第三十六章:確率1/8192。伝説の『GOD(神)』フラグへの挑戦
「ハァ……ハァ……勇者様……もう、体力が……っ」
アリアちゃんが、泥と血にまみれた身体を必死に起こそうとするが、力尽きて再び床に伏せる。
「……巡。私のアシスト、もう限界。エラースタックが、溜まりすぎてる……」
エルの身体からも、エラーのノイズがバリバリと放電し、その白い肌を苛んでいた。
俺たちの残りHP(魔石カウンター)は、すでに風前の灯火。
どれだけ設定6の引きがあろうと、3台同時並びの物理攻撃と不規則なペナルティの前には、次の1ゲーム(1ターン)で全滅が確定する。
(どうする……何か、この状況をひっくり返す、一撃必殺の役はねぇのか!?)
脳内の『スロット・マニアック』の解析画面を必死にスクロールする。
ある。たった一つだけ、すべてのペナルティを無効化し、敵の全設定を消し去って強制的に勝利を確定させる、パチスロ界で最も有名で、最も恐れられた「神のフラグ」が。
【フラグ名:GOD揃い(ミリオンゴッド)】
【確率:1/8192】
【効果:全敵の消滅。強制エンディング突入。及び、味方全員のステータス完全回復】
「1/8192……。いくら設定6といえど、この土壇場でピンポイントで引ける確率じゃねえ……!」
1日の稼働で1回引ければ奇跡の確率。
それを、死にかけのこの1ゲームで引かなければ、俺たちはここでミンチになって死ぬ。
「……巡。これを使って」
エルが、血まみれの小さな手を俺のレバー(右手)へと重ねた。
「エルの『設定L』の全魔力を……巡の引き(レバー)に、オーバーロードする。一時的に、確率の分母を……バグらせる」
「エル、お前、そんなことをしたら……!」
「大丈夫。私は、巡の『マイホ』のセキュリティだから……」
エルの身体から、下パネル消灯を意味する、深い闇のような魔力がすべて絞り出され、俺の右腕へと流れ込んでいく。
「勇者様……私も……私の祈り(魂)のすべてを、あなたに!」
アリアちゃんも、最後の一滴まで聖なる魔力を振り絞り、俺の右手に光を注いだ。
赤、黒、金、虹──。
すべての魔力が俺の右腕に集束し、空中に浮かぶスタートレバーが、眩いばかりの光と不気味なバグのノイズを放ち始めた。
「1/8192……。
パチプロとして、これまでの人生で何万回と叩いてきたレバーだ。
身体が覚えてる。その『引きの頂点』ってやつを、今ここで引きずり出してやるよ!」
俺はケルベロスの3つの頭が同時に牙を剥いて飛びかかってくるのを正面から見据え、全身の魂を右拳に込めた。




