──今度こそ、あなたを死なせない。
たとえ誰を敵に回しても。




