90:悲願達成。しかし……
「父上、申し訳ないのですが、私は既に『誕生の証』を拓海に与えてしまいました」
ロードクロサイトが固まった。
「拓海は私に、兄上を、カーネリアンを探すために、魔法使い達が暮らすテルギア魔法国へ向かうと言い出しました。私が自分の気持ちを押し殺し、クレメンスと婚約することを見ていられないと言って。兄上が戻れば、私は次期当主の座から外れることができるからと。
……父上は私が自分の気持ちを押し殺していることに、気づいていましたか?……私の心は拓海にありました。でも拓海はそれを知らずにその提案をしました。私はその気持ちに答えるために、『誕生の証』を拓海に与えました」
「ベリル、なんてことを……」
ロードクロサイトは、ベリルのそばに立つ俺を見て、息を飲む。
『誕生の証』に気づいたのだ。
「ゼテクは『誕生の証』を身に着けた拓海を、この別荘からさらいました」
「!」
ロードクロサイトの表情が、驚愕へ変わる。
「その意味は、父上もお分かりですよね?」
無反応だが、レッド家当主であるロードクロサイトが、その意味を分からないはずはない。『誕生の証』をつけた俺のおかげで、ゼテクが逃走をやめ、交渉の席についたことを、ベリルは話した。
「最終的にゼテクは、私の提案をすべて飲みました」
「……ゼテクは魔法使いだ。『ザイド』の中で希少な存在であることは、間違いないだろう。だからと言って、そなたの提案に独断で返事をできるはずがない」
衝撃を受け黙っていたロードクロサイトが、その動揺を抑え、ベリルの話に反応した。
ということは『ザイド』の一件は、ロードクロサイトの中でとても大きい意味を持っているのだろう。
「父上、現『ザイド』の頭領こそが、ゼテクなのです」
「何……? それは本当なのか⁉」
「はい。私が直接確認したので、間違いないです」
「なんと……。そうであったのか。ではゼテクの返事が『ザイド』の総意になるのだな」
「はい」
ロードクロサイトは背もたれにもたれた。
「……ベリル、よくやった。魔術が効かない体質を多く擁する『ザイド』を手中に収めたとなれば、テルギア魔法国も我々を、ブラッド国を無視できなくなる。これまで以上に交易がしやすくなるし、他の暗殺組織への牽制にもなる。ブラッド国内に潜む『ザイド』以外の暗殺組織は手を引くだろう。……まさかレッド家の悲願をベリル、そなたが成し遂げるとは……。本当に奇跡だ」
……! なるほど。そういうことだったのか。
ロードクロサイトは目を閉じ、悲願達成を噛みしめているようだったが、すぐに目を開け、ベリルを見る。
「確かにベリル、そなたはよくやった。帝王学のために旅に出たいというなら許そう。だが」
「だが拓海との件は別だと仰りたいのですね」
ロードクロサイトは黙った。
「ではこう考えてはいかがでしょうか、父上。拓海が兄上を探すため、テルギア魔法国へ向かうことは、父上にとってメリットしかないのではないでしょうか?
なぜなら拓海が無事兄上を見つければ、正当なレッド家次期当主が戻って来るのです。もし拓海が兄上を見つけられず、かの地で不慮の事故により命を落とせば……。『誕生の証』は無効となり、私はレッド家次期当主として、クレメンスと結婚することになるでしょう。
後者の場合、特殊な血を持つ拓海を失うことになりますが、拓海は偶然手に入れた存在。最初からなかったものとすれば問題はないはずです」
ロードクロサイトはベリルの言葉に、俺がカーネリアンを探す意味を考え始めたようだった。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『ベリルの完璧な計画』
『信じられないぐらいゾクゾクした』
他1話です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています‼






