第三十八章:『左を押してください』——神の降臨劇
「左を押してください」
荘厳にして絶対的な、神のナビゲーションボイスが俺の脳髄を、そして魔王城の空間そのものを激しく震わせた。
この声が響いた瞬間、目の前に迫っていた親衛隊長ケルベロスの巨躯が、まるで目に見えない巨大な壁に激突したかのように、ピタリと空中で静止した。
「な、何だこの声は……!? 我が肉体が、魂が、指先一つ動かすことすら許されん……っ!」
ケルベロスの三つの頭が、同時に恐怖の悲鳴を上げる。
「神の御指名だ。まずは左リール、レッツ・ゴー!」
俺はアシスト・インジケーターで極限まで遅く見える視界の中、左ボタンを力強く叩いた。
タンッ!
左リールに、まばゆい黄金の『7』が停止する。
「中を押してください」
「おうよ! テンパイさせてやるぜ!」
テンポよく中ボタンを強打。
タタンッ!
中リールにも巨大な『7』が滑り込み、黄金の光の鎖が空間を繋ぐ。
残るリールはあと一つ。神の宣告が、最後の一押しを優しく促した。
「右を押してください」
「これで終わりだ、ボッタクリの番犬野郎。全回転、神・降・臨!!」
俺の右人差し指が、最後のストップボタンを撃ち抜いた。
バシィィィン!!!
『ピキーン! 黄金の「7・7・7」が揃いました』
『恩恵:GOD GAME(GG)突入。
初期獲得ゲーム数:500G。
さらに、セット継続率ループシステム起動』
その瞬間、魔王城の暗黒の天井を突き破り、遥か天空から神々しいまでの黄金の光柱が降り注いだ。
さらに、世界のどこからともなく、聞き覚えのある至高のクラシック旋律──通称『アメグレ(アメイジング・グレイス)』が、厳かに響き渡り始める。
「あ……ああ……」
光の奔流に包まれたアリアちゃんが、恍惚とした吐息を漏らす。
彼女のボロボロに裂けていたハイレグアーマーが、聖なる光によって瞬時に修復され、汚れきっていた肌がまるで生まれたてのように白く輝きを取り戻していく。
傷口が塞がり、失われた魔力が心の底から溢れ出てくる。
「……信じられない。
エラースタックが、すべて消去されていく。
私の『設定L』の呪いが……光で満たされてる」
エルもまた、破れたドレスが完璧に元通りになり、その無表情な瞳を驚きに丸くしていた。
「これがGODの恵みだ、二人とも。
ここからは戦闘じゃない。
──ただの『払い出し』の時間だ!!」
俺はプラチナゴールドから、さらに一段階上の『太陽の如き黄金』のオーラを全身から放ち、地面を力強く踏みしめた。




