91:ベリルの完璧な計画
「父上は拓海に『ザイド』の精鋭を護衛につけ、テルギア魔法国へ兄上を、カーネリアンを探し出すように命じればいいだけなのです」
護衛……という名目だが、その実はいざとなった時に、俺を事故に装い暗殺するための要員……。
沈黙が続いた。
ベリルはその沈黙を楽しんでいるようだった。
「……ベリル、そなたはそれでいいのか? 拓海を……失うかもしれない可能性があるのに」
「心配には及びません。拓海が失敗すると、私は考えていないので」
「……ベリル、そなたがそう言うからには、カーネリアンを見つけられる算段がついているのだな?」
「さあ、それはどうでしょう。でも父上は私がどんなヴァンパイアであるか、よく分かったのではないでしょうか」
「そうだな。ベリルは自身の働きでそれを示している。あの『ザイド』を落としたのだから……。一切の犠牲を払わずに。……良かろう」
ロードクロサイトが突然俺を見た。
「レッド家当主である、ロードクロサイト・W・レッドが正式に命じる。拓海・吉沢、お前は仲間を集い、レッド家長男である、カーネリアン・A・レッドの探索のため、テルギア魔法国へ向かうように。旅に必要な資金は私が全額提供する。お前の旅の護衛に『ザイド』の精鋭もつけよう」
俺は背筋を伸ばす。
「わたくし、拓海・吉沢はレッド家当主である、ロードクロサイト・W・レッド様の命に従い、レッド家長男である、カーネリアン・A・レッドの探索のため、テルギア魔法国へ向かいます」
主から命令を受けた時の答え方、ヴァイオレットに教えてもらっておいて良かった……!
「よろしい。出発は来月中に。それまでにすべての用意を整えよ」
「御意」
俺は一礼した。
「父上」
「なんだ、ベリル?」
「まだ伝えていないことがあったのですが」
「な、に……?」
ロードクロサイトの表情が曇る。
「まず一つ目ですが、クレメンスは私と婚約しても、後に解消することに同意しています」
「……クレメンスが同意しているだと⁉」
「クレメンスにもまた、想い人がいるからです。その相手は……さすがの私でも想像できていなかった相手ですが。ですからクレメンスもまた、私以上に拓海が兄上を発見することを願っています。当然、拓海の旅の仲間に加わるでしょう」
ロードクロサイトは眉をひそめる。
「……私の婚約者であるクレメンスが拓海に同行する……。そして私は帝王学のために旅へ出ることを許されている。ならば婚約者であるクレメンスに私が同行し、帝王学も学ぶことは、世間体を考えても何も問題ないですよね。しかも未だ謎に包まれているテルギア魔法国について学ぶことは、大きな意味があります」
ロードクロサイトは「やられた」という顔をしている。
「そしてもう一つですが、ゼテクには『拓海には二度と手を出すな』と既に伝えてしまっているのです。血の盟約で。父上もヴァンパイアが使う血の盟約の重みは、ご存知ですよね。もしゼテクが血の盟約を破れば、彼に待つのは死です。盟約を守り続ける限り、ゼテクは私からの加護を受けられる。そして『ザイド』では頭領の命令は絶対。ですから……」
「……もうよい、ベリル」
ロードクロサイトはぐったりした様子で椅子にもたれ、両手を肘掛けに置き、盛大なため息をついた。
「……ベリル、そなたこそレッド家次期当主に相応しいと父は思っている。だが、そなたはもう拓海を選んでしまった。そしてもう私の外堀をすべて埋めてしまっている。好きにするがいい」
ベリルは嬉しそうに俺の手を掴む。
そしてダメ押しのようにこう言った。
「父上も母君とさらに仲睦まじくしてくださいね。私は歳の離れた弟ができないかと、いつも考えていますから」
ロードクロサイトが頭を抱え、オンラインによる会話は終わった。
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