第四十三章:エルの自己犠牲。エラーコード:E-99「基盤の初期化(強制ラムクリア)」
「……まだ、終わってない」
絶体絶命のその時、冷徹な少女の声が響いた。
エルが、ノイズまみれの身体を引きずりながら、魔王のホストコンピューターの前に立っていた。その瞳には、今までにない強い決意が宿っている。
「エル!? 離れろ、お前まで消去(BAN)されるぞ!」
俺の声に、エルは静かに首を振った。
「私……設定L。もともと、この店(世界)のバグを吐き出すために作られたデバッグ基盤。
だから……店長のアクセスポートの場所、全部わかる」
エルは、自らの華奢な両腕を、無数にうねるサーバーの光ケーブル群へと深く突き刺した。
バリバリバリバリッ!!! と、青白い激しい電流とエラー火花がエルの身体を苛み、ゴシックドレスが破れてその白い肌を容赦なく焦がしていく。
「あぐっ……あ、あああああっ!!」
「L!? 何をする気だ、止めろ!
貴様のような廃棄物がメインサーバーに直接干渉などすれば、基盤ごと脳が焼き切れるぞ!」
魔王が初めて焦りの表情を見せ、タブレットを操作しようとする。
「……巡。私と出会ってくれて、ありがとう」
エルが、電流に身を焼きながら、初めて綺麗な、少女らしい笑みを俺に向けた。
「私、失敗作だけど……巡の隣にいる時だけは、設定6よりも、輝けた気がする。だから……いって」
エルの全身から、最大出力の『設定Lエラー波動』がサーバーへと逆流した。
『致命的なエラー:E-99(基盤のショート)』
『警告:これ以上のエラーを許容できません。安全装置起動──システムを「強制ラムクリア(初期化)」します』
ドゴォォォォォンッ!!!
メインサーバーが一斉に爆発音を立ててショートし、部屋全体が激しい煙に包まれた。
魔王のタブレットの画面がブラックアウトし、俺を消し去ろうとしていた「出禁シーケンス」が完全に停止、俺の肉体が実体を取り戻した。
だが、その代償として、エルは光ケーブルに絡まったまま、ぐったりと力を失い、その瞳から光が消えかけていた。
「エル!!」
俺は実体化すると同時に駆け寄り、彼女の細い身体を抱きしめた。
「巡……。私、ラムクリア(記憶消去)されちゃう、かも……。でも、店長権限は……1ゲームの間だけ、止めたから……。あとは、お願い……」
そう言い残し、エルの身体がカチリとフリーズするように静止した。




